入院

目が覚めた──というのか、目は開いているか開いていないかわからない。

意識だけがある植物人間みたくなっていた。

口には酸素を送る機械がはめられ、外しても口は動かず喋る事は不可能。右足には骨折しているのではないか、くらいの強い痛み──勿論、全身のどこも動かす事は出来ない。

失敗した──薬を飲んでいるところまで記憶はあるがなんせここは病院なのかなあという、それさえ曖昧な状態だった。


頭の中では古びた病院の角の簡素な仕切りの一室で鼻に管が通り、その病院はヤブで爆発事故を起こした。酸素がなくなりかけなんらかの装置が鳴り、院長は寝ており、全く起きないので看護婦が院長の部屋窓ガラスをほうきのえでかち割った。慌てて起きた院長はすぐさま周囲の人間に注意喚起をやり、そのうち緊急で駆けつけた別の看護婦が僕の元へやって来た。


「まだ助かるかもしれません、頑張りましょう」


「もう爆発され病院の器具も大破していますしもう無理でしょう」


「そんな事言わずに頑張りましょう」


「いえ、もう構わないです、元々自殺未遂ですし、思い残す事はないので……この鼻の管抜きます」


「……わかりました、私も看護婦です。このような事態は初めてですが、患者を見捨てる訳にはいきません。私も一緒にここで死にましょう」


緊急でドクターが到着した。

僕は片方の目、以外全てを失っていた。

今まで堕落していたヤブ医者達が急に連携をとりだし僕を救うことに全力を注いだ。

爆破して煙が舞うそのボロ病院は並行して薬を野外で売り出す。メガホンで道ゆく人々に薬を配った。電話は鳴り止まず、風邪だの頭痛だの逆がわんさか来て、ネット上でもバズり、世界中から僕の目、から始まり全身を回復させる知恵と応援の声が集まっていった。

片目をギョロギョロさせていると、意識が遠のく──。


「……聴こえますか!聴こえますか!」


目が覚め、意識が少し回復すると全く服装の違う看護婦が立っていた。

僕は病院で緊急治療を受けながら、架空の病院で治療される夢を見ていた。

こっちが現実世界だった。

伊那中央病院の緊急治療室で1週間程、意識がなかったらしい。

なんの因果か、手も足も口も動かなく植物人間状態で助かってしまった。

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