第2話



 夢緒みるくは、微睡まどろんでいた。女子大生で、経済学専攻の彼女は、名前通りによく夢を見るタイプだった。


 美貌であり、男関係も華やかだった。ファンタジー小説が好きで、自作もしていた。…それかこれかで、性夢や、不可思議な、奇想に富んだ夢をよく見るのだった。


 『…ワタシは、アリジゴク。よく縁側の下に巣を作っている、あのアリジゴクに、ワタシはなっていた。

”ええ?だせー!よりによってアリジゴク?このみるくさまが?こんなこと、しんそこごめんだけど…なっちゃったからにはしょうがないわね?”そう考えているようでもあり、懸命に役割に適応しようとしているようでもある、ワタシは、そういうあいまいな気持ちだった。


 見上げる視界は、晴れた青天井で、物音ひとつしない。ワタシは、ちょっとしゃれたかたちにみえなくもない一対の牙のような顎を振り上げて、獲物を待っていた。


 ”蟻が来るまでこうしてなきゃならないの?たまんないわね!時給にしたら250円?コスパ悪すぎ!はやく、アリさん、こいこい!”現役JDらしく、ワタシは想念だけはイマドキで、不平をかこっていた。


 あにはからんや?やがて、まぬけなアリが、転げ落ちてきた!

 が、それは真っ黒のヤマトアリの、それも”兵隊アリ”だった!ワタシよりも立派で、戦闘向きのすごい顎を持っているアリ…


 ”えええ?困るう💦 飛んで火にいる夏の虫じゃなくて、夏の猛獣じゃない?!こんなの捕まえて血を吸うなんてムリムリ~でもすり鉢の底の、アタシは逃げようがないし…


 …どちらも逃げようがない、”究極のデスマッチ”状態で、アタシと、そのお化けのような兵隊アリは三日三晩戦った…その様子を細かく描写したら「老人と海」みたいな大文学になりそうなくらいの壮絶な戦いだった。


…だけど、


 「アアン、だめえ!許してえ!…」


 …結局、捕食者の側のはずのアタシは、だけど、兵隊アリの顎に抗いきれず、挟まれてしまって、…自由を奪われてしまったのです!


 そこらへんから、夢の様子が変わって、そこはホテルの一室になり、屈強な男たちに押さえつけられているのはワタシ自身になって…


 おなじみの「強姦願望」の充足みたいなゆめになってしまいました…

 でも、夢でよかった…すごいヨすぎました。快楽蟻地獄w』



<了>

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掌編・『蟻地獄』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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