第18話 ウルヴァリン的なアレ

「何も答えないのなら、完全体になったあたしの力でねじ伏せちゃおうかしら?」


 エメラルドヴァイパーは苛立ちを隠すことなく額に太い血管を走らせると、ぶんぶんと高速で右腕を回し始めた。

 確か、パワータイプって言ってたよな。


「……」


「死になさい!」


 エメラルドヴァイパーは筋肉に塗れた太い腕を振り下ろした。

 相変わらずアイアンちゃんは無言で無表情だ。


 俺からすればそんなに速い攻撃には見えない。サイドステップを踏んで回避してから、顔面をぶん殴り返せば終わりだ。

 当事者であるアイアンちゃんはそういうわけでもないのか、一切微動だにすることなく……あっさりと攻撃を受けていた。


 刹那。ドンっと轟音が響き、辺りに爆風が巻き起こる。


 周囲は砂煙に覆われ、戦況が見えなくなった。


「……大丈夫か?」


 時間と共に晴れていく砂煙の先を見ながら俺は呟いた。

 人間よりも遥かに頑強なサイボーグとはいえ、モンスターの一撃をモロに喰らったらそれなりのダメージを負いそうなもんだ。


「あれくらいなら平気よ。私なら木っ端微塵になってると思うけど」


 ミカヅキはアイアンちゃんの硬さを理解しているのか、特に心配した様子はなかった。逆にミカヅキがこのモンスターと戦ったら勝てるのか不安になってきた。


「……どう? あたしの剛腕の味は!」


 やがて砂煙が晴れると、そこには胸を張り勝ち誇るエメラルドヴァイパーの姿。


 そして、その目の前には誰も立っていなかった。


 否、目の前には立っていなかったが、地面から少しだけ隆起したピンク色が見えた。


 そのピンク色は数秒後にカタカタと音を立てて動き出したかと思ったら、すぐにぴょーんっと地面から抜け出して地上に戻ってきた。


「……それだけ?」


 アイアンちゃんは特に取り乱してはいなかった。

 全身に砂埃がついて、黒いフリルのワンピースが汚れたくらいなものだ。


 地面に沈められたが無傷だったらしい。


「へー、頭はカチカチ設計だし、足の裏にはジェットがついてるのか。確かに常人離れだな」


「よく瞬時に分かったわね。アイアンちゃんの体には色んな装置が仕込んであって、全身が機械マシンだから簡単には壊れないのよ」


「便利だな」


 外見だけではよくわからないが、奇想天外な装置が他にもたくさん仕込んでありそうだ。

 面白そうだし今度見せてもらおう。


「な、なんであたしの攻撃を受けてピンピンしてんのよ!? 地面に突き刺さって無傷だなんておかしいじゃない!」


「……」


 エメラルドヴァイパーは狼狽えていたが、既にアイアンちゃんは反撃のために力を蓄え始めていた。

 

 手元がピカピカと光っており、手の指の爪の部分からは鋭利な刃物が飛び出してきた。

 ウルヴァリン的なアレに近い。


「カッコいいなぁ」


 男のロマンを詰め込んだようなスタイルだ。

 俺も爪の部分だけサイボーグにしようかと本気で考えるくらいにはクールだ。


慣れれば箸要らずで飯を食えそうだな。

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