第7話

次の朝リーテはよく眠れたといい、ラウアはほっとしたが、リーテの次の言葉を聞くとその表情はこわばった。


「だからあ、私がよく眠れたのは、ラウアの光の巫女のネックレスが共にあったからだと思うの。私にはあれ必要だから、ラウア、私にネックレスを貸してほしい。寝るときだけでいいから!」


…困った!またリーテが光のネックレスを自分に渡せと言い出した!


以前からリーテはラウアの光の巫女のネックレスをひどく羨ましがり、何度も自分に貸してほしいとねだっていたのだった。


最初の頃は闇のネックレスと交換したりしながら貸してあげていたが、すぐ返すだの、いつ頃までに返すだのという期限は守られたことはなく、祈りを捧げる時になっても返そうとせず、最後は大喧嘩になるほどだった。


リーテはラウアのネックレスについて、自分の闇のネックレスより綺麗なのはずるいと言い、最後には、持っている間に光のネックレス私のところで居心地良さそうにしてるから、両方とも私のものになったはずなの!と謎の主張をするのだった。


周りの大人達はそれをなあなあで見ており、あまり積極的に介入しようとはしなかった。


リーテとラウアの母は、それぞれ先代の闇の巫女と光の巫女であった。巫女は占いと素質への試験により一族の中より選抜される。


巫女として婚姻の有無は重視はされていないが、当代の巫女が亡くなるか、力の衰えを悟った本人が申し出るかすると、次世代の巫女の選定に入る。


今回、巫女が二人とも、母からその子供へと継承されることとなったのだが、世襲ではないのでごく稀なケースなのだ。


そしてラウアの母が亡くなった時、その妹、ラウアにとっては叔母にあたるリーテの母が、ラウアの面倒をみるようになった時期があった。


当時、ラウアの父はまだ生きており、ラウアの生活費としてリーテの母に幾らか渡していたようだった。


だが程なくしてラウアの父が亡くなると、リーテの母は次第にラウアに冷たくなった。


リーテは片親で巫女をしている母しかいない。そして、巫女には慎ましい報酬しかなかったので、ラウアの叔母、リーテの母からすると、僅かな報酬で子供二人を育てる余裕はなかったのだ。


叔母に冷たくされるようになったことはラウアにはかなり堪えた。リーテの母は自分の母と姉妹ということもあり、亡くなった母によく似ていたので、自分の中で面影を重ね合わせていたのだった。


心の支えとしていた母によく似た相手に厭われるということに苦しみながらも、暮らしに余裕が無いせいだというのはよくわかっていたのでラウアは文句は言わなかった。


ラウアの方がリーテより年長と見えたのは、それら心の葛藤や苦悩が実年齢よりラウアを精神的に成長させていたのが表にあらわれていたのかもしれない。


しばらくして不在であった光の巫女の選定が行われ、ラウアが選ばれた。リーテはなんで私じゃないのかと文句をいい、叔母もそう言いたげで、ラウアはもう叔母の家からは出て独りで暮していかなければいけないだろうと思っていたのだが、一族の者達が光の巫女となる者をこれまで養ったからと、幾ばくかの金を叔母に与えたので、彼女はしばらくラウアに対してもあたりは良くなり、その時は出ていかずにすんだのだった。


だがリーテは自身が闇の巫女と選定されるまでは荒れた。自分だけの母だったのに、母を亡くしたからと言ってあなたが半分取ってしまっただとか、私一人に使うはずだったお金がラウアの世話のために使われるようになってきてたのは酷いだの、それなのに光の巫女に選ばれたのはずるいだの言い出したのだ。


それらの言い分は叔母がリーテに話していたことの影響があったかもしれない。


島に着いて叔母が亡くなってから闇の巫女が選定されることとなり、リーテが選ばれることとなった。


リーテは自分の母が亡くなったことに関しては、酷く悲しむこともなくぼんやりとしていた。まだ実感してなかったのかもしれなかった。


リーテのラウアへの妬みがましさは闇の巫女に選ばれたことで少し落ち着いたが、それでも光の巫女とされたラウアのことはまだ羨ましがっており、しきりに光のネックレスも貸してと言いながら手にしたがっていた。


リーテが光のネックレスを借りたまま自分のものにしようとしていることについて、ラウアが周りの大人たちに訴えたりしても、よく話し合いなさいとしか言われなかった。


結局、喧嘩するくらいの勢いで返せとラウアが強く言わないと、未だに返して貰えてなかっただろう。


「また始まった!これは貸さないから!」ラウアがそう言うとリーテは「ダメ!くれないと眠れない!」と、手を伸ばして掴み取ろうとしてきたが、その行動を予想していたラウアは体を翻して外に走り出た。


「ラウアのケチ!皆が帰ってきたら、ラウアが意地悪したって言いつけてやるんだから!もう光の巫女なんてできないようにしてやるんだから!」リーテの叫び声が追ってきたが、ラウアは走って遠ざかって行った。


リーテから逃れたラウアは、ほこらに行き、美麗な衣装をあった箱におさめ、元の服に着替えほっと一息ついた。汚したら大変だから早く着替えたかったのだ。


ふと思い立ち、首のネックレスを、服の下に隠すように入れこんだ。二人が生活している小島は狭い場所なので、そのうち出くわすだろう。出会いざまにネックレスを取ろうとしてくるかもしれない、ラウアはそう思ったのだった。

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