第46話 教育

「何となく察しの通り、俺たちは強い」


 体育館に集められた生徒たちと、彼らの前に立つ7人の鬼。


「だから今日は、ヒューマノイドと戦えるようになる特訓をしてやろうと思う」


「「「おおおおおお!」」」


 しかしなぜだ?

 頭鬼たちから戦闘する気配をまるで感じない。


「変ですね」


「ああ、私も同感だ」


 そして、その事にアリシアとフリージアは気づいている。


「まぁまぁ落ち着け。

 今日はスペシャルゲストを呼んであるんだ。

 派手にやろうぜ」


 頭鬼がそう言うと、6人のメイドが無の空間から現れた。


 いや、違う。

 よく見ると、グラウンドに丸い影が6つ配置されている。

 つまりこれは、台本通りの盛り上がり演出というわけだ。


「「「無からメイドが現れたぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」


 だが、この反応。

 やってよかったと言わざるを得ない。


「ワヒド……じゃなくて、慎鬼です!」


 この子はワヒド。

 可愛らしく、慎ましいところから慎鬼と名付けられた。

 鬼力順応率は51%。


「凛鬼です。よろしくお願いします」


 この子はイスナン。

 いつも凛としているところから凛鬼と名付けられた。

 鬼力順応率は52%。


「慮鬼です」


 この子はサラサ。

 控えめな性格から慮鬼と名付けられた。

 鬼力順応率は55%。

 

「心鬼。よろしくです」


 この子はアルバア。

 常に冷静で頼りになるところから心鬼と名付けられた。

 鬼力順応率は55%。


「律鬼です。よろしくお願い致します」


 この子はカムサ。

 規則、ルールに忠実であるところから律鬼と名付けられた。

 鬼力順応率は53%。


「軽鬼、よろしくするです」


 この子はシッタ。

 おっちょこちょいな1面を持つことから軽鬼と名付けられた。

 鬼力順応率は52%。


「まぁ、自己紹介はこれくらいにして……」


 わくわくした様子でニヤリと笑う頭鬼。

 その表情はどこか、入学試験のメルサーを彷彿とさせる。


「乱戦開始だ!」


「「「はいっ!」」」


 次の瞬間、メイドたちは地面を蹴った。


「あっ、そうそう。

 本気でやらなきゃ……殺られるよ?」


 その笑顔、悪魔である。


「……だって、この子たちは本物の……」


「鬼族なんだから!」


 鬼族。

 彼らは世界最古の種族であり、この世にはもう存在しないとされていた最強の種族。


 しかし、鬼族の血は確かに受け継がれていたのだ。


「セイス・ミニ・デモニアス、初陣だ」


 鬼族が見つかったのは、メイドたちが頭鬼に鍛えて欲しいと懇願した時のこと……。


「ん? ヒューマノイドと戦えるくらい強くなりたいって?」


 1人ソファで佇む頭鬼に、彼女たちは頭を下げた。


「「「お願いします」」」


「待て待て。あのなぁ……」


 日常を最恐の殺し屋として生きる頭鬼は、腕と脚を組むと、彼女たちのために現実を語る。


「本当にやめといた方がいいぞ。

 だって、例えばだ。

 身を守るための護身術は役に立つだろ?

 カラテの型みたいなものは絵になるだろ?

 なら、殺人術や暗殺術を磨いたら、何になるんだ?」


 戦争とは、命を奪い合うやりとり。

 戦争とは、たった1つの命を奪い合うやりとり。


 頭鬼はそれを、誰よりもよく知っている。


「つ、強い人……?」


「この世界を守れる人になるです」


 ワヒドとシッタを除く他4人は、沈黙している。

 それもそうだ。


 答えを出せる思考力と経験を、彼女たちは持ち合わせていないのだから。


「まぁ確かに、そういう存在にもなれるかもな。

 でも、正しい答えはこうだ。


 『人の殺し方を知っている人になる』


 分かったか?

 せっかくこんなに可愛く生まれたんだ。

 どうせなら、最高の人生を歩みたいだろ?」


 頭鬼の優しさは、6人の心を確かに揺らした。

 しかし、彼女たちも半端な心構えで頼んでいる訳では無い。


「い、いえっ……!

 それでも、わ、私たちは……私たちは……」


 目を合わしては逸らしながらも、ワヒドは必死に言葉を紡ぐ。


「日々世界を救うため戦っている、頭鬼様の力になりたいんです!」


 その時だった。

 ワヒドの額に半透明の角が現れたのは。


「わ、ワヒド……!?」


「は、はい……?」


「そ、その角ってまさか……!?」


 頭鬼は知っている。

 現在鬼と呼ばれている存在は、鬼族という種族にあやかって付けられた名であると。


「ワヒド、血を1滴垂らしてくれ」


「こ、こうですか……?」


 頭鬼が差し出した手のひらにワヒドは1滴の血を垂らす。


「……これ、絆創膏……」


「あ、ありがとうございます!」


 いつの間にか部屋にいた白鬼は、ワヒドの人差し指に絆創膏を巻いた。


「おいおいまじかよ……本物じゃんこれ」


 頭鬼が鬼火で燃やすと、血は緑の炎色反応を示した。


「ふーん、推定だけど51%くらいじゃない?」


「うん、多分52はいかないくらいだと思う」


 そしてこの2人も、


「完全に鬼なの」


「これは鬼ね!」


 この2人も、いつの間に入ってきたのだろうか。


「よーし、分かった。

 今日から当番制で鍛えてやる、特別だぞ」


「「「あ、ありがとうございます!」」」


 そんな経緯があり、今日に至る。

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六殺鬼が救世主ってどうなの? ゆざめ @yuzameto

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