移住

「最近どうなの?」


「仕事かな。養育費とか車のローンとかあるからな」


「大変だなあ」


「当たり前だろ!社会人なんだし」


「そうか〜、あの頃が懐かしいなあ。学校行く前、一緒にタバコ吸ってさ、あの駐車場で」


「あー、そうだったなあ」


「BLANKEY JET CITY教えてくれたの、ぐっちゃんだったからなあ。今も聴いてるよ。しかしMODS好きが同世代に居るとはねぇ」


「最近はThe Birthdayだな。チバユウスケ!ベンジーも勿論カッコいいけど」


近頃、ニコニコ生放送に凝っていた。

すると1人のオンナと出会い、そのオンナは長野県に住む、精神を病んでしまったオンナだった。

僕は生活保護での社会からの孤立、アルコール、クスリ──限界だった。

故郷の香川県、親、全て捨てて長野県に引っ越す事にした。下見もせずにオンナにテキトーな部屋、なるだけ立地のいいアパートを見繕ってもらい、契約を進める。


「今度、長野県伊那市に移住するのですが生活保護の受給は可能ですか?」


「今の現段階ではなんともお答え出来ません。こちらの生活福祉課に来て頂かないと」


「いや、わかるんですが、生活保護の目処が立たないとこちらも引っ越すに引っ越せないのです。

今の香川県では仕事が見つからず、そちらで社会復帰したいのです」


「現在のケースワーカーに相談されてはいかがですか?」


僕の担当のケースワーカーは僕より歳下でありながら仕事も出来そうな男の子でしたが僕がやろうとする県を跨いだ生活保護の継続は珍しく、不可能に近いほどに思えました。

僕は生活福祉課の職員とのやり取りに苛立ち、アパートの壁を2枚──殴り抜きました。


「もう今の暮らしは限界だ。なんでも良い、環境を変えたい、全て捨て去って。」


5月くらいだったろうか。

香川県のノリで行ったらば、長野県は極寒だった。

服装を完全に間違えた。

オンナの母親の箱バンで迎えが来た。

見繕ってもらったアパートはある最低限度の布団、カーテンをあらかじめ用意させていた。

下見もせず借りたアパートに入ると、炊飯器にご飯が炊けていた。


「とりあえずコンビニ行こう」


ニコニコ生放送で知り合った、会った事もない初対面のオンナとタバコを買い、その日は睡眠薬で1人で眠った。

生活保護が通る保証もなければ、正直、働く気はさらさらない。もうのたれ死んでもいいとさえ思っている。

不安を煙で空中にやるようにこの日が過ぎた──。



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