鳳仙花

菊池昭仁

第1話

 子どもの頃、庭に鳳仙花ほうせんかが咲いていた。


 「ここに種が入っているのよ」


 母が鳳仙花の種袋を潰すと種が周囲に飛び散った。

 私はそれが不思議で、次々に種袋を潰した。



 

 満月の夜だった。

 私たちはコルトレーンのJAZZを聴きながら部屋の明かりを消し、アロマキャンドルを灯して酒を飲んでいた。


 「とても綺麗なお月さま」


 みやこは満足気にそう言った。


 「この月の美しさでも都には負けるよ」

 「私、このお月さまよりもキレイ?」

 

 私はグラスに半分残ったジントニックを飲み干し、都を抱き寄せキスをした。


 (今夜こそいけるかもしれない)


 都の柔らかい少し潤んだ唇。彼女も軽くそれに応じた。

 そして私が服の上から都の乳房に触れた時、彼女の体がビクンと動いた。

 それは感じての反応ではなく、拒絶だった。

 私は都から体を離した。

 

 (今夜もダメか・・・)


 落胆した。

 私は何事もなかったかのようにソファから立ち上がり、キッチンで新たなジントニックを作り始めた。

 都は黙っていた。

 都が私の家で同棲を始めて、もう2年になる。

 都は大学で准教授をしていた。専門は海洋気象学。

 

 「宇宙のことはかなり解明されて来たけど、海のことはまだ謎が多いわ。そこが魅力なのよ」


 彼女はよくそう言っていた。池尻都、54歳。

 聡明で美人。料理、洗濯など家事を完璧にこなす。やさしくて思いやりがあり、数年前には介護士の資格も取得した。

 将来の私の介護をするためだと言う。

 そんな女房にするには絶対条件を都は持っていた。

 ただひとつを除いて。


 都はセックスが苦手だった。

 付き合い始めた頃は自分から求めて来るほど積極的だった彼女が、同棲して1年が過ぎた頃からセックスに対して無関心になっていった。

 それ以外はいつもと変わらなかった。私たちは普通に暮らしていた。

 そしてこんなにムードがある夜ですら駄目だった。



 ベッドに入ると都が風呂からあがり、私の隣に横になった。


 「起きてる?」

 「ああ」


 都は私に体を絡めて来た。私も都を抱きしめた。


 「何もしなくていいよ」

 

 私がそう言うと、都は黙って唇を重ね、私の股間を触った。

 

 「胸を触ってもいいか?」

 

 都は黙って頷くと、パジャマ代わりに着ていたTシャツをたくし上げた。

 私は乳房を揉み、乳首を指で擦ったが反応はなかった。

 そこで今度は舌で乳首をチロチロと舐めてみた。


 「くすぐったい」


 私は乳首を諦め、前戯にじっくりと時間を掛けた。

 下腹部に手を伸ばし、最も敏感な陰唇に触れた。そこは十分に濡れていた。

 彼女の股を開き、クンニリングスを試みたが反応はなかった。

 挿入しようとしたが、酒を飲み過ぎていたため、勃起力が弱く不可能だった。私は挿入を諦めた。


 「指を入れてもいいか?」

 「奥まで入れないでね」


 私は指の第一関節までを入れたが彼女はまるで人形のようだった。

 私は指を外した。

 すると都は私の左乳首を舐め始め、萎えたペニスを握った。

 それが膨張しないことを知ると、フェラチオをしてくれた。

 それは私に対しての謝罪の行為であり、義務のようだった。


 「もういいよ。今夜は寝よう」

 「ごめんね」


 都は体を私に寄せて静かに目を閉じた。


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鳳仙花 菊池昭仁 @landfall0810

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