第17話 機会幼女 マシンガール!?

「幼女! ここは危ないぞ! 後でチョコバナナを買ってやるからこっちに来い!」


 俺はミカヅキのすぐ後ろにいる幼女に警告を促した。

 名前は知らないが、少しだけでも時間を共にしたからどんな幼女なのかはわかる。

 寡黙だけど表情は豊かで、チョコバナナを素早く食べてオレンジジュースが好きな幼女だ。

 

 そんな幼女がどうしてここにいるんだ。意味不明だ。


「あれ? あなた、アイアンちゃんと知り合いなの?」


「え?」


 え?


「だから、アイアンちゃんと知り合いなのかって聞いてるのよ」


 別に聞き返したわけじゃないんだけど……は? 

 え? 嘘だろ!? まさか、その幼女が……?


「は? まさか、そこの幼女の正体がアイアンちゃんとかいう冗談は言わないよな?」


「ヒーローランキング第5位のアイアンちゃんよ。可愛いでしょ!」


 ミカヅキは聖母ような柔らかくて暖かな瞳で幼女を見つめていた。

 うっとりとしている。


「いや……んー、まあ、可愛いけど……マジ?」


「マジ! ぐへへへへへ……はぁぁ、ほんっとに可愛すぎて困っちゃうんだから! アイアンちゃん! 頑張れー!」


 聖母じゃなかったな。幼女趣味の変態だった。

 犯罪スレスレの笑い方で幼女を見つめている。怖い。


 でも、今はそんなことより、解釈不一致すぎるアイアンちゃんの正体について詳しく聞かせてほしい。


「いやいやいやいや、俺の知ってるアイアンちゃんは、黒光りするフルアーマープレートを装備して、身長よりもでかい大剣を振り回す巨体のオッサンだぞ! 鎧を脱いだら加齢臭がすごくて、顔は濃い髭で覆われていて、でも優しくて愛嬌があるから、影では女子高生から密かに人気を集めてるんだっ! アイアンちゃんが幼女なわけあるか! 俺を騙そうとしても無駄だからな!」


 アイアンちゃんを馬鹿にするのもいい加減にしろ。

 解釈違いにも程があるぞ。


「はぁ? 誰よ、その”辺境の村で一番強い歴戦の傭兵”みたいなアイアンちゃんは。膝に矢でも受けて田舎でスローライフって感じ? バカはあなたよ! 見てご覧なさい、真逆でしょうが! 淡いピンク色の髪で、ほわほわした黒いワンピースを着てて、めちゃくちゃ可愛いでしょ!」


 ミカヅキは俺以上のスーパー早口で捲し立ててきた。

 その言葉には嘘偽りはなさそうだった。


 マジか……きみ、アイアンちゃんだったんだね。


「……アイアンちゃん?」


「ふん」


 俺が恐る恐る名前を呼ぶと、ピンク髪の幼女もといアイアンちゃんはぷいっと顔を逸らして頬を膨らませた。

 私は不満です! とでも言いたげな様子だ。

 頭頂部のアンテナがピンと立って怒りを露わにしている。


 あー、好感度下がっちゃったな。悲しい。


「とにかく、アイアンちゃんがやるから私はお役御免ってわけ。あっ、放ったらかしにしちゃってごめんなさいね。エメラルドヴァイパーさん?」


 ミカヅキは戦闘モードを解除してこちらにやってくると、俺の隣に腰を下ろした。

 まだ理解が追いついていないが、本当にあの幼女がヒーローランキング第5位のアイアンちゃんで間違いないらしい。


「……」


 アイアンちゃんは狭い歩幅で、一歩ずつエメラルドヴァイパーとの距離を詰めた。

 やがて10メートルほど開かれていた距離はほとんどなくなり、互いの間には1 メートルくらいの狭い空間しかない。


「噂に聞いたことがあるわねぇ。ヒーローランキング第5位の小さな女の子の話。確かヒーロー名は、機械幼女マシンガールって呼ばれてたわよねぇ? ちっこくて可愛いから好きよ。レイちゃんと同じく一飲みにしたいくらいにねぇ」


「……」


 舐め腐ったようなエメラルドヴァイパーの言葉を聞いても、アイアンちゃんは無言と無表情を貫いていた。

 ヤツの姿を下から見上げているだけだ。


 それにしても、機械幼女マシンガールか。

 名前的にサイボーグか?

 その割には体温も感じたし、感情や食欲が存在していたな。

 近年の技術の発展は凄まじいな。


「なあ、アイアンちゃんって強いのか?」


 隣に座るミカヅキに聞いた。

 あぐらをかく俺に対して、彼女は膝を立てて三角座りをしている。


「あんな可愛い見た目だけど、めちゃくちゃ強いわよ」


「ほう……ヒーローランキング第5位は伊達じゃないってことか」


「そういうこと。まあ、見てなさい。サイボーグ特有の常人離れな闘い方を見たらびっくりするから」


「ふーん」


 よくわからないが、口振りからして負けることはなさそうだ。

 適当に見て早く帰るか。

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