第4話 俺が倒すからいいよ
「……ふざけんなっ!」
俺は背後を見た。
すると、そこにはローブを纏う真っ黒いモンスターと一人の女がいた。
女は黄色と黒が入り混じったような髪色で、どこかで見覚えがあるような気がしなくもないが思い出せない。
前者は高さ三メートルほどで大きな漆黒ローブを纏い、傷一つない余裕そうな出立で佇む。
対して、後者は若干息を切らしながら力強く剣を構えていた。
「くっ……中々やるじゃない!」
「ホーネホネホネホネ! 其方程度の実力で我に勝てると思ったら大間違いだ! この漆黒のローブに抱かれて眠るが良い」
二人は何やらシリアスな空気感で対峙していたが、こっちからすればそれどころではない。
「お前らか! 俺のカード開封タイムを邪魔しやがったのは!」
俺は二人の間に割って入ると、互いの姿を交互に見ながら言葉を吐き捨てた。
他人に被害を与えておいて、緊迫した面持ちでやり取りしている場合じゃないぞ!
「あ、あなた! 早く逃げなさい! このモンスターは危険よ!」
女は焦った顔つきで退避を促してきたので、爆風の原因はこいつじゃなさそうだ。
となると、悪いのは対峙しているモンスターということになる。
そもそも戦闘になった原因は、理性を抑える力が乏しいモンスターにあると思う。
モンスターさえ倒せば俺の気が収まるってもんだ。
「んぁ? じゃあ終わったら教えてくれ」
俺は何歩か下がって距離を取った。
落とし前はつけてもらうぞ。時間は返してもらえないから、せめてもの償いとしてヒーローチップス代金180円(税込)を請求させてもりうからな。
モンスターが死んだら請求できないから、代わりに女に払ってもらおう。
「ヒーローランキング上位の私ですら手こずってるんだから、そんな簡単に言わないでよ!」
「はいはい」
何やら必死の形相で叫んでいたが、俺は適当に流して戦況を見守ることにした。
よくわからんが、早く終わらせてほしい。
「もうっ! 剣撃が効かないのにどうしろっていうのよ……」
「さあ、無駄話は終わったか? 女の一人も守れぬ情けない男は後で殺してやるから震えて待っているといい」
にやにやと笑いながら、ローブを纏うモンスターはこちらを見下ろしてきた。
「男とか女とか古臭いんだよ。ヒーローはランキング上位のやつが正義だ。現にそこの女は俺よりもランキングが高いしな」
「え!? あなたもヒーローなの?」
「一応な」
ギョッと驚いているが俺だってヒーローだ。
無論、無名中の無名だが。
「それなら手伝いなさいよ! 怖いなら助けを呼びにいくくらいしなさい! なんでポテトチップスの袋を握りしめて突っ立てるのよ!」
「いやいや、どうせ上位のヒーローってことはヒーローギルドから依頼されて戦ってんだろ?
それなら自分で何とかしてくれよ。俺はただ通りがかっただけだし、ほら、見ての通りプライベートだし」
長くて細っこい剣の先っちょをこっちに向けないでほしい。
そんなに凄まれるとびっくりするだろうが。
「何なのよ! 市民からすれば強くても弱くてもみんな平等にヒーローなのよ! プライベートとか関係ないんだからねっ! ヒーローである以上、目の前の脅威に立ち向かうのが当然の義務よ!」
「んー……よくわからねぇけど、あんたじゃこいつを倒せそうにないみたいだし、今回だけ戦ってみようかな。ってことで、これ持っててくれ」
俺は頬を膨らませて不満そうにしている女にコンビニのビニール袋とポテチの袋を強引に預けた。
このまま言い争いをしても時間が勿体無い。
俺はヒーローの信念やら人助けやらに興味はないが、平穏を壊されるのは嫌なのでとっとと終わらせてやることにした。
そもそもこんなやつは脅威でも何でもない。
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