第5話 vs骨骨骨——ボーンホネホネ

「え、え? ま、まさか、一人でやるつもりじゃないでしょうね?」


 俺は困惑している様子の女を尻目に、ローブを着たモンスターの目の前に立った。

 図体だけなら結構でかいな。


「ホネホネホネホネ! その女よりも弱い男が相手とは、我も随分と舐められたものだな!」


「あー……ローブ、名前なんだっけ?」


「名乗った覚えはないが聞かれたからには名乗ってやろう。我の名は骨骨骨ボーン・ホネホネ。墓地に集まりし成仏できぬ悪霊が集結したことで顕現した最強の亡霊である。ちなみに……我には女が使うような剣撃は一切効かぬ! 

 見よ、このカルシウムたっぷりの頑強な骨の体を! 骨の全てを粉々に砕けば我を討伐できるが、再生能力を兼ね備えている故に倒すのは至難! そう、貴様のような細っこいガリガリの腕じゃぁ不可能なのである! ふははははっ!!!」


 ローブを着たモンスターこと、骨骨骨ボーン・ホネホネは堂々と名乗りを上げた。

 自身の全身を見せつけるようにして、ローブを脱に捨てている。

 名前の通り全身が骨だ。


 よく喋るやつだな。

 そんなこと聞かずとも倒すのなんて簡単なんだよ。


「くっ……あなたはやっぱり逃げなさい! 私が時間をかせぐからヒーローギルドに行って応援を呼んできてちょうだい!」


 余裕綽々な骨骨骨ボーン・ホネホネの言葉を聞いた女はすっかり弱気になっており、今度は俺の命を助けようとまでしてきた。


 ギリギリの局面であろうと、身を挺して他者を守ろうとする姿はヒーローの鏡だ。

 だが、生憎俺は既にこいつを倒す気満々だから引く気はない。


「頭上に注意しておけよ?」


 俺はそれだけ口にすると、瞬間的に跳躍した。

 目指す先は骨骨骨ボーン・ホネホネの頭頂部付近。

 深く被っていたローブのフードがなくなったので脳天がよく見える。


 周りにはビルやらマンションが建ち並んでいるし、被害を最小限に抑えつつもこいつを倒すには上から下への攻撃が最適だ。


「へ?」


 この声を上げたのは骨骨骨ボーン・ホネホネか、はたまた女か、興味がないのでどうでも良いが、とにかく俺はその惚けた声が聞こえた時点で既にヤツの頭上に移動していた。


「砕けちまえ」


 俺はほんの僅かな力を込めた右の拳を振り下ろす。


「ぐぁっ!?」


 骨骨骨ボーン・ホネホネは、俺の拳が頭頂部に直撃すると同時に情けない声を上げた。


 しかし、そんなリアクションも束の間のこと。


 俺の拳から伝わったダメージは確実に骨全体に響き渡り、それはすぐに形として現れた。


「え? い、一瞬にして砕け散った……?」


 骨骨骨ボーン・ホネホネの体はものの見事に木っ端微塵に砕け散ると、辺りにはまるで雨のように真白い粉が降り注いだ。

 ヤツが立っていたアスファルトは大きく陥没しており、そこには黒いローブと山盛りの骨片だけが残されていた。


「ふぅ……うわぁ! スウェットが真っ白になっちまった。最悪だ。洗濯で落ちるかなぁ……」


 ひと段落して息を吐いたが、黒いスウェットが骨骨骨ボーン・ホネホネのせいで汚れたことに気がついて思わずげんなりした。

 部屋着兼外着兼ダル着兼戦闘着であるこの黒いスウェットは1着しかない大切なものだ。


 くそ。なんか久しぶりに人間と話して疲れたし、ヒーローチップス代金としての180円はこの際諦めて早く家に帰るか。

 洗濯して風呂に入って、それから飯にすっか。


 もしも汚れが落ちなかったら、この女に請求するとしよう。


「ま、まままま、待ちなさいよ!」


 用を終えたので立ち去ろうとしたのだが、なぜか女は怖い顔をして引き留めてきた。


「何だよ」


「あ、あなた何者!?」


 そんな近寄ってくるな。俺は早く家に帰りたいんだ。


「……」


「名前は!?」

 

 無視を貫いても俺の腕を離してくれなさそうだし、適当に答えて無理やり立ち去るか。


「……俺はハイドだ。ヒーロー名は……多分なかったと思う」


 ヒーローはヒーローギルドからヒーロー名を命名されたはずだが、興味がないからよく覚えてない。


「ハイド……」


「それじゃ!」


 俺の名前を復唱すると同時に腕を掴む力が弱まったので、俺はそれを見計らって全力で駆け出した。

 もちろん、直前で女が胸に抱えていたビニール袋は回収している。

 抜け目がない男なんだよ、俺は。


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