第41話 戦闘開始

「さぁ皆さん、裁きの時間です」


「さぁお前ら、未来を守る時間だ」


 お互いのトップの声と共に、激しい戦闘が始まった。


「……ねぇ頭鬼……」


「ん? 行かねぇのか?」


 突っ込もうとした頭鬼の制服の袖を掴み、優しく引っ張る白鬼。

 そんな珍しい白鬼の行動に、頭鬼の思考は一瞬固まった。


「……分鬼が少しだけ待って欲しいって……」


「ほーん……で、その分鬼はどこにいるんだ?」


「……あっち……」


 白鬼が指さしたのは、ハースが身体を動かしていた岩の裏。


「何してんだ、あいつ」


「……陰鬼に守られながら未来を見てる……」


「何のために?」


「……頭鬼のため……」


「えっ? どういう意味だ?」


 頭鬼は首を傾げる。


「……頭鬼は面白いのが好き……」


「ふーん。とりあえず、面白そうだから乗った」


 そう言うと、頭鬼は白鬼の手を取り、鬼力で作り出したベンチに座った。


「女の子を地面に座らせちゃだめ。

 これ、小さい頃母さんによく言われたんだよな……って白鬼!?」


 当然、白鬼はガチガチに固まっている。


「おーい、おーい」


 頑張って理性を保つ白鬼は、弱々しい声で言う。


「……きゅ、休憩……」


「わ、分かった」


 それからすぐ、頭鬼にバレないよう、ゆっくり手を解いた白鬼であった。


 一方その頃、クラチはというと……。


「どうだ? 前よりやれてんだろ?」


「うわー、流石は先生なのー」


「あっ、うわっ、今の普通に萎えたわ!」


 影鬼と会話しながら、軽快に昆虫型ヒューマノイドを捌いていた。


 やはり、経験者は強い。


「弥生、三日月、やるよ」


 そして、この男も。


「傷つけないよう優しくね」


 ルベンは独り、剣と会話しながら、昆虫型ヒューマノイドの首を次々とはねている。


「あれ? 案外いけてるね。

 弥生、三日月、このまま続けようか」


 ルベンの声に答えるように、弥生と三日月は宙を舞う。


「おいおい、あいつ初めてなんだよな……」


「そのはずだけど……」


 初めてヒューマノイドと戦闘する生徒からすれば、ルベンはさぞかっこよく見えていることだろう。


「ねぇ、何見てるの?」


「「げっ!?」」


「あっ、そうか。

 僕はルベン・ブライム3年生、ナンバーズ9やってます。

 これでいいのかな?」


「「あ、ありがとうございます!」」


 普通、この状況で自己紹介はしない。


「やべっ、俺あの人好きかも!」


「俺も俺も! よっしゃあ、ボコボコにしてやろうぜ!」


「おう!」


 ただ、今回に限っては逆に好感を持たれたようだ。


「よーし、それじゃあ続けよっか」


 絶好調なルベンは、再び戦場を駆けていくのだった。


「さぁさぁ、ボクの相手は君たちかな?」


 夜鬼の前に立ちはだかる100体のハイエナ型ヒューマノイド。


「ん? 君たち笑ってるの?

 あはは! ボクも最高の気分だよ!」


 ハイエナ特有の笑ったような鳴き声を聞き、更にテンションが上がる夜鬼。


「じゃあ、ボクを楽しませてね!」


 楽しむためか、夜鬼は鬼力を解放しない。


「ねぇねぇ、そんなもんじゃないでしょ?」


 痛みすら楽しい、痛みが醍醐味。

 これこそが夜鬼だ。


漆黒ダーク!」


 時間が経てば経つほど、ハイエナは倒れていく。


「あはははは! 楽しくなってきたね!」


 懐に潜り込んでは真っ二つに。

 やはり、この少年を止めるのは至難の業である。


「きゃはははは! まだまだ行くよ!」


 そんな予想外の現状を前に、崖から見下ろすσは1人呟く。


「あまり状況が良くないですね」


「そりゃそうだろ。相手が悪いわこれ。

 あっ、でも見てみろよ。

 相手のエースは休憩してるみたいだぞ?」


 なぜか、σの横にクラチの姿がある。


「……あなた、いつからそこにいたのですか?

 それより、死にたいのですか?」


「いや、俺は死なねーよ?」


 直後、σは光線剣を振るった。

 しかし、


「本当に死なないのですね」


 それは当然のように防がれた。


「当たり前よ。簡単には殺させないわ」


 σの怪力を正面から受け止めたハース。

 アリシアといい、かっこよくて頼りになる女性がこの学園には沢山いる。


「まぁ、そういう事なんで」


 武器を構えσと対峙するクラチとハース。


「久しぶりに楽しめそうです」


 部隊を任される実力者が2人。

 この組み合わせになるのは必然である。


「でも、今の一撃で分かったわ。

 想像の20倍は重いわよ」


「おけおけ、了解」


 クラチの反応は予想以上に軽い。


「あら、軽いわね。

 もしかして、σの反対を行ってるのかしら」


「ごめんけど、今は笑えそうにないわ」


「確かに。まだ手の痺れが取れてないもの」


 2人とσの絶妙な距離感。

 どうやら、お互いに出方を探っているようだ。


「このままでは埒が明きません。

 私が動きましょう」


「おっ、来るのか」


「やるわよ」


 σは簡単に足場を整える。


「ところで質問なのですが、下で戦っていたあなたがどうしてここにいるのか聞いても?」


「あー、多分それ陰鬼じゃねぇかな?

 得意なんだって、モノマネ」


「なるほど。腹立たしいことこの上ないですね」


 そしてついに、σは地面を蹴った。


「まずは2発」


「はいよ。たった数日で成長した男が相手してやる」


 素早く振り下ろされたσの剣。


「冷静にかわして……」


 1発目、クラチは加速して左にかわす。


「冷静にかわして……」


 2発目、同様に加速して右にかわす。


「やりますね」


「最後に……刺す」


 クラチの大太刀は、σの背中を斬った。


「確かに、ωから受信した情報より遥かに速いようです」


「それを言うなら、お前も教科書より全然硬ぇよ」


 この時、感情を持たないはずのσが笑った。

 いや、偶然笑って見えただけなのかもしれない。


「隙だらけよ、らしくない」


 2人の会話を遮るように、ハースは大鎌を振るう。


「いえ、まだ調査段階なので」


「えっ?」


 完璧に隙をついたかに見えたが、σは剣の柄で鎌を止めた。


「あなた、相当イカれてるわね」


「違います。こういう戦い方が得意なだけです」


 2人は1度距離を取る。


「それ、長生きしないわよ」


「大丈夫です。劣化しない限りは無限に生きられるので」


「流石はヒューマノイドね」


 ヒューマノイドを作った者は、なぜ感情を与えなかったのか。

 なぜ、人間らしい見た目にしたのか。

 なぜ、戦闘技術をもたせたのか。


「ほんと、意味わかんねぇ」


 2度目の大戦は、まだ始まったばかりである。 

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