第42話 来襲

「すみません。1人気になる相手を見つけたので、少し離籍します」


「はぁ!?」


「どこへ行くの?」


 σはオオカミ型ヒューマノイドを呼びつけると、崖下へと飛んだ。


「すぐに戻ります」


 残された2人は、20匹のオオカミと睨み合う。


「まぁ、やるしかねぇよな」


「そうね。下の方も順調みたいだし、彼らがいるんでしょ?」


「ああ。いざとなったら、俺らの鬼望が守ってくれるさ」


 笑顔で顔を見合わせる2人。


「ガルルルルル……」


「さぁ、やるぜ!」


「催促で終わらせるわよ」


 ゴツゴツしている地面のおかげか、オオカミたちは襲ってこない。


「鬼力解放」


「鬼力解放よ」


 2人は力強く地面を蹴った。


 ちょうどその頃、σはベンチに座る頭鬼に声をかけていた。


「あなた、ωを知っていますね?」


「ω? まぁ知ってるけど、名前同じなんだな」


「……確かに不思議……」


 2人が言うように、ヒューマノイドの呼称が一致しているのはおかしい。


「確かにそれも気になりますが、今はどうでもいいです。正直に答えてください。

 あなたがωを殺しましたか?」


「ああ。殺したよ」


 次の瞬間、σの殺気を感知した白鬼が飛びかかろうとしたが、頭鬼に止められた。


「……あいつ、殺そうとしてる……」


「分かってる。少し待ってくれ」


 なぜか、頭鬼は笑った。


「なぜですか? なぜあなたは人を殺すのですか?」


「ばーか、人殺しを殺しただけだ。

 そこに人も機械も関係ねーよ」


 言い終わると同時にσは剣を抜いた。


「人でなし」


「あれ? 感情出かけてるぞ、お前」


「チッ」


 両手で力強く振り下ろされた剣。

 しかし、再び剣は止められた。


「次から次に面倒臭いです」


「な、なんとか間に合いましたわ!?」


「おいおい、無抵抗とか死ぬ気か!?」


 止めたのは、鬼力を纏った剣と足。


「もう大丈夫ですわ」


「あとは任せとけ」


 空から現れた見覚えのある2人組。


「アリシア、一気に詰めるぞ」


「ええ、そのつもりですわ」


 どうやら、分鬼の見ていた未来はこれらしい。


「わーお! ちょっと怖かったかも、なぁ白鬼!」


「……流石は頭鬼……!

 ……少しドキドキした……!」


 反撃に出るアリシアとフリージアを他所に、盛り上がる頭鬼と白鬼。


「援軍ですか? いつの間に……」


「ふっふーん! 教えてあげましょう!」


「言ってやりなさい!」


 困惑するσに分鬼が言う。


「私、未来が見えるんです!」


 腰に手を当てながら、何とも偉そうだ。


「なるほど。珍しい技を使いますね」


「は、反応うっすぅ……」


 しかし、盛り上がることは無かった。


「おお! なんかアリシア来てんじゃん!」


「それを言うなら、フリージアも来てるわよ」


 あっという間にオオカミたちを片付けたクラチとハースは、少し息を整える……。


「あっ、サボり発見。えいっ」


「「あっ、えっ、ちょっと!?」」


 余裕もなく、エリーゼに崖下へと落とされた。


「これは戦争、休んでる暇はない」


「そ、そうだな……!」


「そ、そうね……!」


「正論パンチ」


 3人はすぐに、生徒たちの援護に回った。


「ナンバーズ5、幸運のマイコン」


「ナンバーズ4、片翼のシウバ」


 ナンバーズ4、5も戦闘に加わり、状況はますます良くなっていく。


幸運連打ラッキーラッシュ!」


翼矢連撃ウィング・アロー


 マイコンが詰め、シウバがカバーする。

 流石はナンバーズ上位者だ。


 ただ……。


「おい、3番目野郎はどこ行った?」


「それに関しては、あの子を連れてきたあなたが悪いわ」


「げっ……すいません」


 癖の強そうなナンバーズ3。

 果たして、見られる日は来るのだろうか。


 その頃、σは若者の勢いに圧倒されていた。


「ここまで隙がないと、攻め方が分からなくなります」


 背中を気にする素振りを見せるσ。

 ここに来て、クラチの攻撃が効いているのだろうか。


「あら、素直に嬉しいですわ」


「おいおい、今から殺してやろうってやつに感謝なんかすんな」


「全くもって同感」


「「えっ、誰っ!?」」


 2人の横には、エリーゼがいた。


「私もやる。2人の足は引っ張らないから安心して」


 やる気満々なエリーゼを見て、2人は静かに頷いた。


「やりますわよ!」


「やってやるぜ!」


「殺す」


 しかし直後、状況が一変する。


「ま、まずいよ……!?」


「どうした?」


「……嫌な予感……」


「急にどうしたんだい?」


 カマキリ型のヒューマノイドを投げ飛ばしたところで、突然分鬼の様子がおかしくなった。


「に、逃げなきゃやばい!」


「だから、その理由を教えてくれよ」


 この時、頭鬼は右手に鬼力を集めていた。

 万が一に備えるために。


「やばいのが来る……!

 ここ全体が吹き飛ぶくらいやばいのが……」


「μか。お前ら、ここは俺に任せてすぐに全員を逃がせ」


「……わ、分かった……」


「了解」


「い、急ごう……!」


 頭鬼の真剣な顔を見た白鬼は、珍しく素直に指示を聞きいれた。


「……陰鬼、影鬼、みんなを逃がして……」


「任せといて!」


「分かったの」


 白鬼から来る指示は、緊急事態という意味を持つ。

 そのため、2人はすぐに行動に移した。


「先生、全員を61区画に逃がすの」


「はぁ? どうしたんだよ。

 もう少しで勝てそうじゃねぇか」


「先生。最悪の場合、私たち全員が死ぬの」


 影鬼の真剣な目は、クラチにωを思い起こさせた。


「わ、分かったよ……!

 すぐに声かけてくるわ!」


 光戦機動隊の隊長を務めるクラチは、凄まじい速さで戦場を駆ける。


「ハース、全員を逃がすわ! 手伝って!」


「分かったよ」


 (初対面なのにガツガツ来るなぁ……)


 内心ではそう思ったが、ハース自身も何か嫌な予感がしていた。


 突如慌ただしくなった戦場。


「な、なんとか間に合ったの……!」


「こちら陰鬼、完了したわ!」


 そして、避難は完了した。

 その時間、僅か2分。


「流石の手際だ。あとは任せろ。

 対鬼術用月火鬼術、月火障壁ムルス・イグニス


 厚い鬼火に覆われた結界が、シグルマの一角を覆う。


「なぜ避難したのですか?

 もしかして、逃げる気ですか?」


 どうやら、σは気づいていないようだ。


「お前、あれ見ろよ。

 あんなの、まともに戦える訳ねぇだろ」


「あれ……?」


 振り返ったσの目に、一体のヒューマノイドが映る。


「あ、あれは……μ!?」


 気づいた時にはもう遅い。


「標的を確認、殲滅モードに移行。

 術式照合開始、成功。

 術式段階調整開始、成功。

 術式装填開始、成功。

 鬼術発射まで……5、4、3、2、1」


「これが本物の第8階級天楼鬼術キリサメかぁ……最っ高」


「バカか、逃げるぞ」


 頭鬼は夜鬼を連れ、陰鬼の陰に消えた。


「発射」


「これは予想外です。

 ふふふ、いい人生でした」


 次の瞬間、第60区画は更地となった。


「殲滅を確認。帰還モードに移行」


 当然、σは死んだ。

 感情を持たない味方のせいで。


「ねぇねぇ、頭鬼様」


「なんだ?」


「あいつ笑ってたよ」


 死に際、確かにσは笑っていた。


純黒眼スコープでも使ったか?」


「うへへ、バレちゃった」


「まぁでも、不思議だよな」


 こうして、σ討伐作戦は急遽終了した。


 しかし、勝利とは呼べない。


 だってこの世界は、区画を軽々と消し飛ばした、あの強敵と戦わなければならないのだから。「すみません。1人気になる相手を見つけたので、少し離籍します」


「はぁ!?」


「どこへ行くの?」


 σはオオカミ型ヒューマノイドを呼びつけると、崖下へと飛んだ。


「すぐに戻ります」


 残された2人は、20匹のオオカミと睨み合う。


「まぁ、やるしかねぇよな」


「そうね。下の方も順調みたいだし、彼らがいるんでしょ?」


「ああ。いざとなったら、俺らの鬼望が守ってくれるさ」


 笑顔で顔を見合わせる2人。


「ガルルルルル……」


「さぁ、やるぜ!」


「催促で終わらせるわよ」


 ゴツゴツしている地面のおかげか、オオカミたちは襲ってこない。


「鬼力解放」


「鬼力解放よ」


 2人は力強く地面を蹴った。


 ちょうどその頃、σはベンチに座る頭鬼に声をかけていた。


「あなた、ωを知っていますね?」


「ω? まぁ知ってるけど、名前同じなんだな」


「……確かに不思議……」


 2人が言うように、ヒューマノイドの呼称が一致しているのはおかしい。


「確かにそれも気になりますが、今はどうでもいいです。正直に答えてください。

 あなたがωを殺しましたか?」


「ああ。殺したよ」


 次の瞬間、σの殺気を感知した白鬼が飛びかかろうとしたが、頭鬼に止められた。


「……あいつ、殺そうとしてる……」


「分かってる。少し待ってくれ」


 なぜか、頭鬼は笑った。


「なぜですか? なぜあなたは人を殺すのですか?」


「ばーか、人殺しを殺しただけだ。

 そこに人も機械も関係ねーよ」


 言い終わると同時にσは剣を抜いた。


「人でなし」


「あれ? 感情出かけてるぞ、お前」


「チッ」


 両手で力強く振り下ろされた剣。

 しかし、再び剣は止められた。


「次から次に面倒臭いです」


「な、なんとか間に合いましたわ!?」


「おいおい、無抵抗とか死ぬ気か!?」


 止めたのは、鬼力を纏った剣と足。


「もう大丈夫ですわ」


「あとは任せとけ」


 空から現れた見覚えのある2人組。


「アリシア、一気に詰めるぞ」


「ええ、そのつもりですわ」


 どうやら、分鬼の見ていた未来はこれらしい。


「わーお! ちょっと怖かったかも、なぁ白鬼!」


「……流石は頭鬼……!

 ……少しドキドキした……!」


 反撃に出るアリシアとフリージアを他所に、盛り上がる頭鬼と白鬼。


「援軍ですか? いつの間に……」


「ふっふーん! 教えてあげましょう!」


「言ってやりなさい!」


 困惑するσに分鬼が言う。


「私、未来が見えるんです!」


 腰に手を当てながら、何とも偉そうだ。


「なるほど。珍しい技を使いますね」


「は、反応うっすぅ……」


 しかし、盛り上がることは無かった。


「おお! なんかアリシア来てんじゃん!」


「それを言うなら、フリージアも来てるわよ」


 あっという間にオオカミたちを片付けたクラチとハースは、少し息を整える……。


「あっ、サボり発見。えいっ」


「「あっ、えっ、ちょっと!?」」


 余裕もなく、エリーゼに崖下へと落とされた。


「これは戦争、休んでる暇はない」


「そ、そうだな……!」


「そ、そうね……!」


「正論パンチ」


 3人はすぐに、生徒たちの援護に回った。


「ナンバーズ5、幸運のマイコン」


「ナンバーズ4、片翼のシウバ」


 ナンバーズ4、5も戦闘に加わり、状況はますます良くなっていく。


幸運連打ラッキーラッシュ!」


翼矢連撃ウィング・アロー


 マイコンが詰め、シウバがカバーする。

 流石はナンバーズ上位者だ。


 ただ……。


「おい、3番目野郎はどこ行った?」


「それに関しては、あの子を連れてきたあなたが悪いわ」


「げっ……すいません」


 癖の強そうなナンバーズ3。

 果たして、見られる日は来るのだろうか。


 その頃、σは若者の勢いに圧倒されていた。


「ここまで隙がないと、攻め方が分からなくなります」


 背中を気にする素振りを見せるσ。

 ここに来て、クラチの攻撃が効いているのだろうか。


「あら、素直に嬉しいですわ」


「おいおい、今から殺してやろうってやつに感謝なんかすんな」


「全くもって同感」


「「えっ、誰っ!?」」


 2人の横には、エリーゼがいた。


「私もやる。2人の足は引っ張らないから安心して」


 やる気満々なエリーゼを見て、2人は静かに頷いた。


「やりますわよ!」


「やってやるぜ!」


「殺す」


 しかし直後、状況が一変する。


「ま、まずいよ……!?」


「どうした?」


「……嫌な予感……」


「急にどうしたんだい?」


 カマキリ型のヒューマノイドを投げ飛ばしたところで、突然分鬼の様子がおかしくなった。


「に、逃げなきゃやばい!」


「だから、その理由を教えてくれよ」


 この時、頭鬼は右手に鬼力を集めていた。

 万が一に備えるために。


「やばいのが来る……!

 ここ全体が吹き飛ぶくらいやばいのが……」


「μか。お前ら、ここは俺に任せてすぐに全員を逃がせ」


「……わ、分かった……」


「了解」


「い、急ごう……!」


 頭鬼の真剣な顔を見た白鬼は、珍しく素直に指示を聞きいれた。


「……陰鬼、影鬼、みんなを逃がして……」


「任せといて!」


「分かったの」


 白鬼から来る指示は、緊急事態という意味を持つ。

 そのため、2人はすぐに行動に移した。


「先生、全員を61区画に逃がすの」


「はぁ? どうしたんだよ。

 もう少しで勝てそうじゃねぇか」


「先生。最悪の場合、私たち全員が死ぬの」


 影鬼の真剣な目は、クラチにωを思い起こさせた。


「わ、分かったよ……!

 すぐに声かけてくるわ!」


 光戦機動隊の隊長を務めるクラチは、凄まじい速さで戦場を駆ける。


「ハース、全員を逃がすわ! 手伝って!」


「分かったよ」


 (初対面なのにガツガツ来るなぁ……)


 内心ではそう思ったが、ハース自身も何か嫌な予感がしていた。


 突如慌ただしくなった戦場。


「な、なんとか間に合ったの……!」


「こちら陰鬼、完了したわ!」


 そして、避難は完了した。

 その時間、僅か2分。


「流石の手際だ。あとは任せろ。

 対鬼術用月火鬼術、月火障壁ムルス・イグニス


 厚い鬼火に覆われた結界が、シグルマの一角を覆う。


「なぜ避難したのですか?

 もしかして、逃げる気ですか?」


 どうやら、σは気づいていないようだ。


「お前、あれ見ろよ。

 あんなの、まともに戦える訳ねぇだろ」


「あれ……?」


 振り返ったσの目に、一体のヒューマノイドが映る。


「あ、あれは……μ!?」


 気づいた時にはもう遅い。


「標的を確認、殲滅モードに移行。

 術式照合開始、成功。

 術式段階調整開始、成功。

 術式装填開始、成功。

 鬼術発射まで……5、4、3、2、1」


「これが本物の第8階級天楼鬼術キリサメかぁ……最っ高」


「バカか、逃げるぞ」


 頭鬼は夜鬼を連れ、陰鬼の陰に消えた。


「発射」


「これは予想外です。

 ふふふ、いい人生でした」


 次の瞬間、第60区画は更地となった。


「殲滅を確認。帰還モードに移行」


 当然、σは死んだ。

 感情を持たない味方のせいで。


「ねぇねぇ、頭鬼様」


「なんだ?」


「あいつ笑ってたよ」


 死に際、確かにσは笑っていた。


純黒眼スコープでも使ったか?」


「うへへ、バレちゃった」


「まぁでも、不思議だよな」


 こうして、σ討伐作戦は急遽終了した。


 しかし、勝利とは呼べない。


 だってこの世界は、区画を軽々と消し飛ばした、あの強敵と戦わなければならないのだから。

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