第37話 σ討伐作戦

「改めまして、生徒会長のアリシアです。

 よろしくお願い致しますわ」


「「「アリシア! アリシア! アリシア!」」」


 3日後、学園に戻ってきたアリシアは、再び生徒会長の座に帰った。

 しかも、全体の90%を超える票数で。


「2人には沢山の迷惑をかけました。

 なぜかは分からないのですが、最近怖いことがあったような気がして……本当にごめんなさい」


 アリシアは深く頭を下げる。


「いやいや、会長。そこは『ありがとう』って言ってくださいよ」


「アリシア会長……おがえりなざい……」


 ミエルが大号泣したのは言うまでもない。 彼女の憧れは、生徒会長を務めるアリシアなのだから。


「よしよーし。2人とも、守っててくれてありがとう」


「……はい」


「がいぢょー!」


 2人を抱きしめるアリシア。


「あらあら、子供みたいですわよ。うふふ」


 しかし、そんな感動の裏側では、最悪の災害がすぐそこまで迫ってきていた。


「ハース、まずはよく無事に戻った」


「はい、ありがとうございます」


 大きな鎌を背中に背負う若い女性。

 名をハースという。


「それで、報告というのは何じゃ?」


「はい。メルサー総隊長、単刀直入に申し上げます。ヒューマノイドσシグマが、大群を率いて第60区画の奪還に向かっています」


「な、何じゃと!? それは誠か!?」


 思わず立ち上がり、動揺を隠せない様子のメルサー。


「はい。この目でしっかりと確認しましたので、間違いありません」

 

 それもそのはず、人型の討伐成功例はたったの2つ。

 しかも、そのうちの1つは、メルサーの全盛期に記録されたもの。


「……わ、分かった。すぐに精鋭を集めて部隊を編成しよう。報告は以上か?」


「はい」


「では、下がってよいぞ。それと、ゆっくり休んでくれたまえ」


「はっ! 失礼します」


 ハースが去った学園長室。

 メルサーは1人、頭を抱える。


「はぁ……。我々はまた新たな災害を迎え、多くの尊い希望を失うと言うのか。

 こんなこと、考えたくもないわい」


 たった1つの災害に、ここまで心を折られてしまう現状。

 果たして、こんなラゼルに希望はあるのだろうか。


 とそこへ、2つの足音が近づいてくる。


「総隊長、ちょっと盗み聞きさせてもらったっす」


「おじさん、今の話は本当か?」


「「……えっ?」」


 学園長室で顔を見合せたクラチと頭鬼。


「おいおい、誰の気配も感じ無かったぞ……!?」


「そっちこそ、隠密鬼術でも使ったか?」


 それぞれ左右から来たにも関わらず、2人はお互いを認識していなかったらしい。


 何とも不思議な話である。


「こほん! そこのお二人さん、無断で入るのは校則違反じゃぞ?」


 メルサーの目は笑っていない。


「す、すみません……!

 でも、俺から1つ、どうしても伝えておきたい提案があるっす」


「ほう。言うてみよ」


 クラチは深呼吸をすると、頭鬼の肩に手を回した。


「いきなり何だ?」


「偶然ここにいる頭鬼は、最恐六殺鬼セイス・デモニアスのリーダーなんすよね?」


 その時、反射的にクラチを気絶させようとした頭鬼だったが、メルサーが簡単な動縛バインドで動きを封じた。


「ああ、そうじゃ。それがどうした?」


「俺も、ωと対峙した時に助けられてるんで、どうにかしてやろうとかは思ってないっす」


「ほう」


「ただ、何かしらの償いはしてもらわないと、信用は一生出来ないのも確かなんすよ」


 肩に手を回しておいて、言うことだけは立派である。


「つまり、σ討伐隊には彼を行かせるべきだと言いたいんじゃな」


「うす……」


 今になって、クラチは自分が大胆すぎる行動を取っていることに気がついた。


「まぁ、俺は構わないよ。だって、それってつまり、約定の六殺鬼に世界の命運を委ねるって言いたいんだろ?」


 そう。

 この話の魂胆はこれだ。


「そうじゃな。ほんと、痛いとこ付いてくるわい」


「いやいや。爺さんこそ、初対面で俺のこと試しただろ?

 これでチャラな」


「ほっほっほ、分かったわい」


 この時、頭鬼を不思議な感覚を襲った。

 それはまるで、昔メルサーを見たことがあるかのような不思議な不思議な感覚である。


「はぁ、何これ。頭痛ぇ……」


「ところでクラチよ」


「はい?」


「具体的な部隊編成をお前に一任したいと思ってるんじゃが、頼んでもよいかのう?」


 こういう場合、仕える者の答えは一択である。


「はい! 謹んでお受けしますよ」


「あっ、そうそう。もし俺を部隊に加えるなら、白鬼たちも連れてくのが条件な」


「はいはい、わーったよ」


 2人は学園長室を離れた。


「まさか、セイス・デモニアスが人類奪還の希望になるとはのう……。

 まさしく、深淵を覗く深淵じゃのう」


 メルサーは引き出しから大きな葉巻を取り出すと、笑顔で火をつけた。

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