エリアボスサラマンダー!

 教会周りの火を消し終わり、ガリア(仮)と向き合う。


「私はホロービタンダ王国騎士団長、ガリアである。貴公の名を教えていただきたい」

「旅人のマオだ」


 異世界から来た魔王、マキナ・ディベリエウスですっ(きゃぴ!)とは口が裂けても名乗れないので、とりあえず旅人ということにした。ゲームと同じ世界なら死んでも名乗れない。


 というかやっぱりガリアだったのか。ゾンビ状態じゃないガリアなんてレアだな。


「命を救っていただき感謝する」

「気にしないで。あれくらい大したことないから」

「あれを大したことないとは、さぞ高名な魔法使いと見受けられる」


 ボーンキングの推奨レベルは二十五レベルで、エリアボスのサラマンダーは三十だ。


 ゲームでいうと最大上限が百レベなので、まぁ序盤の関門といったところだ。全体的にみれば大したことない。


 ゲームの中での話だけどね。


「それよりも怪我しているようだね」


 ボクは指を鳴らして回復魔術を使う。ガリアの傷を綺麗さっぱり治した。


「……これは回復魔法か。マオ殿は魔法の幅が広いのだな」

「まぁね」


 ガリアは顎に手を当て、難しそうに考え込んだ後、教壇に向かった。教壇をずらして下の蓋を開ける。あぁそういえば地下室に続く隠し階段があったな。ゲームと一緒だ。


「ガリア!」


 階段を駆け上がって出てきた影がガリアに抱きつく。


 金糸のような髪に翡翠の瞳を持つ、小柄な少女だった。胸元に宝石がはまっていたであろうパーツのみの首飾りがある。


 なんだこの美少女!?


 デザイアメイロ内でホロービタンダのお姫様は超絶美人みたいな会話が聞けるんだけど生死不明というかほぼ死んでる扱いだからお目にかかれたことないけどもしやこの子がホロービタンダ王国の姫!?


「この方はホロービタンダ王国の王女、セーナ様でございます」


 優しい声音で姫様を紹介される。


「姫様、こちらの魔法使いマオ様が私たちを救ってくださいました」

「まぁ……マオさん。ありがとうございます……!」


 涙ぐみながら喜ぶセーナ姫。

 絶対ゲームに出てたら人気出てたんだろうなぁ。


「突然天井から落ちてきときは驚きましたがな」

「ボクもびっくりさ。まさかいせ……ごほん、突然教会に飛ばされたんだから」

「突然……?」


 ボクの話に首をかしげるガリア。しかしセーナ姫はぱっと顔を輝かせた。


「きっと秘宝のおかげです!」


 首飾りを持ち上げる。


「地下で必死に祈ったのです。神様に」


 秘宝……? ゲーム内でガリアを正気に戻した亡国の秘宝かな。


「おぉ、秘宝が応えてくださったのか」

「はい! 石は砕けてしまいましたが、ガリアの命の比べたらなんでもありません!」

「姫様……ありがたきお言葉」


 うーん、つまり秘宝が凄い力を持ってて異世界に穴を開けてテンチョーを引き込もうとしたってことかな。そうだとしたらテンチョーがこっち来たらチートに覚醒したりしていたんだろうか。


 いやでもテンチョーにこっち来てもらうのは酷だな。あの人シングルマザーだし。あの人地味にデザイアメイロのRTAリアルタイムアタックの記録保持者だったから、デザイアメイロの世界に転移できるのは嬉しいだろうけどそれ以上に子どもが心配になるだろう。転移を喜べはしない。


 やはりボク。ボクが来て正解だ。そもそもチート能力もらえるかわからないし。


 それに。


『──ほう、ボーンキングを倒したか。虫けらにしてはやるようだな』


 ゲームとこの世界が全く同じという保証はない。


 背後で声がしたので振り返ると赤熱している鎧がいた。真っ赤な西洋甲冑で、煙を噴いている。左手には大盾、右手には大型のメイスがあった。


「貴様は……」


 ガリアがセーナ姫を庇いながら剣を構える。セーナ姫は震えながらガリアの腰に抱きついた。


「わぉ、サラマンダーだ」


 デザイアメイロにて序盤のエリアボスとなるサラマンダーがそこにいた。


 鎧姿は第一形態だ。体力を削ると炎を纏った大ワニの姿になる。どっちもカッコイイんだよね。


『我はサラマンダー。この国を滅ぼす者だ。残りは貴様らだけ。それで終わりだ』


 指をさされる。


「させるとでも?」


 ボクは二人の前で腕を組んで立つ。


『誰だ貴様』

「フフフ……ただの旅人さ」

『そうか』


 サラマンダーは頷くと、


『では死ね』


 高く跳躍してボクにメイスを叩きつけてきた。


 ボクの仕込んでいた防御魔術が発動し、メイスを弾く。魔力の壁で一度だけ攻撃を防ぐ魔術だ。


「危ないな」

『……ほう? どうやら苦しんで死にたいようだな』


 メイスに炎が付与される。

 燃え盛るメイスがボクに叩きつけられた。


 防御魔術を発動して弾く。


「あっつぅ!」


 メイスは弾いたが火がボクに降り掛かってきた。思わず叫んでしまう。


 急いで火を消す。


「ふぅー」

「マオ殿! 前!」


 へ?


 ジャージが燃えなかったことに安堵しているとメイスが降ってきた。


『さらばだ』


 急いで拳に保護魔術を施して、握りしめる。そしてメイスを殴った。


 メイスを押し出されてサラマンダーがよろめく。


「そりゃ!」


 そこへ飛び蹴りを入れた。サラマンダーは咄嗟に持っている大盾で身を守るが衝撃を殺しきれず、後方へ下がる。


『……ほう? 少しはやるようだな』

「フフン、ボクはチョー強いからね」


 胸を張りながら、後ろを気にする。


 今更だけど……ボクの強さってデザイアメイロ換算でいくつなんだろう?


 流石に古で封印された魔王なんだから最低でもマックスは行っててほしい。だって魔王なんだもん。


 まぁボクの身体能力でサラマンダーを怯ませられるということはサラマンダーは倒せるだろう。


 一ダメージでも入れば倒せる。ゲームが教えてくれた。いやまぁ無謀なんだけど一ダメージだけで倒し切るのは。


 ボクは体を震わせた。

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