第2章:論理の迷宮 (思春期: 1998-2003)

 1998年、春の陽光が東京大学のキャンパスに降り注ぐ中、12歳の舞は初めて大学の門をくぐった。周囲の学生たちが新学期の高揚感に浸る中、舞の表情は相変わらず無感情だった。しかし、その瞳の奥深くには、かすかな好奇心の光が宿っていた。


 物理学部の講義室で、舞は量子力学や相対性理論を学び始めた。複雑な方程式や概念を理解する舞の速さに、教授たちは驚嘆した。しかし、舞の鋭い質問や冷徹な論理は、時として周囲に不快感を与えた。「なぜ感情的な要素を考慮する必要があるのですか? 純粋に論理的な解決策を追求すべきではないでしょうか」という舞の問いかけに、教授たちは答えに窮した。


 14歳で最初の論文を発表した舞は、量子もつれに関する新理論を提唱。物理学界に衝撃が走った。しかし、授賞式で「この成果をどう感じていますか?」と聞かれ、舞は「感じるということがわかりません」と答えた。その瞬間、舞の心の奥底で、何かが微かに揺らいだ。


 15歳の時、舞は初めて「興味」に似た感覚を覚えた。脳科学の講義で感情のメカニズムについて学んだ際、舞は通常以上の集中力を感じた。「これが興味なのだろうか」と舞は考えた。その夜、舞は初めて自分の感情について日記に書き留めた。


 16歳で博士課程に進学した舞は、感情と意思決定の関係について研究を始めた。彼女は自身を被験者として、様々な状況下での脳の活動を分析した。実験中、美しい音楽を聴いたり、悲しい映画を見たりする中で、舞は微かな感情の芽生えを感じ始めた。


 17歳の誕生日。両親が感情表現のワークショップへの参加を提案した。初めは難色を示した舞だったが、「新しい経験は研究に有益かもしれない」と考え、参加を決意した。ワークショップで、舞は初めて「笑顔」を作ることを学んだ。鏡に映る自身の笑顔を見て、舞は奇妙な感覚を覚えた。それは科学的に説明できるものではなかったが、舞の内面に小さな変化をもたらした。


章末、17歳の舞の研究ノート:

「感情の研究は予想以上に複雑だ。論理だけでは説明できない要素が多い。自身の'興味'という感覚も、客観的に分析することが困難だ。しかし、この研究は重要だ。感情が人間の意思決定や社会的相互作用に与える影響は計り知れない。今後は、自身の変化も観察対象として、より深い研究を進めていく必要がある」


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