ゲーミング魔術

 魔術というのは人間が体内に生成するエネルギーである魔力を消費して発動する。

 ボクの膨大な魔力でゴリ押せば発動できる魔術は多いが、魔術の発動のしやすさ、強固のなりやすさはある。


 魔術の発動は「意味のある儀式」を行うこと。意味のある言葉、魔力が脳を通って吐き出される言霊。発動させる魔術の効果に関連があり、かつ魔力を通しやすい素材、アイテム。そして意味を込めた方陣。


 魔力は電気みたいに大体のものに通る。魔術は要は昔の儀式とかおまじないだよね。効果が出る出ないの差は魔力の有無だね。


 ボクは指パッチンとクソつよ魔力で魔術を発動できるんだけどね!


 元来持っているものにプラスして成長と経験から得た最強の魔力だ。


 ゲームの固定モーション、あれはそのまま意味のある儀式として機能する。指パッチンをしなくとも固定モーション込みの攻撃、回避行動を魔術として発動させられる。設定資料を読んだり、予想で仕組みを構成し、ゲーム内通りの詠唱やモーションを組み込み、魔術として完成させる。


 ゲーミング魔術とはパクリである。


 小学生がアピーンストラッシュとか螺旋ピーとか、ピーの呼吸とか、ライピーーキックとかそういうのを真似するのと同じで、ボクは影でこっそりゲーミング魔術を開発し続けた。なぜならカッコイイから。あれ? 今の子って何のマネするんだろ。領域展開? 黒 ピー?


 あの電気の紐でシャドーボクシングするように、特に実践する場なんて欠片もないのに。


 でもここなら、サラマンダーサンドバッ……ゲフンゲフンなら試していいのではないだろうか。許されるのではないだろうか!?


 さっきもちょこっと使ったけど、もっとやっていいよね!? ね?


『震えて声も出ないか。今になって己が今どんな立場にいるかわかったようだな』

「異世界って……」


 ボクは身を捩って、お腹を抑える。


「素敵だぁ……」

『……は?』


 よぉし! あれやろうあれ!


 ボクは床を蹴ってサラマンダーへ突撃する。


『血迷ったか』


 メイスが落ちる。ボクは半透明の青い魔術の盾を形成するとメイスの衝突に合わせて振るう。


「パリィ!」


 左手の盾で攻撃を弾いて大きく体制を崩す。


「かーらーのぉー」


 右拳に魔力を集める。


「ロケットぉ……」


 そして右手から魔力の拳を飛ばす。


「パアァンチッ!」

『うぉごッ!?』


 サラマンダーは大盾でロケットパンチを防いだ。


 ボクは左手に熱を宿す。


「ライトニングランス!」


 デザイアメイロにて習得レベル五十のライトニングランスを当てる。


 高火力低燃費というとっても便利な魔術だ。縛りプレイで重宝される。というか初期レベル制限縛りでは最強魔法だ。


『うぐっ……』


 よろめくながらサラマンダーが呻く。


「オラァ!」


 蹴りと共に飛び込む。


『調子に、乗るなァ!』


 サラマンダーが叫ぶとサラマンダーの体が爆発する。赤熱爆破という、サラマンダーの第一形態における大技だ。


 ボクの体が吹っ飛ぶ。


「マオ殿!」


 吹っ飛んだボクの体をガリアが受け止めてくれる。


「ありがとうガリア」

「マオ殿……姫を連れて逃げなされ」


 真剣な眼差しで提案をしてくるガリアに、ボクはぶんぶんと首を振った。


「逃げるだなんてもったいない!」

「……なんて?」


 ガリアの目が点になった。


『確かに、オマエは魔法使いとしては上々らしい。だがそれは人間という虫けらの中では、という話だ。オレに挑んだことを後悔するがいい』


 肩を震わせて怒りを滲ませながらサラマンダーはメイスを高く掲げる。


 メイスの上に炎の球体が生成され、風を取り込み、大きくなっている。


 …………あれ?


「プラズマフレイム?」

『ほう知ってるか』


 サラマンダーが使わないはずのデザイアメイロの魔法だ。


 だってプラズマフレイムはゲームの終盤で出てくる炎魔法と雷魔法両方使える魔物が放つ高火力の魔法だ。各属性の最強魔法には及ばないがそれに近い威力の魔法。推奨レベル三十のサラマンダーが使っていい魔法ではない。


『ならこの魔法の威力は知っているだろう。この建物と共に消し炭になるがいい』


 メイスの動きに合わせて巨大な火球がボクたちに迫る。


 そして、全てが光と熱で埋め尽くされた。

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