爺さんと予言者
第20話 日常のゲーセン
ここは街の一角にある古びたゲームセンター。
灯りが薄暗く、酷暑のせいで空気が重たくなっている。
ゲームセンターの内部にいると、まるでスチームバスにいるような感覚が漂う。
クソ暑い。
空調が一切効いていないためか、涼しさを求めても徒労に終わる。
古びた扇風機から吹き付けられる風は熱く、ただ湿った空気を体に貼りつけさせるだけだ。
なぜそんな地獄のような場所にいるかというと、古びたゲームセンターにしかない格ゲーを求めてやってきたからだ。
「くそ! 強い! こやつ強いでござるよ!」
先客の太ったオタクは一人でゲームに没頭している。
ピチピチサイズのTシャツのバックには有名な萌アニメのイラストがプリントされている。
額に巻いたピンク色の鉢巻は、汗をじっとり吸い取り変色する始末。
酷暑は、巨大な
「ふぅ……いい勝負だったでござる!」
数分後。太ったオタクはオンライン対戦を終えると、太ももの上に置いていた黄ばんだタオルを手に取って顔の汗を拭った。
満足げな様子で退店していく。
「……ナイスファイトだぜ」
俺は一連の光景を背後のベンチから眺めていた。
太ったオタクの背中にサムズアップを送る。
普段は過疎ってるのに、どうしてこんなクソ暑い日に限って順番待ちなどせねばならんのだと最初は思ったが、やはり白熱した格ゲーを見るとそんな気持ちも消えて無くなる。
「……」
俺は側に置いてあったアルコールティッシュで満遍のない除菌作業を始めた。
格ゲーへの熱意は汗となって顕現する。
それは俺も一緒だ。他の人ももちろんそうだ。
「さて、俺のターンだ」
俺は除菌作業を済ませてから静かに着座。
まだ暖かい。
あのオタクと濃厚な関節尻キッスをしてしまったらしい。
それもご愛嬌。
今日はこの格ゲーをプレイするためにわざわざやってきたのだ。
俺はワクワクを胸に秘めながら財布を取り出した。
しかし、そこであることに気がつく。
「……やべ、無銭で来ちまった」
いよいよゲームができると思ったのも束の間。
財布にはまるで重みがないし、あまりにも薄いことに気がついた。
中に入っているのは5円玉が2枚、1円玉が3枚……のみ。
所持金8円で何ができるってんだ。今どき駄菓子も買えねぇぞ。
「銀行で下ろさないとな」
俺は一つ息を吐いて席を立ち、眩い日差しが照りつける店の外へ出た。
金がないなら下ろせばいい。簡単な話だ。
つい先日、ヒーローギルドから給料が入ったのでちょうどいい。ちなみに、夏コミケでミカヅキから借りた10,000円は気が付いたら使い切っていた。
知りぬうちに消える金ほど怖いものはない。
少し歩いた先の銀行で金を下ろして、また来ることにしよう。
人類の99%はドMなので、少しくらいお預けを食らった方が楽しめるってもんだ。
更に外を歩くという苦行を乗り越えることで、より有意義なご褒美タイムを堪能できる。
だが、一つ懸念点がある。
ここのゲーセンは店主である婆さんは、店を閉めるのが異様に早い。
基本的には午後3時にシャッターが降りてしまう。
現在の時刻は午後2時。1時間しかリミットがないので悠長にしていられない。
少し急ぐか。
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