第8話

「もう、ラウアはケチなんだから!帰ってきたらみてなさいよ!」


リーテは激しく癇癪を起こしながら叫んだが、怒りをぶつける相手は誰もいなかった。


「酷いわ、誰も言うこと聞いてくれる人いないもん…誰か帰って来てくれないと、言いつけることもできないんだから…」リーテはそう言いながら、船の渡し場の方へ向かって歩いた。「誰か帰ってきてないかなあ…」


船の渡し場は、解体された船の木材を使用されたわけではなく、島に着いた当初からある。吊り橋もそうである。


宝の隠し島とする際に、一族の先祖がこれらを造ったのであろう。


リーテは遠方を見て、まばたきした。一艘の小舟がこちらへ向かっているのだった。


「へへん!言いつける相手の人帰って来たもんね!ラウア!」リーテはそう言いながら、誰が帰ってきたのかここから見えないだろうかと、手を額にかざし目を凝らし遠方を見る構えとなった。


一方ラウアはほこらを離れ、一日に必ず行う光の祈りを捧げた後、島の小高いところで一人座し、湖の向こう、外海へ接したあたりを臨んでいた。


リーテがいそうな場所は見当がついていたので、できるだけ遠く離れた場所を選んでいたのだ。


だが、ラウアも結局、誰か帰って来るのを待つしかなかったのだった。その姿勢のまま様々な想いを巡らせた。


光の巫女は、別にラウアが頼んでなったわけではない。一族に伝わる占いなどによりその素質があるとされたからだ。


リーテが本当にやりたいなら、彼女がやればいい。こんな争いはもうたくさん!


ラウアはそう思いながら外海から湖へと入ってきた小舟を見つけた。風が強く吹いており、船を操るのは難しそうに思えた。


船には二人の人物が乗っている。他の人はどうしたのだろうか。なぜ二人だけでここまで来たのだろうか。


そして驚いたことに、だいぶん遠方に居るはずの二人の会話が、風に乗ってラウアの耳へと聞こえて来たのだった。


「ここまで来れたらもう島に入った感じだ。あんたがよそ者でもここまで来れたんなら、そのまま島には入れると思うよ」


若い聞き覚えのある男の声だった。確か、キトという名の一族の青年の声のように思える。


そして聞き慣れない男の声がした。「この島には、一族以外の者は入ることはできないという話だが、一族の者と共に来れば、入ることが可能なのではないかと思っていた。


私がここに入ることが出来たのをみると、どうやらその仮説は当たっていたようだ。」


「そりゃ何より。ところで、一緒に島の辺りまで入って欲しいというあんたの要望を叶えたんだから、こちらの願いを叶えてくれる番だぜ!」キトと思われる青年は言った。


「あんた、おいらに魔術を教えてくれて、おいらも魔術を使えるようにしてくれるって話だったよな!


…魔術が使えるようになりゃ、他の連中もおいらの意見を聞くようになるからさ。


対価が足りないとか言うから、仲間が運んでいる宝を抜き取り、あんたに渡そうとこの船に隠し持って来たんだぜ?


一緒に外に出た仲間の目をかいくぐって、一人で抜け出してあんたと落ち合い、船でここまで来るようにするの、大変だったんだ。


仲間に見つかったらまずいことになるから、あまり時間が取れない。今のうちに早く教えてくれよ。」


金属の擦れ合う音が声の合間に聞こえる。キトが宝を男に見せてるんだ、そうラウアは思った。


「もっと近くに来るといい」男の声がして、ラウアは船の上で二つの影が重なり合うのを見た。


その後うっと呻く声がして重い水音が続いた。

何かが船から落ちたように思える。そして船の上には、人影は一つしか残っていなかった。


呟くような男の声が聞こえる。


「魔術というものは、素質が無い者が扱える代物ではない。お前などに教える気は無かった。


簡単に騙されるのはお前自身の知識の無さからくるものだ。恨むなら浅はかな自分を恨むのだな。」


ラウアの背を嫌な汗が伝った。


…キトが…もしかしてよそ者の男に殺されて、水面へと落とされてしまったのかもしれない…


ラウアは、リーテが今どこにいるのか、早く探さなければ!と焦った。


危ない人物が島に入り込んでる事実を、早く伝えなければ!

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