第15話 こんなキラーパスはあんまりだ!
「……きれい」
「そうだな……」
目の前にはコミケ参加者が作成したオリジナルグッズに釘付けになる幼女。
俺は把握していなかったが、これはアニメやゲームに出てくるアイテムだろうか。
キラキラとした装飾が施されたペンダントだ。
ハンドメイドなのによくできているし、デザインも控えめで高級感がある。
値段は……5,000円か。
安いのか高いのかよくわからないな。
「……つぎ」
「お、おう」
俺は幼女に引っ張られて動き出した。
物欲は特にないのか、幼女は一つ一つのブースを数分見ては離れ数分見ては離れを繰り返していた。
おかげで本当にゆっくりとのんびりと巡ってしまっている。
まあ、どうせ俺は暇だったし別にいいか。
みぃこさんにエールはもらったけど、俺はヒーローとしてコミケに参加したわけじゃない。
故にそれらはミカヅキとヒーローランキング第5位のアイアンちゃん、その他のヒーローたちに任せておけば良いのだ。
「そういえば、名前は?」
「……」
歩きながらも尋ねたが、幼女は口元に力を入れて答えてくれなかった。
「俺はハイドだ」
「……ハイド」
幼女は俺の名前を一度だけ口にすると、ほんの僅かに口角を上げた。
それが何を意味するのかよくわからなかったが、悪い印象は持たれていないと思う。
それからも、俺は名も知らぬ淡いピンク髪の幼女と二人でコミケを堪能した。
眠たそうな目つきと最初は評したが、それは生まれつきのようで、ずっとぱやぱやした感じで愛おしさがあった。
生意気なミカヅキや神々しすぎるみぃこさんとは違って、幼女は本当に幼女なので純真無垢で接しやすい。
言葉数も少ないから助かる。
別に俺はロリコンでも犯罪者予備軍の変態でもないが、子供自体は嫌いじゃないので過ごしていてかなり気分が和らいでいた。
「さて、じゃあ後はここで保護者を待つんだぞ」
なんだかんだ言いつつも総合受付に到着した。
隣に立つ幼女の背中を押して受付の女性スタッフに引き渡す。
「迷子でしょうか?」
「チョコバナナを食わせたらついてきた」
「は、はぁ……? お嬢ちゃん、何歳ですかぁ~?」
女性スタッフは俺の説明に戸惑いつつも、膝を曲げて幼女と視線を合わせた。
「……」
「お手手を使ってみよっか。ちなみにお兄さんは?」
赤子をあやすような優しい口調で話しながらも、両の手のひらをグーパーさせて俺に振ってきた。
こんなキラーパスはあんまりだ!
「……え? 俺もやるの?」
「早くやりなさい!」
女性スタッフは有無を言わせぬ強気な瞳で睨みつけてくる。
怖いよ、このお姉さん……
「に、にじゅうさんさい……だよぉ~」
幼女のためを思い、俺は手を使って2と3を作ってぎこちなく笑う。
恥ずいんですけど、マジで。
すると、幼女は頬を引き攣らせる俺の眼前に右手を広げて見せつけてきた。
「……5歳ってことか?」
「うん」
「お兄さん、不審者のくせに何でそんなに懐かれてるんですか?」
女性スタッフはギロリと瞳を細めて疑いを向けてきた。
「いや、俺不審者じゃないし、本当にチョコバナナとオレンジジュースを上げたら付いてきただけだから」
「ふーん……まあ、いいです。5歳の女の子を放っておくわけにもいかないので、後はこちらで保護させていただきますね。顔は覚えましたから、もしも変なことをしてたら通報しますからね?」
いまいち納得してない様子だったが、ひとまず今やるべきことは理解してくれたらしい。
やっと幼女ともお別れか。
「じゃあ、頼みますわ」
「はい。不審者さん」
「だから違うって……」
俺は女性スタッフとそのすぐ隣で佇む幼女を一瞥してから踵を返した。
不審者扱いされるのは癪だが、警察やヒーローなどから職質されたのは一回や二回ではないのでダメージは少ない。
それにしても、もう午後三時か。
そろそろ帰る人も多くなるだろうし、道が混み始める前に俺も帰るとしよう。
「……ん? 騒がしいな」
会場から外へ出ると、何やら裏手の方が騒がしかった。
女性の叫び声と地鳴りのような振動音が響いてくる。
何やらトラブルが起きているようだったが、俺は特に関心がないので、立ち去ろうとした。
しかし、次に耳に入ってきた悲鳴は俺の体を勝手に動かしていた。
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