掌編・『蟻地獄』

夢美瑠瑠

第1話

 

 夏の暑い盛りには、特に浜辺とかの砂の多い場所に、すり鉢型の”蟻地獄”がたくさんあるのを、知っている人は知っている。

 

 蟻地獄というのは”ウスバカゲロウ”の幼虫のことで、薄翅蜉蝣と書くのですが、不思議な生態をしている。砂地に、親指と人差し指で輪を作ったくらいの、浅めの逆円錐型の”落とし穴”を作り、通りかかった蟻とかの小さな昆虫が嵌りこむと、そこに潜んでいる幼虫が砂をかけて”地獄”の底に滑り落させて、おびき寄せる。

 で、底まで落ちた虫を、牙で挟んで捕獲して、その体液を吸うのです。


 小さい子供は、皆とは限らんが?この幼虫に興味を持って、なんかこう、とりこになって?じっと飽きずに眺めていたりする。蟻を落としてみて、幼虫が捕まえる様子をひたすら観察していたりする。僕の場合はそうでした。


 で、あんまり”蟻地獄”が、好きというのも変だが?心惹かれるので、掘り出して捕まえて、家に持ってきて飼っていたりした。


 で、砂の中に幼虫を放り込んでおくと、自分で”すり鉢”を作って、じっと潜んでいるというおなじみの構えをすぐ再構成するのです。


 幼虫は、砂と同じ灰色で、大きな鋏のような顎があって、体は逆三角形で、節が4~5個付いている。ちょっと検索すれば写真は見れます。


 で、この不可思議な幼虫が「ウスバカゲロウ」という羽虫の幼虫というのは調べて分かったのですが、蟻を与えつつ、しばらく様子を見ていると、ある朝にその「ウスバカゲロウ」が、羽化して、窓のあたりに止まっていた。


 あのなんか獰猛そうな、砂かけ婆のごとくに俊敏な幼虫の成虫にしては、頼りなげで、儚げな羽虫でした。「なあんだ。弱そうだな?」とか思って、なんか拍子抜けしたが、そういえば、カゲロウというのは一日で死んでしまうというので「儚い」ことの比喩にされるような、繊弱な虫だったことも思い出した。


 ウルトラマン、というテレビ番組が当時人気で、「アントラー」という怪獣を僕は好きだったが、昔はわりと鈍くて、”アントラー”が”蟻地獄”を模した怪獣そのものだったことに、幼い僕はだいぶあとまで気が付かなかったのでした。


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