第11話 プライド?何それ、美味いんか?

「私以外にも一人だけランキング上位のヒーローが来てるわよ。他にもランクが低くても有志で巡回してくれてるヒーローが何人もいるはずよ」


「へー、てっきりお前だけが都合良く派遣されまくってるのかと思ってたが、別にそういう訳でもないんだな」


 気になっていたのはそこだ。

 俺なんかとタイミング良く三回も会ってるもんだから、ミカヅキがいいようにヒーローギルドにパシられてるのかと思っていた。


「そ、そんなこと……ないわけでもないけど……だってしょうがないじゃない。私以外の上位ランカーってみんな変人ばかりだし、一番まともなのが私だからこういう依頼は真っ先に回ってきちゃうのよ」


 ミカヅキはため息混じりに呆れたように口にした。


 よくわからないが苦労しているらしい。

 18歳でその役目を背負わされるのは同情する。


「そうなのか。大変なんだな」


「もう慣れたわよ」


「ちなみに今日来てるヒーローは何位のヤツなんだ?」


「アイアンちゃんは5位ね。今はみぃこっていう有名なコスプレイヤーの護衛をしているはずよ。エメラルドヴァイパーに狙われないように、芸能事務所から直々に依頼が来たみたい」


 勝手な偏見だが、アイアンという騎士っぽい名前にちゃん付けするのは中々珍しい。


 しかし、そんな無関係なやつの呼び方以前に、俺は一つ気になったことがあった。


「みぃこ”さん”な」


 さん、あるいは、様をつけろ。敬称略は許さん。


「さん付けって……あなたに関係ないじゃない。目の前にいる時は別として、影では芸能人とかタレントを呼び捨てにするくらい普通でしょ?」


「黙れ無礼者」


「……あっ、わかったわよ。あなた、そのみぃこさんが好きなんでしょ?」


「好きじゃない。大好きだ。LIKEじゃなくてLOVE。もっと言うならBIG LOVEだ」


 即座に訂正した。

 好きなんてもんじゃない。

 ファンの一人としてみぃこさんのことを愛している。これが答えだ。


「オタクって熱心よね~。夏場の握手会なんて手汗でバイ菌だらけだし、その人だって握手会が終わった後に掌から血が出るくらい擦り洗ってるわよ?」


 ミカヅキは呆れ混じりにため息を吐いたかと思えば、最後には「うげぇ」と言いながらベロを出していた。

 こいつは何も分かってないし、リアルを突きつけてくるのは酷い。


「ふんっ……性悪女め」


 こいつにはわかりっこない。推し活の素晴らしさが。

 みぃこさんは天使だ、優しいんだ。

 そんな非道な真似は絶対にしない。


「どうでもいいけど、私はもう行くわね。あなたには悪いけど、私はこれからアイアンちゃんとバトンタッチして、その人の護衛をしないといけないのよねぇ。ごめんなさいね~、性悪女で。私は優秀なヒーローだから有名人にも簡単に会えちゃうのよ。それじゃまたね~」


 ミカヅキはニマニマと挑発的な笑みを浮かべていた。


 こいつ、俺のことを悔しがらせようとしてやがる。

 どうせ唇を噛んで血の涙を流す俺の姿を拝みたいだけなんだろうが、残念だったな。


 俺にはプライドなんて存在しないんだ。欲望を叶えるためにはなんだってする覚悟がある。


 ヒーローランキング最下位の底にへばりつく俺を舐めるなよ。


「性悪女? 滅相もない! 月光のミカヅキ様、貴女は最高の人物ですとも! ここで出会ったのも何かのご縁かと思いますし、どうか矮小なヒーローである私めをご同行させてくださいませぇっ!」


 ミカヅキの言葉を聞いた俺は瞬間的に土下座のフォームを完成させた。


 山頂から下る流水の如く自然で美しいフォームに違いない。


 プライド? 何それ? 美味いんか?

 そんなものは最初から持ち合わせていない。

 俺はどんな場所でも土下座を披露することを厭わない。


 全てはみぃこさんに会う為だ。


「……手のひら返しが過ぎるわよ。そんなことをしている自分が情けないと思わないの?」


「それはイエスのお返事と受け取っても宜しいのでしょうか?」

 

 ミカヅキは心底呆れた口振りだったが、俺は尚も美しい土下座のフォームを崩すことはしなかった。


「はぁぁぁぁぁ……いいわ。補佐役って形で紹介してあげるから、ついてきなさい。ただし、おかしな真似をしたらすぐにつまみ出すから、いい?」


「もちろん! いやー、金がなくてもうみぃこさんに会えないから助かったぜー。ヒーローってやっぱり役得だな!」


 ヒーロー最高!


「……やっぱり変人ね、あなた」


 ジト目で見るな。


「うるせぇ、早く行くぞ」


「はいはい。あっ、それと、アイアンちゃんは人見知りが激しくて無口な子だから、あんまり変なことはしないでね。本当はあなたみたいな異常人物と会わせたくないんだけど……まあ、あなたが懐かれるなんてありえないか」


 ミカヅキは先んじて歩き出した俺の隣に駆け足でやってくると、頭ひとつ分背の高い俺の顔を見上げながら言ってきた。


 さっきトークタイムに出向いた時はそれらしき姿は見えなかったが、生憎、俺はアイアンちゃんとやらに興味はない。

 名前からして、どうせ無愛想な大男だろ。


 みぃこさんしか眼中にねぇ。


 

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