だって魔王だし?
教会が跡形もなく吹き飛ぶ。通常の炎よりも高熱で金属すら容易に溶かすプラズマフレイムによって焦土と化した。
この魔法を受けて平気な人間なぞ存在しない。
メイスを地面に突き立て、サラマンダーは鼻を鳴らす。
『虫けらにこの魔法を使うことになろうとは』
明らかに子どもだった。しかしこちらに向けてくる瞳は輝きに満ちており、見せつけてくる魔法も一級であった。
なぜそんな人間がいたのか謎ではあるが、いなくなれば気にする必要もない。
奇跡を起こすと言われる秘宝の入手も目的にあり、追い詰めていた姫が持っていた可能性もあったが、背に腹は替えられまい。秘宝がなくなれば人類の抵抗手段が減る。秘宝がなくとも魔王は強い。
『……ん?』
指を鳴らす音と共に視界が晴れる。
衣類がボロボロでありながらも無傷の子どもとその後ろに、気絶して倒れているようだが、完全に無傷の騎士と姫がいた。
『ば、ばかな』
本気を出していないとはいえ人間には防ぎようのない一撃。それをさも当たり前のように受け切っている子どもへメイスを向ける。
『何者だァ! オマエぇ!』
子どもは自慢気に薄い胸を張り、笑みを見せた。
「魔王さ、ボクは」
不気味に金の瞳を光らせた。
ロ
あ~危なかった。
咄嗟に断熱三重結界張ったけどボクちょっと燃えて焦ったよ。ボクはともかくガリアとセーナ姫は生きていられないだろうから守れて良かった。
ついでにちょっと寝てもらった。刺激強そうだし。
『ま、魔王だと……ふざけるな』
サラマンダーが鎧の隙間から火を噴き出しながら怒りをあらわにする。
『魔王とは! 我らが王! オマエのようなガキでは、断じてない!』
炎に体が包まれる。
『その驕り……万死に値する!』
炎を突き破って赤褐色の鱗を持つ、巨大なワニが出現する。サラマンダーの真の姿だ。炎の鎧で火属性の攻撃は全部無効化される。某現原子怪獣みたいなスケールだ。
『滅ぶがいい……虫けら!』
大口を開けて口内が燃え盛る。ブレス攻撃の予備動作だ。
ボクは口をすぼめてゆっくり息を吸う。肺が高熱で熱くなるのを感じた。
『ファイア……』
「ストーム……」
互いに放つのは火属性のブレス。「ファイアストームブレス」という、サラマンダーの必殺技だ。
『「ブレスッ!」』
灼熱の嵐がぶつかり合う。
いやぁブレスってカッコイイよね。やってみたかったんだ。ボクがやったらゲ
熱風が髪を撫で、砂塵を飛ばす。サラマンダーは力を強めてブレスの火力を上げる。それで、ボクのブレスが押され始める。
「ぐぎぎぎ……ぐぬぅう」
踏ん張る。
ボクとサラマンダーの差は非常にシンプルだ。
ひとつ。魔術での再現と身体機能の差。
単純にブレスを吐くことに適した身体構造をしているであろうサラマンダーに比べてボクは魔術で無理やり再現しているに過ぎない。同じ技でもパワーの出しやすさというのはやはり身体機能として完成されている方であろう。ボクの魔術も予想であり、機能を完璧に再現できているわけではない。
あとは体格差だ。
肺活量もロリロリ魔王のボクと超巨大怪獣のサラマンダーじゃ段違いだ。吐き出せるブレスの出力も断然違う。
そこらのハンディ掃除機でダ
ならなぜ劣勢にも関わらず持ち堪えられているのか。
それはね。
ボクはとっても強い魔王だから!
魔術なら誰にも負けないもんね。
拳を握りしめる。そこに光が集まっていく。
『グォオオオ!』
雄叫びと共にブレスの火力が上がり、最後のひと押しとばかりにボクのブレスを圧倒する。
ボクは抵抗をやめ、ブレスを中断する。
「こひゅー」
熱風を吸う。焼けるような空気が肺に入ってきた。
「ファイア」
ボクは肺目掛けて光を宿した拳を叩きつける。魔力と空気を拳から肺へ無理やり入れる。そうしてエネルギー源を補充した。魔術と呼吸で即席ながらも、十分な空気と魔力と熱を肺に満たす。
「ストぉーム……」
身体は吸血鬼ベースだからね、再生力高いしこういう無茶もできるんだ。
口を窄め、手を添える。大声を出すときのように口の端に手を当てて、ブレスに飲み込まれるギリギリでブレスを放った。
「ブレスッ!」
ボクのブレスが押し返す。ボクとサラマンダーの間まで押し返してそのまま拮抗した。
そして数秒の激突の後、嵐は晴れた。相殺で互いのブレスが終わったのだ。
『ぐっ……』
「……ひー、ひー」
互いに息を乱しながら睨み合う。
というか普通に強いな。推奨レベル三十の強さじゃないでしょ。さっきも推奨レベルより圧倒的に上のレベルの魔法使ってたし。
エリアボスは魔王直属の強敵と思ったほうがいいかもしれない。ゲーム都合で弱かっただけで実際は同列くらいに強いのだろう。
『オマエ……!』
明らかな怒りをむき出しにして、サラマンダーは口を開く。
しかし、すぐに頭を振った。炎がサラマンダーの体を包み、鎧姿に戻る。
『この勝負、預ける。この次まみえる時まで、生きていることだな』
背を向けてガチャガチャと遠ざかるサラマンダー。
「逃げるのかい」
『調子に乗るな! オマエとは炎で決着をつける。ここは相応しくないだけだ』
そう言ってサラマンダーは飛び去った。
ボクは後ろを向く。防御結界で守っていたふたりは無事だった。
炎が自慢のサラマンダーだ。何かしらプライドが許さなかったのかもしれない。
うーん、次までにもっとブレスの吐き方を研究しておこうか。
ゲーミング魔術は試す機会がなくてほとんど机上の空論だからなぁ。ここであれこれ試せるのはいいぞぉ。
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