第13話 都合の良い耳だこと

「ありがとう。ミカヅキ」


「絶対に返しなさいよ?」


「……」


「ハイドさん、会場内の事は任せましたよ?」


「はい!」


「都合の良い耳だこと」


 ミカヅキは片手で眉間の皺を揉んでいた。


「うふふっ……やっぱり仲が良いんですね」


「そうですかね? ところで、みぃこさん」


「何でしょうか? 私の顔に何かついてますか?」


 俺はじっとみぃこさんの顔を見つめた。

 なんかこう、言葉ではよく表現できないが、先ほどとは色々と顔の感じが違うような気がする。

 肌の色が少し白さに欠けるというか……瞳の奥の煌めきが薄くて瞳孔の形に違和感がある。


 化粧直しをしてメイクのタイプを変えたのか?

 瞳はカラコンか? それとも……


 そういうのは全く疎いからわからんな。

 でも、いつもと違うのは確かだ。


 モニター越しとはいえ、御尊顔を何度も拝んできたからいつもと違う点にはすぐに気づく。


「いえ、俺って目が良いんですけど、みぃこさんって今日顔色悪くないですか?」


 俺はみぃこさんのことを凝視しながらストレートに口にした。

 すると、みぃこさんの隣にいたマネージャーらしき女性が前に躍り出てくる。


「女性に対して失礼よ! ましてやみぃこは大切なタレントなの! ヒーローが口出しすることじゃないわよ!」


 ストレートすぎる俺の発言を聞いて真っ先に怒っていた。

 この人もこの人でみぃこさんに負けないくらい美人だな。

 

 これくらい綺麗だと、ミカヅキが言っていたエメラルドヴァイパーとかいうモンスターの被害に遭ってしまいそうだ。


「ごめんなさい! このバカにはキツく言っておきますので!」


 一部始終を見ていたミカヅキは咄嗟に俺の後頭部を鷲掴みにすると、脱力している俺の頭を無理やり下げさせた。


 うーん……やっぱり顔色が悪いような気がするんだよなぁ。


「ふんっ……教育くらい徹底しなさいな。みぃこは容姿端麗で弱点一つない完璧美少女なのよ? 日を追うごとに綺麗になっていくし、疲れを知らない超人なんだから」


「そんなことないよ。レイちゃんだってタレントでも何でもない専属マネージャーなのに私よりも可愛いよ? 食べちゃいたいくらいにね!」


「またまた、そんな訳のわからない冗談ばっかり言って~」


「うふふふっ」


 妖艶な笑みを浮かべるみぃこさんだったが、その瞳は確かに隣に立つ彼女の姿を捉えているように見えた。


 俺の気のせいかもしれないが、なんか冗談に聞こえない。


「……あっ、そうだ。アイアンちゃんはどこだろう?」


 突然思い出したのか、ミカヅキはパンっと手を叩いてから辺りを見回した。


「さっきまでいた子なら、あなたたち二人が来る少し前に何も言わずに行っちゃったわよ?」


「そうですか。お金渡してなかったけど、大丈夫かな?」


 ミカヅキは俺の顔を見ながら心配そうに眉を顰めていた。


「何も知らない俺に聞くなよ。ヒーローなんだし大人だろ? 何をそんな過保護になってんだよ」


「大人って……アイアンちゃんはそんなんじゃないからね?」


「まあ、どうでもいいけどよ」


 アイアンちゃんに関する情報はどうでもいい。

 どうせムキムキマッチョの鉄人みたいな男だろう。

 俺の眼中にない。


 そんなことより、今はみぃこさんの変化が気になっている。


 しかし、それらは全て俺の見間違いかもしれないし、付きっきりで過ごせるわけでもないので考えても無駄か。


「俺は行く」


「ハイドさん、また!」


「ええ、また」


 みぃこさんのエールを受けた俺は適当に返事をした。

 彼女は小さく手を振りながらも笑顔を向けてくれる。すぐ横にいるマネージャーは先ほどの発言を未だ根に持っているのか少し不満そうだ。


「みぃこさんの手のひらが赤い……?」


 俺は、みぃこさんが手を振った時、彼女の掌が赤くなっていることに気がついたが、特に言及する事なくテントを後にした。


 何の色だろうか。メイクか何かで付着したのか?

 それとも握手会の後に手を擦り洗っているせいか?

 確かに色合い的にはメイクや明るい血色とかではなく、言っちゃ悪いが鮮血のような感じだった。

 

 まあ、こんなことを気にしても無駄か。

 さっきの違和感といい、全てみぃこさん自身が肌の弱いタイプならあり得る話か。

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