第5章:心の色彩 (中年期: 2021-2035)
2021年、春の穏やかな日差しが研究所に差し込む中、36歳の舞は最新の研究成果を発表していた。感情と量子意識の相関に関する革新的な理論。舞の声には、かつてない情熱が宿っていた。聴衆の熱狂的な反応に、舞は胸が熱くなるのを感じた。「誇り」という感情が彼女を包み込む。同時に、その責任の重さに「不安」を覚えた。舞は初めて、相反する感情を同時に体験した。
38歳の時、舞の両親が相次いで病に倒れる。認知症を患った父と、がんと診断された母。最先端の医療技術を駆使しても、両親の状態は悪化の一途をたどった。病室で父の手を握り、その記憶が薄れていく様子を目の当たりにした舞は、初めて「無力感」という感情を経験し、深い「悲しみ」に襲われた。涙が止まらない。科学では解決できない問題に直面し、舞は感情の重要性をより深く理解するようになった。
両親の介護を通じて、舞は「思いやり」と「忍耐」を学んでいった。母の痛みを和らげるためにマッサージをする舞の手つきは、かつての機械的な動きから、優しさに満ちたものへと変わっていた。父の好きだった歌を一緒に口ずさむ時、舞の表情には温かな微笑みが浮かんでいた。
40歳の時、舞は感情と記憶の関係に関する新たな研究プロジェクトを立ち上げた。この研究は、アルツハイマー病の治療法開発にもつながる可能性があった。舞は、科学の力で人々を救いたいという強い「使命感」に駆られていた。研究室で夜遅くまで働く舞の姿には、かつての冷徹さはなく、人間的な温かみが感じられるようになっていた。
42歳、舞の母が他界した。葬儀の日、舞は激しい悲しみに襲われ、止めどなく涙を流した。しかし同時に、母との思い出が、温かな光となって心を照らすのを感じた。その瞬間、舞は自身の感情の深さと、人間としての成長を痛感した。ジョンは黙って舞を抱きしめ、その温もりが舞に大きな「慰め」をもたらした。舞は初めて、悲しみの中にも愛があることを理解した。
44歳で、舞は世界的な感情研究センターの所長に就任。彼女は、自身の経験を生かし、感情と理性のバランスの重要性を説く講演を世界中で行った。その姿は、かつての「感情のない天才少女」の面影はなく、深い洞察と豊かな感性を兼ね備えた科学者のものだった。聴衆は、舞の言葉に深く共感し、涙を流す人も多かった。
46歳の時、舞とジョンの娘・真理(まり)が大学に入学した。真理は母とは対照的に、幼い頃から豊かな感受性を持っていた。娘を送り出す時、舞は「寂しさ」と「誇らしさ」を同時に感じ、複雑な感情に戸惑いながらも、その豊かさを心から味わった。舞は、娘の成長を通じて、自分自身の感情の発達を振り返った。
48歳、舞は自身の半生を振り返る自伝を執筆。感情を持たない天才少女から、豊かな感情を持つ科学者へと至る自身の変遷を、科学的観察と個人的な内省を交えて記した。執筆過程で、舞は何度も涙し、笑い、そして深く考えた。この過程で、舞は自己に対する深い「理解」と「受容」を得た。
章末、50歳の舞の研究ノート:
「感情と理性の調和こそが、真の知性の本質であることが、ますます明確になってきた。かつての私は、感情を非論理的で不要なものと考えていた。しかし今、感情こそが人生に意味と深みを与えるものだと理解している。同時に、理性の重要性も変わらない。この両者のバランスを探求することが、今後の私の人生と研究の中心テーマとなるだろう。そして、この探求が人類の幸福と進歩にどのようにつながっていくのか、見守っていきたい。感情を持つことで、私は科学者としてより深い洞察を得られるようになった。これからも、感情と理性を両立させながら、人類の幸福に貢献していきたい」
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