第27話 初めてのヒューマノイド
「あー、いたいた。こっちこっち」
茂みの影になり、まだ湿り気のある地面で眠るダンゴムシ型のヒューマノイド。
「ピュル」
「ほらっ」
「……流石……」
白鬼はヒューマノイドを刺激しないよう、風のように頭鬼の横へ移動した。
「行ってくる」
「……分かった……」
しっかりと返事を聞いた後で、頭鬼は地面を蹴った。
「えーい」
しかし、その直後の攻撃は実にふざけたものであった。
「……えーっと……」
ヒューマノイドの腰目掛け振り下ろされた頭鬼の手刀は、重力に任せて落ちていくだけである。
「……頭鬼……?」
これには、流石の白鬼も首を傾げた。
「ピュルルル!」
「へぇ、こうなってんのか。なるほどね」
ただ、頭鬼の手刀はダンゴムシ特有の割れ目に入り、身体を真っ二つに分断した。
「……これで5匹……?」
「いや、6匹だ」
それも、この辺りにいる6匹のヒューマノイドを今の一瞬で。
「……さっきのふざけた攻撃はなに……?」
「いや、あのな、言い訳させてくれ」
「……うん……」
「白鬼なら分かってくれると思うけど、ここまで殺気のない生物って逆に珍しいだろ?」
「……まぁ……」
「だからさ、てっきりこいつらが弱いフリして、獲物を誘い出してるのかと思ったんだけど……違ったみたい」
これはあくまで、リスクを避けるための選択だった。
頭鬼はそう言いたいらしい。
「……頭鬼ならどんな相手でも大丈夫……」
「まぁ、確かにそうだな。なんかごめん」
「……別に謝らなくていい……」
当然、白鬼は謝って欲しい訳では無い。
(……謝る頭鬼、萌える……!)
謝って欲しい訳では……ない、絶対ない!
「まぁ、頑張ろうぜ」
「……うん、お互いに……」
気配なく、白鬼はその場を去った。
一方、死鬼と分鬼はというと……。
「おりゃ! とりゃ! そりゃ!」
「ちょっ、ちょっと!
闇雲に振り回しすぎだって!」
死鬼による無双劇が繰り広げられていた。
「ふぅ、一旦休憩っと」
「ねぇ、これは流石にやりすぎたんじゃない?」
「えっ?」
分鬼が言うように、この辺りに生息するヒューマノイドは大方、死鬼が狩り尽くしてしまったのだ。
「気持ちぃぃぃぃ」
そして案の定、この場所へやってきた生徒たちは、地面に転がる大量のヒューマノイドの死骸を前にイライラしていた。
「はぁ?」
「もう狩り尽くされた後かよ」
「あっち行こうぜ」
「そうだな」
ただ、死鬼はよほど鎌が気に入ったのか、とても満足そうな顔をしている。
「うんうん、悪くないじゃん」
「あっそ。なんでもいいけど、次は私にも残しといてよね」
分鬼が次の狩り場に向かおうとしたその時、死鬼は言った。
「えっ? なんで?」
「はっ?」
声のトーンから分かる。
それは何の淀みもない、純度100%の疑問である。
「だってそうでしょ?
それって、僕より弱いってことじゃん」
「へ、へぇ……。
そんなこと言っていいわけ?」
フツフツと沸き立つ感情と共に、分鬼の身体を高速循環する鬼力。
「別に僕がなんと言おうと、それは僕の勝手さ」
「そう、分かった」
直後、左目を隠す髪をピンで上に止めた分鬼は、大きく目を見開いた。
「なら、私も本気で行くから」
「あっ……」
決して忘れてはいけない。
こんな可愛らしい彼女もまた、鬼の1人であるということを……。
「鬼力解放」
分鬼、鬼スキル『神算鬼謀』
「お先」
より多くのヒューマノイドがいる場所へと移動を開始した分鬼。
彼女の放つ異様な鬼力は、この辺り一体に満遍なく広まった。
「な、なんか寒くね……?」
「いやいや、気のせいだって……ねっ?」
「あぁ、そうだよ……」
「きっとそう……」
「きっと、ね……」
そして、その鬼力によって集められた情報はやがて、未来を見通す武器となる。
「おいおい、流石にそれは……それはずるくないかなー!
僕より目立とうだなんて、絶対に許さないんだからね!」
死鬼は分鬼の後を全力で追った。
一方その頃、影鬼と陰鬼は……。
「鬼力解放なの!」
「鬼力解放よ!」
最初からガンガンに飛ばしていた。
影鬼、鬼スキル『鬼出電入』
陰鬼、鬼スキル『神出鬼没』
「こいつら、動きが遅いとか以前の問題なの」
「そうね!
こんなのが相手なら、あたし無限に狩れちゃう気がするわ!」
その言葉通り、2人は凄まじい速さでヒューマノイドを狩っていく。
「はーいなの」
手に影を纏い、ヒューマノイドの胴体を空間ごと真っ二つにする影鬼。
「邪魔よ!」
拳と蹴りを組み合わせた連続攻撃で、たった数秒の間に、数十匹のヒューマノイドの息の根を止める陰鬼。
そんなことを続けていると、10分後にはもう……。
「全滅なの」
「別の場所に行きましょ!」
地面に大量の死骸が転がっていた。
まるで動く災害である。
しかし、彼らに負けじと、生徒たちも必死にヒューマノイドを狩っていた。
「おりゃ!」
「えいっ!」
「雑魚が!」
当然、その数が頭鬼たちを上回ることは無いが、中々の結果である。
「へぇ、みんないい動きするじゃん」
そんな生徒たちを眺めながら、持参した椅子に座り、悠々とペットボトルのお茶を飲むクラチ。
「今年の清掃活動も問題なしっと」
そう。
実はこれ、ただのボランティア活動である。
「あっ、誰にも聞かれなかったよね!? セーフ」
この男はなぜ、聞かれたらまずいことをしている時点でアウトだと気づかないのだろうか。
「てか、そろそろ終わりだな」
しかし次の瞬間、予想外の事態が全員を襲う。
「ん? 鳥か?」
空を横切る2つの黒い影。
「いや、この区画に鳥なんかいたっけか……?」
時を同じくして、違和感を感じ、空を見上げる生徒たち。
「今、何か通らなかったか?」
「うん、鳥かな?」
「多分渡り鳥じゃない?」
「結構大きかったね」
直後、森林の大木が何の前触れもなく倒れた。
いや、倒されたのだ。
「鳥、だよね……?」
「うん、きっと……ね?」
ドーンと大きな音が辺り一体に響き渡り、木で休んでいた鳥たちが一斉に飛び立つ。
当然ながら、頭鬼たちとクラチは、この異様な空気感を察知していた。
「な、何の音だ……!?」
椅子から飛び起き、即座に大太刀を抜くクラチ。
ただ、太刀を持つ手は震え、額からは汗が流れ落ちている。
「おーい、お前ら聞こえてるか」
耳に手を当て、声をかける頭鬼。
「……うん……」
「聞こえてるよー!」
「ねぇ、さっきの音ってなに?」
「これはおそらく、やつが来たの」
「それってもしかして……!」
1人テンションが上がる陰鬼。
それもそのはず、大木の砂煙から現れたそいつは……。
「なぜ私のペットたちが倒れているのでしょうか?」
浮いているのに音がない、そこにいるのに気配がない、何とも不思議な生命体。
「間違いねぇ……。
空中浮遊してて、あの黄色髪だろ……?
はぁ、最悪だ……」
無意識に顔が引き攣るクラチ。
しかし、1度深呼吸した後、全員に聞こえる声ではっきりと言った。
「お前ら気をつけろ!
こいつは、ヒューマノイド
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