チョコミントフレーバーがない
あつぅ。
手で自分の顔を仰ぎながら寝ているふたりを眺める。
炎で跡形もなく消し飛んでもはや隠しでもなんでもなくなった階段を下り、いくらかマシな地下室でボクは休んでいた。ちなみにボーンキングから火ねずみのマントを取れないかなと思ったけどマントごと燃えてしまったらしい。何もなかった。
二人は魔術で眠らせてそのままだ。なんか危機的状況ぽかったのできっと疲れてるだろう、自然に起きるまで休ませてあげよう。
上空から周りを見てみたけどどこもかしこも焦土と化してて手遅れぽいし。エリアボスが撤退したのだからここら辺の敵は撤退するだろう。たぶん。
来てもボクが倒せるし。
はぁ、なんか一息ついたら電子タバコ吸いたくなってきた。
チョコミント、チョコミント……。
「……あれ」
電子タバコ、ボク持ってないじゃん。この世界コンビニあるかな。
「……あるわけないか」
ボロのジャージとブルーカットメガネ。あと指鳴らしの指輪。
ポケットには何もなし。
暗い天井を見上げる。
「帰るの、どうすんだろ」
ゲーム世界に転移というおもしろ現象と戦闘で興奮してたが、落ち着いてくると色々疑問がわいてきた。
異世界に飛ぶなんて本当に現実に起こると思わなかったしなぁ。元に戻れたとしてどのくらい時間経ってたりするんだろ。
さすがに浦島太郎みたいな事態は勘弁してもらいたいものだ。
まだ発売を楽しみにしてる爽快ロボットアクションゲームのアーマードブレイカーだって遊びたいし。デザイアメイロの最新作だって発表されたばかりだ。モンスターを育てて戦わせるテンさんのポケットランドだってリメイクが発表されたから楽しみなのに。
汗を拭う。
やばいめっちゃ帰りたくなってきた。
ボクはチョコミントフレーバーのちょっと焦げ臭くなったみたいなチョコの風味と喉を通り抜けるミントの爽快さが好きなの。この世界にありそうなタバコじゃ満足できない。
ゲームだってもっとこの世界にあるわけがない。
「異世界転移、わりと夢がない件について」
くっそー、ハーレム築いたり無双したりよりゲームしたい。電子タバコ吸いたい。
テンチョーのお子さんから「マオおねえちゃんとけっこんする」ってキラキラな瞳で言われたばっかりなんだ、成長もみたいし。
ヨシクリくんがどんな職業につくのかも気になってたんだよなぁ。これでも大学受験のときはいろいろ手伝ったんだよ? ソーシャルゲームのイベント攻略の手伝いとか、推しらしいバーチャルティーバーのリアルイベントに代わりに行ってグッズを買ってきてあげたり。
いやぁ公認コスプレイヤーの明日灯レイちゃんのコスプレマジ本人かっていうくらいクオリティ高かったな。
勉強は手伝ってない。愚痴はいっぱい聞いた。
ボクが勉強手伝えるわけないでしょ。息抜き要員にしかならないに決まってるだろぉ! こちとら
とりあえず大人として扱われるような戸籍にしようとしたのが間違いだった。ボクだって制服着たかったし、男子にチヤホヤされたりされたかった。
ま、制服はコスプレでなんとかできるんですけどね、犯罪臭増すけど。
「……極めるか、もっと魔術を」
正直サラマンダーが撤退してくれたのは助かった。さっきは最高にハイってなってて忘れてたけど、実は封印されていたせいでボクの魔力は全盛期と比べると弱まってたんだった。現代に復活したばかりのときは力を取り戻そうとしてたけど、すっかりサブカルチャーにどハマりして怠けまくっていたから結構弱体化している。長らく戦ってなかったので、思考も鈍っている。
実は昔使っていた強力な魔術は即座に撃てるものが少ない。城を拠点にしていたんだけど、その城そのものを魔術の触媒にして、あれこれ発動させていた。攻めるにしたって装備ガチガチに固めたり
そもそも魔術は戦闘に特化させてものではない。
サラマンダーの第一形態の魔法を結界を三重にしてまで防ぎきれなかったのも、ブレス勝負でほぼ負けてたのも、怠けて衰えたボクの身ひとつしかなかったからだ。
ゲーミング魔術を試しはしたけど本気を出せば倒せたわけではない。実はあの場で即時対応できる戦闘に向いた魔術がゲーミング魔術しかなかったのだ。
だからボクはゲーミング魔術を極める必要がある。
そして、この世界の仕組みも知らなければならない。
ボクは眠っている姫様の胸元を見る。宝石が壊れたらしき、首飾り。少し調べてみたが、ボクにはなんだか全くわからなかった。
ゲーム内でガリアを正気に戻す仕様だった、亡国の秘宝だと考えられる。これがボクを召喚した……というかテンチョーを引き込もうとした元凶だとすれば似たようなアイテムを見つけて解析したりすれば元の世界に戻れる方法がわかるかもしれない。
もしかしたら、魔王を倒したら元の世界に帰れるとかそういう仕様かもしれないし、戻れない仕様かもしれない。
まぁ、どんな世界の仕組みだとしてもこうして来れたのなら帰れるはずだ。
異世界という認識がなかったからこそ特に研究しなかったが、手段がないときのために帰るための転移魔術を開発する。そして間違いなくボクの生きた時間軸、世界に帰る。
そして目一杯電子タバコを吸いながらゲームをするのだ。
ロ
〜次回予告〜
魔物との初戦闘を終えたロリっ子美少女魔王の古城麻央ことボクはガリアとセーナ姫と今後について話し合う。
バチクソに遠い『デザイアメイロ』にて主人公のいるアーティンベルに向かうこととなった。
しかしアーティンベルは前述の通りバチクソに遠いので普通に向かったら主にセーナ姫が餓死してしまう。
そこでボクはめちゃくちゃに難易度の高い転移魔術を行使するのだった。
お願い! この転移魔術さえ成功すればガリアとセーナ姫の生存ルートが確立されるんだから!
次回「古城麻央、死す(大嘘)」
次回もこのボクをよろしくね!
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