第31話 決着

「鬼哭啾啾」


 直後、頭鬼の周りを無数の霊魂が漂い、うめき声をあげている様子が視認できるようになった。


 頭鬼、鬼スキル『鬼哭啾啾きこくしゅうしゅう

 頭鬼に命を取られた者の魂が霊魂となり、うめき声をあげながら辺りを漂う。


「これはなんでしょうか……。

 更に身体が重くなったように感じます」


 初めて味わう感覚に、ωは初めて足を止めた。


「なぁ、機械。

 お前はさっき、俺を人類の敵といったな」


「はい。確かに言いましたが、それが何か?」


 (なぜでしょう……。あの者には近づかない方がいい。いえ、絶対に近づけない気がします)


「それ、正解だよ」


「……っ!?……」


 (まさか、今の短時間で心を読んだというのですか……?)


「いや、何驚いてんの?

 俺が言ってんのは、お前がさっき言ってた人類の敵ってやつだぞ?」


「あっ、そっちの話ですか」


「そっちの話? まぁ、何でもいいか。

 どうせお前は死ぬわけだし、最後に1ついいことを教えてやる」


 この時、ωの身体は全く言うことを聞かなかった。

 それもそのはず、今この場を支配しているのは、紛れもなく頭鬼である。


「人とは、真に人を恐れる生き物だ。

 自分と見た目が似ていても、考え方がまるで違う。信じる物も違えば、食べる物も違う。

 簡単に言うなら、変わった生き物だ」


「はい。それがどうだと言うのですか?」


「でもな、そんな者同士が信じ合い、愛することで命のバトンが紡がれ、今や国境を越えた繋がりすら持ってる。

 この意味がお前に分かるか?」


「いいえ、全く分かりません。

 何せ、我々は生殖機能の一切を持っておりませんので」


「そうか、なら決まりだな」


「はい?」


「お前らは絶対、人類になれない」


「……っ!?……」


 ωは地面を蹴ろうとしたが、霊魂に足を抑えられ、全く身動きが取れない。


「長々と喋ったが、これだけは忘れるな。

 お前らが奪った人の誇りはな、何万何億の人が勝ち取った信頼で出来てんだよ」


 (おかしいです、身体が全く動きません……!)


「それだけだ。じゃあな、不良品」


 (嫌です……! まだ、死にたくありません……)


 頭鬼はそう言うと、指パッチンを1度だけ鳴らした。


 するとその直後、


「オマエ、コロス」


「マズイ、ケドクウ」


「コロサレタ、ウザイ、ムカツク」


「ノロウ、サムイ、アツイ」


 無数の霊魂がωの元へと集まり、無抵抗な身体を喰らい始めた。


「や、やめてください……!

 これは一体、何が起こっているのですか……!?」


「はぁ? 意味はよく知らねぇけど、死人に口なしって言うだろ?

 お前はただただ、黙って食われてりゃいいんだよ」


「嫌です……やめてください……」


 1秒、2秒と時間が経つにつれ、ωを構成するものが無くなっていく。


 そしてついに、ωは頭だけとなった。


「おい不良品、最後に言い残すことはあるか?」


「はい。最後に1つ教えてください。

 あなたは、悪魔ですか?」


「はぁ、質問に質問してくんな。気色悪ぃ」


「はい。すみませんでした」


 謝罪を最後に、ωは喰われた。


「おいおい、まじかよ……。

 人型の討伐成功なんて、総隊長以来の快挙だぞ……?」


 驚くクラチに、影鬼は言う。


「ほら、避難して正解だったの。

 もしあの場に残ってたら、先生もあんな風になってたの」


 そう自慢げに話す影鬼の目には、粉々の金属が映っている。


「えーっと、あのー、そうだな、本当の本当に助かりました!」


 クラチは即座に土下座した。


「ふっ、分かればいいの」


 実はここに来る前、クラチはメルサーからこんな助言を受けていた。


「セイス・デモニアス」


「えっ、セノビ・デミグラスってなんすか?」


「ばーか、セイス・デモニアスじゃ」


「あっ、さーせん。で、それは何なんすか?」


「こほん。よーく覚えとけ、やつらは鬼じゃ」


「鬼……? 鬼ってあの伝説の?」

 

「そうじゃ。もしかすると、ヒューマノイドなんかよりよっぽど、世界の脅威になるかもしれん存在じゃ。

 十分注意しなさい」


「へいへーい、気をつけますよーっと」


 そして、クラチは今ようやく、メルサーの言葉を理解した。


「総隊長、こりゃやべぇっすわ」


 そんな本音が漏れ出たことに、クラチ本人は全く気がつかなかった。


「ふぅ、やっと帰れるな」


 再び頭鬼が指を鳴らすと、無数の霊魂、おぞましい殺気、そして膨大な鬼力までもが、一瞬のうちに姿を消した。


「どんな悪人だろうが、命の価値は変わらない……だっけ? ねぇ、母さん」


 そして、そんな頭鬼を見ていた影鬼を除く4人はというと……。


「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ……!

 ……頭鬼がかっこよすぎるぅぅぅぅぅぅ……!」


「ほんと、いつ見てもかっこよくて、僕嫉妬しちゃうなぁ」


「まぁ、あの死鬼が素直に褒めるのって、頭鬼だけだもんね。

 本当、頭鬼がリーダーでよかったよ」


「全くその通りね。

 こうしてあたしたちが生きてるのも、頭鬼が拾ってくれたからだし、多分、一生感謝してもしきれないわ」


 それぞれが陰の中で、直接本人には言いづらい本音を、静かに口にしていた。

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