ジャージ魔王、無双する

 ボクは周りを見渡す。見知らぬ場所だけど構造が見たことがある。普段なら忘れるが最近クリアしたばかりのデザイアメイロに合致するものがあったからわかった。


 廃墟にされた教会だ。


 デザイアメイロでは大ボスポジションをそのエリアを支配しているからエリアボスっていうんだけど。序盤のエリアボスであるサラマンダーと戦う場は滅んだ国、ホロービタンダになる。その前座、中ボスがボーンキングだ。


 ボーンキングを倒すと手に入る火ネズミのマント……たぶん鎧にひっついている赤黒いマントなんだけど、それがサラマンダー相手に有効なので装備的にも倒したい相手になる。そいつと戦うのが廃墟にされた教会だ。


「ふむ」


 とりあえずなんで転移したのか考えないようにしよう。重要なのは今ボクが敵意を向けられているということだ。


『キサマ、何者だ』

「……ボクかい? ボクは通りすがりロリっ子だ、覚えておけ」


 髪をかきあげながら返す。コロンと首をかしげられた。


『フザケてるのか』

「うーん、決めかねてるところ」

『……死ね』


 フレアぽい魔法……というかフレアでいいしょ……が放たれる。ボクは指を鳴らす。


 魔術を無効化する──まぁあの魔力を吹き消して消滅させる魔術だ。


「おぶっ」


 全然消えなかった。まともにフレアを食らう。


 まぁボク丈夫だから平気なんだけど。なんだあのフレアは。この世界の魔法とボクの魔術とじゃ仕組みが違うのか。世の中甘くないね。


『効かないか。その奇っ怪な衣服、火ネズミの素材で出来ているな』


 火ネズミは序盤に出てくるの雑魚魔物だ。中ボスのマントの素材になるくらい火耐性だけが高い。


「……いやポリエステルのドッキジャージだけど」


 狂安の伝道師ドッキドキ。コスプレとかでよくお世話になるディスカウントストアだった。売ってるコスプレ衣装は安っぽいんだけどまぁゲームショップの客引きで使うだけだし、十分というか。


 そこで質の高いジャージが安く買えるのでルームウェアとして買ったのだ。燃えてないのは、まぁ服に仕込んだ防護魔術のおかげでしかない。


『これならどうだ小娘!』 


 ボーンキングが手を挙げ、投げるようにボクへ向ける。するとボクにゾンビが殺到してきた。


『いくら丈夫だろうと滅多刺しにされればひとたまりもあるまい』


 先頭のゾンビが剣を振り下ろしてくる。ボクはそれをすっと避けると剣を手首ごともぎ取った。


「ゲーミング剣魔術、嵐撃!」


 ゲーミング剣魔術。それはゲームに出てきたカッコイイ技を魔力と力技で再現した、ただのゴリ押しである。


 風を纏った剣撃が、ゾンビたちを斬る。身体能力に任せて振るいまくった斬撃が嵐と化し、ゾンビたちを巻き上げた。


「──なっ!?」


 後ろで驚く声が響く。

 ガリア(仮)さんだろう。


 ゾンビたちが床に落ちる。バタバタと手足を動かしながら何とか立ち上がってきた。


 ボクの握っている剣は刃が折れて使い物にならなくなったので捨てた。


「よし」


 ゾンビは燃やすに限る。


 ボクは手をかざしてゾンビに向けた。


「デザイアメイロ式魔術、フレア」


 説明しよう! デザイアメイロ式魔術とは!?

 ボクがゲームで見てカッケーと思ったものを魔術で再現した通称「ゲーミング魔術」の中でデザイアメイロに登場するものを再現した魔術である!


 ボーンキングがかましてきた火を再現してゾンビを焼く。火の勢いでゾンビが倒れ、焼かれて動かなくなった。


 そして両手に火を灯して、フレアを繰り返す。


 ゾンビが全滅するまで。


「これで、終わりっと」


 手を叩き、ふぅと息を吐く。指を鳴らしてゾンビを焦がした火を一斉に止める。

 ちなみにこの指鳴らしは意図的に指の皮膚を擦り合わせたら鳴るようになっている。そういう魔術を刻んだ指輪を右手の中指につけているから。


 魔術というのは元々生活を豊かにするために存在していたものだ。強力なものより、あったら楽しい、便利くらいのものが多い。


 ボクは指鳴らしを魔術発動の暗示として使うからわざわざ作成したんだ。この指輪だけは必ずつけている。

 無くても魔術は使えるけどね。


 体内にある魔力、それをコントロールする技術と意思でもって魔術は発動する。他にも色々必要なんだけど最低限はそれだ。


『ば、バカな……』


 ボーンキングが唖然としている。


「さてもう手札はおしまいかな?」

『グッ……調子にのるなよ』


 ボーンキングは大鎌を掲げるように構える。炎をボーンキングが包み、大鎌の刃に炎を纏う。炎は青色にその色を変え、その熱を増す。


 熱そう。


『魔の炎に焼かれて死ぬがいい──炎月』


 大鎌が振るわれ、ボクを焼き尽くそうとする。


 ボクは指を鳴らした。


 突風がボーンキングを吹き飛ばす。


『ぐぉお!』


 数メートルほどボーンキングが床を転がる。


 よしトドメだ!


 ボクはピースサインをブルーライトカットメガネに当てる。


「ゲーミング魔術! 麻央ビィイイイイム!」


 メガネからビームを発射する。麻央ビームは熱光線。ビームは叫んで撃つに限る。


 ピンク色の麻央ビームはビュインビュインと独特な音を響かせながらボーンキングに直撃する。


『ぐあああああああ! バカなぁああ!』


 叫び声を上げながら、ボーンキングは爆発した。


 ボクはビームを撃ちきると、ブルーライトカットメガネを指で押し上げ、レンズを光らせる。


 ふっ、勝った。

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