第6話 月光のミカヅキ来訪!

 眩すぎる朝日がカーテンの隙間から差し込むことで意識が覚醒した。


「……やべ、夜更かし失敗した」


 起きたらゲーミングチェアの上にいたので、多分ネットサーフィンでもしながら寝落ちしたのだろう。


 普段であれば昼まで楽しんでいたところだったが、昨日の夕方ごろの余計な出来事のせいで心が疲れてしまった。

 やはり人と話すのは疲れる。あの女は特にやかましかったし、普通に話すなら骨骨骨ボーンホネホネの方が落ち着いていてよかった。


「二度寝……は、できそうにないな」


 昼まで寝ようかと思い目を閉じてみたが、どうも眠気がやってこない。

 たった一晩寝落ちしただけで、俺の完璧な生活リズムが崩壊してしまった。

 

 太陽の光がしっかり明るいうちは外になんて出たくないぞ。暑いし、人が多くて疲れるし、良いことなんか一つもない。


「……起きるしかない」


 俺はゲーミングチェアから立ち上がって大きく体を伸ばした。

 軽いストレッチを終えると、ベッドに座ってテレビをつけた。


『またもや快挙です。一昨日は連合のリーダーとして大活躍した月光のミカヅキさんが昨日も強大なモンスターの討伐に成功しました。相手はA級モンスターだったとの情報もあり、月光のミカヅキさんには市民から感謝の声が寄せられています』


 アナウンサーの口調はどこか弾んでおり、ヒーローの躍進に喜びを隠せないのがすぐにわかった。

 スタジオにいる他の連中もそうだ。ヒーローがモンスターを倒した時の話題は大好物だ。

 それだけみんなヒーローが好きなんだ。


 それにしても、二日連続で月光のミカヅキとやらの話題か。


 黒色の髪に混じる黄色のメッシュ、多分身長は155センチくらいで比較的小柄で細身、武器は細い剣。

 服装は、黒と鮮やかな金色が印象的だ。

 黒地のスリムなジャケットに、金色のトリムが施され、襟元や袖口には細かな装飾も見える。

 その下には、動きやすさを重視した黒いパンツ、足元には革製のブーツを履いており、おそらく軽装備を活かしてスピードで翻弄するタイプだと思う。


「ふーん、月光のミカヅキか……って、ん? この女、昨日のやつか……?」


 テレビ画面に見入りながら長々と頭の中で考えてしまったが、同時に妙に見覚えのある容姿に昨日の出来事を想起した。

 こんな特徴的な女を見間違えるわけがないし……となると、この女は有名人だろうし、ヒーローとして結構な手練れということになるな。

 

「うん、無理やり立ち去って正解だったな。もし目をつけられたら面倒なことになってたぜ」


 俺はほっと胸を撫で下ろした。

 確かヒーローランキングは第9位と昨日のニュースで紹介されていた。

 そんな地位も名誉も富も名声も何もかもを手にしたヒーローと知り合うなんてごめんだ。

 俺は平穏が好きなんだ。何もせずにぬくぬくと不労所得だけで気ままに過ごしたい。


 昨日がイレギュラーだっただけで、今日からは俺が求める平穏な日々が待っている。


 俺はテレビをそのままにベッドにダイブした。

 

 それとほぼ同時だった。

 タイミング悪く部屋のチャイムが鳴ってしまう。


「誰だよ、こんな朝早くに……まだ朝の六時……いや、十時だぞ、このヤロー。十分早いじゃないか」


 早朝六時前に何のようだと思い時計を確認したが、既にそんな文句は言えない時間だった。

 でも、俺にとって午前十時と早朝六時と変わらない。チャイムを押すのは昼以降にしてくれ。


「はぁぁ……めんどくさ」


 俺は大きなため息を吐きながら玄関に向かい応対する。


「はいはい。新聞なら間に合ってます———ん?」


「見つけたぁっー!」


 扉を開けると、そこには先ほどまでテレビの中にいた女が目の前にいた。

 こちらを指差して満足そうにしている。


「……どちら様ですか?」


「え? ごめんなさい、私は……って、昨日会ったばかりじゃない!」


「冗談だ。月光のミカヅキだろ? 何の用だ。うちには陥没したアスファルトを修復するような金もねぇし、飛散した骨片を片付ける金もねぇぞ」


 華麗なツッコミありがとう。

 でも、変な要件でうちに来たなら早急に帰ってほしい。


「そんなみみっちい請求の為に来ないわよ。こっちは、わざわざあなたの居所を探したんだからね」


「え? 俺の個人情報ダダ漏れすぎない?」


「ふふん、ヒーローランキング第9位を舐めないことね。私がちょっとヒーローギルドの偉い人たちに声をかければ簡単にわかるのよ」


 ミカヅキは得意気な表情で腕を組んでいたが、それは立派な情報漏洩だ。

 いくら俺のヒーローランキングが低くて無名だからってそれをやられたら困る。


 だが、雰囲気からして悪どいことを考えている感じはしない。

 本当に何をしに来たのだろうか。


「で、何の用?」


「当ててみなさい」


「はぁ? 面倒だから帰れ」


「ちょっと、中に入れなさいよ。あなたに興味があるのよ。どうしてあんなに強いのか、どうしてヒーローランキング最下位なのか」


 ミカヅキはにやりと意味あり気な笑みを浮かべていた。

 ヒーローランキングだって上位数百人しか公表されていないはずだが、やはり第9位様からすればそんな常識は関係ないようだ。


「はぁぁぁぁ……汚いけど入ってくれ」


 俺は仕方なく入室を促した。


 廊下で話すと目立ってしまう。ただでさて響きやすい木造アパートなのだ。

 とっとと用件を聞き出して帰ってもらおう。

 






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