精神病棟

「タトゥーカッコいいね」


呟いたのは3つくらい下の女の子、ハルちゃんだった。

入院初日目で憂鬱にかられているところに、少し安堵がみられた。

乖離性同一性障害を抱えた君は多重人格を持っていた。

まだ夏が残る中、唯一、外を感じられるベランダへ行き(看護婦の許可が必要)君は僕にいくつもの人格を降ろし、披露していた。

僕達は起床から消灯まで長い時間を共にした──。

君は中学から学校へは通わず、今の24歳までを実家で過ごしたという。

母親と口論になり母を突き飛ばし、警察を呼ばれ、留置所を経由しこの精神科に入院した。

僕が暮らしてきた環境下とはまた違った不良──反発の仕方がここにはあった。


彼女は映画"蛇にピアス"がお好みらしく、タトゥーやピアスに興味があり、ヴィジュアル系の音楽も詳しいようでした。

この時僕には腕、指、背中、首、にビッチリではないものの、各場所にタトゥーを施していた。


多分だけど君の持つ不良性と僕の持つ不良性が共鳴したのだ──。

だけれど君の僕への感情はエスカレートしていく。

僕にはその時、オーバードーズをしてから連絡が取れずにいる彼女が居た。

もちろんスマホなぞ手元にない。

あるのは母親の差し入れのネコの雑誌と自宅に保管していたブラックラグーンの漫画のみだ。


何をするか、何を話すか、僕の細部まで君が干渉するようになり、嫌気がさした。


オーバードーズで打ちどころの悪かった右足の甲からの出血により、1日3回、1週間の点滴地獄と一緒にそのコとの関わりも、僕が独居の部屋に閉じこもる事で徐々に距離が出来てきていた。

けれど1日3食、夜の薬は飲まねば喰はねばならない、ので共用スペースへ車椅子を運ぶ──。


君は

「退院したらグループホームに入るか実家に帰るしかないんだけど、実家は私を受け入れてないからグループホームに入るしかないかな」


「生活保護を受ければいい、今の担当者はわかってくれないだろうけど社会に出れば、その単純な仕組みがよく分かる。要するに時間を稼ぐか、金を稼ぐしかないんだよ」


僕は何度も説教のごとくでも優しく毎日入院中、彼女と居る時はそう、囁いた──。

  

そうこうしてる間に僕は軽い障害を抱えたまま──精神科の入院中にも簡易的なリハビリはあったものの一向に良くはならず、退院の日をむかえる。





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