第35話 禁絶鬼術

「……私が遊んであげる……」


「えっ!? お姉ちゃんが遊んでくれるの!?」


「……うん……。

 ……みんなは頭鬼をお願い……」


 そう言うと、白鬼は1歩前に出た。


「はーい、頭鬼は僕に任せて!」


「うん、分かったよ!」


「後ろは気にしなくていいの」


「そうよ! あんなやつボッコボコにしちゃいなさい!」


 正直、ここまで頼れる人間は、彼ら以外にいないだろう。


「……頭鬼は、私が守る……!

 ……鬼力解放……」


「うわぁ、最高だよー!」


 何重にも重なった鬼法陣が背後に現れ、心臓に当てられた白鬼の右手に白、赤、青、ピンクの4色の鬼力が集まっていく。


「……哀……」


 白鬼が宣言すると、青色の鬼力が1本の剣を作り上げた。


「……当たれば最後、生気を吸い取る魔剣マエスティア……」


 哀愁に満ちた白鬼。

 しかし、彼女からは絶えず覇気が溢れている。


「……これは凄い鬼剣(危険)……」


「何それ、かっこぃぃ……それ、ボクも欲しい!」


 直後、暗鬼は空を蹴った。


「……無謀な特攻……。

 ……本当に哀しい……」


 白鬼は、向かってくる暗鬼を斬った。


「あーれー? 何にも感じないよー?」


 見たところ、外傷は何も無い。


「……はぁ、だから夜鬼は子供……」


「夜鬼? 誰それ。ボクは暗鬼、それに子供じゃないよ?」


 実はこの時、夜鬼の持つ悪鬼羅刹が、偶然にもマエスティアの能力を軽減していたのだ。


「ぶっぶー! お姉ちゃんハズレー!」


 しかし、軽減はあくまでも軽減であり、無効化出来る訳では無い。


「……夜鬼、気づいてる……?」


「えっ、なにをなにを?」


「……今の夜鬼に、好奇心は無い……」


「ちょっとお姉ちゃん、何適当なこと言……って……るの……?」


 言葉通り、暗鬼の目から光が消えている。


「嘘、なんで? なんでなんでなんで!?」


 鬼神化する前も後も、夜鬼の心と身体を動かす原動力は溢れんばかりの好奇心。

 つまり、今の暗鬼にはもう、


「戦いたく……ない」


 戦う理由がない。


「白鬼、サンキューな」


「……あっ、きききききき気にしないで……!?!?」


 そしてようやく、頭鬼の準備が整った。


「はぁ、やっと繋がったぜ。

 この作業、まじで大変なんだよな」


「はーい、白鬼ちゃーん。深呼吸深呼吸」


「……すぅー、はぁー……」


 少し疲れた様子の頭鬼は、失望する暗鬼に右手を向ける。


「ちょっと痛いかもしれねぇが、我慢してくれよ」


 一瞬、時をも止める頭鬼の鬼力。


「第7階級禁絶鬼術、アウロラ」


 直後、夜が明けた。

 いや、暗鬼の世界からみなが抜け出したのだ。


「何これ? 太陽?」


 一瞬にして夜鬼を覆った謎の赤光。


「それは戒めの火だ」


「戒めの火?」


「いいか、よく聞け。俺はな、自分に負ける雑魚なんか弟子にした覚えはねぇ。

 俺の知ってる夜鬼は、自制できるかっこいい自慢の弟子だったんだぜ?」


 その言葉を聞いた途端、夜鬼の鬼神化が溶けた。


「あれ……? ボクは何を……?

 あっ、ボク、またやっちゃったの……?

 うぅ、うぅ、うえーん、うわぁーん」


 この泣き顔を見ると改めて思う。

 やはり、夜鬼はただの子供だ。


「おやすみ、夜鬼。消去リセット


 その日、ここであった全ての記憶は消えた。

 無論、頭鬼たちを除く全員の記憶が。


強制転移デルアーラ


 頭鬼は、全ての生徒を学園のどこかに転移させた。


「こ、これでいいかな?」


「……ばっちし……」


 白鬼のキラキラ輝く瞳を見て、頭鬼はホッとした。


「じゃあお前ら、家に帰ろう」


「「「うん」」」


 しかし次の日、なぜかアリシアの辞任願が受理された。


「アリシア会長、どうして辞めるんですか!?」


「そうですよ! 何があったかは知りませんけど、いきなり辞めるのはやりすぎです!」


「ごめんなさい。後は、よろしくお願い致しますわ」


 そしてその日を境に、アリシアは顔を見せなくなった。


「生徒会選挙立候補者は、職員室前の箱に名前を書いて入れてください。

 繰り返します。生徒会選挙立候……」


 果たして、何が彼女をそうさせたのか。

 こればかりは、当の本人に聞かなければ何も分からない。


 それから2週間後、空いた穴を埋めるため、急遽生徒会選挙が行われることが決まった。


「……募集枠、生徒会長……」


「僕、会長になっちゃおうかな!」


「無理無理無理無理無理だから」


「絶対無理なの」


「うん、絶対無理ね!」


 募集期間は2週間。

 そして現在、生徒会長に立候補している者は4人。

 彼らはみな、ナンバーズの上位者である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る