第10話 エメラルドヴァイパー?
昼過ぎ。
俺は屋外の木陰に座って息をつき、持参した菓子パンを食べていた。
疲れたな。
到着して早々、みぃこさんに会って気分を上げたのはいいが、やっぱり人混みのせいで暑苦しくてもうヘトヘトだ。
ここで帰ってしまうのは勿体無いので、しばらく休憩したらまた散策に向かうとしよう。
1,000円しか持ってないが、何か記念にグッズでも買いたいな。
「……それにしても、今年は例年に比べて警備が多いな。民間の警備会社だけじゃなくて警察まで配備してるのか。ヒーローっぽい奴らの姿まで見えるし、何かあったのかな」
俺は辺りを見回す。
会場の周りには警備員や警察が歩き回っていた。
何やら不穏な空気を感じる。
「——あなた、ニュースとか見ないの?」
「へ?」
俺は突然話しかけてきた人物の姿をしっかりと捉えた。
どうしてお前がここに!?
「何よその、”どうしてお前がここに!?”って顔は」
「いや、だって……なんでミカヅキがこんなところにいるんだよ」
急に話しかけないでほしい。
ヒーローランキング第9位が来る場所じゃないだろ。
仕事をしやがれ。
「私はね、サボり魔のあなたと違って仕事で来たのよ。最近、この辺りでB級上位相当のモンスターの目撃情報が出てるじゃない? だから警戒出動してるのよ。まさか何も知らないの?」
「知らん」
テレビをつけることはあるが、釘付けになるほどニュースを見ることはない。
ごくたまに内容を覚えていることを除けば、世間を騒がせるようなモンスターのニュースやヒーローの情報には疎いと言える。
俺が知りたいのは天気予報だけだ。
「はぁぁぁぁぁ……じゃあ一応教えてあげる。モンスターは直立二足歩行で、大きさは三メートルくらい。パワータイプで、この前なんかコンクリートを歯で砕いてたわね。巷では、蛇のような見た目の悍ましさと緑色の肌から——エメラルドヴァイパーって呼ばれてるわね。主にターゲットは見目麗しい若い女性ばかり。被害に遭った全員が栄養素を完全に吸われた白骨状態で発見されているのも特徴の一つね」
「興味ない」
俺はミカヅキの言葉を一蹴した。
溜め息を吐きながらも長々と説明してくれたが、そんなモンスターに興味はない。
「そ、じゃあ、もしも見かけたら教えてちょうだい。これ私の連絡先だから」
ミカヅキは懐から一枚の紙を取り出すと、何やらサラサラとペンを走らせて、その紙をぐしゃっと丸めて俺に投げ渡してきた。
「え? 女の子と連絡先を交換するなんて人生で初めての経験なんだけど……いいのか?」
「勘違いも甚だしいわよ。これはプライベート用じゃなくて、ヒーロー用の番号よ。あなたもヒーロー登録した時に専用のスマホを貰ったでしょ?」
「あー、確かもらったな。タンスの奥にあると思う」
もらった気がする。
新品だったから、一度も箱から出すことなくそのままタンスにしまったはずだ。
当時は最新のスマホだったが今となっては旧機種だ。ヒーローランキング最下位だけど、ヒーローギルドに言えば買い替えてもらえるのかな?
何度も受け取っては売ってを繰り返せば金を荒稼ぎできそうだな……でも、流石にバレたら除名されそうだしやめておくか。
これはマジのガチで金がない時の犯罪スレスレの最終奥義として残しておこう。
「もしも見かけた時には、あなたが倒してもいいのよ?」
「時と場合によるが善処する」
「期待しないでおくわねー」
ミカヅキは棒読みで適当に返事をした。
本当に俺には期待しないでほしい。
ただのB級相当のモンスターなら、そこそこ強いヒーローだけで何とかなる案件だ。
「というか一つ気になったんだが、ヒーローランキングでトップ10入りしてるお前以外の上位ヒーローは来てないのか? ニュースになってるくらい重要な案件なんだろ?」
俺自身、こうしてミカヅキと会うのは三回目になるが、未だ他のヒーローとはまともに会ったことがない。
前回は街中に避難警報が発令されており、今回はニュースにまでなりヒーローが派遣されている。
なのに、見たところ、この会場には彼女以外に強そうなヒーローは見当たらない。
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