第26話 実習

「……よっと」


 一足先に地面へ着地した頭鬼は、白鬼、影鬼、陰鬼の3人、そしてエリーゼをエスコートしてみせた。


「……あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、ありがとう……!?」


「ありがとなの」


「気が利くわね!」


「どうもありがとう」


 流石は頭鬼。

 気遣いが出来る素晴らしい男である。


「よし、後はいいか」


 そしておそらく、これもその1つだ。

 直後、死鬼と分鬼がやってきた。


「わーお! こんなに空気の美味しい場所がまだあったなんて!

 僕、感動しちゃいそうだよ」


 死鬼は躊躇うことなくジャンプし、着地の際に足首を捻った。

 しかし、この程度の怪我なら、気づけば治っているため何も問題は無い。


「ま、待ってよ」


「ま、待ってるよ……」


 ただ、少しの間痛むだけだ。


「痛てて……。

 そうか、ここは僕用に作られた場所なんだね! うん、絶対にそうだ!」


「って、聞いてないし……」


 いつも通り、自分の世界を作り上げる死鬼。

 そんな死鬼を見て、分鬼は目を逸らした。


 しかし……。


「えっ、ここちょっと高くない……?

 影鬼、もしかしてミスったの?」


 分鬼は高所がそこそこ苦手である。

 そして、今まで1人で降りれた試しは無い。


「そのくらいの誤差は仕方ないの」


 無理なものは無理だと言わんばかりに、影鬼はそっぽを向く。


「だ、誰かぁ……」


「はぁ……この程度で怖いとは情けないな。

 ほれっ、この僕が特別に手を貸してやろう」


 それはまさに、頭鬼の狙い通りであった。


「あ、ありがとう」


 死鬼の差し出した右手に自身の左手を乗せ、分鬼はふわっと地面に着地した。


 その際、分鬼の顔がほんのり赤く染まっていたが、死鬼は自分の世界に浸っており気づかなかったようだ。


「へいへーい。

 イチャついてるとこごめんね」


「「してないわ!」」


 とそこへ、遅れてあの男がやってきた。


「ここは相変わらずだな」


 そう、クラチだ。


 平然とワームホールから現れたクラチは、仮面に手を当て、華麗な着地を決めた。


「……速っ……」


「どうも」


 そして、奥の方でおしりの砂埃を払う生徒たちに声をかけた。


「よーし。それじゃあお前たち、ヒューマノイド狩りスタートな」


 こうして、いきなりヒューマノイド狩りは

始まったのだった。


「よっしゃあ!」


「やってやるぜ!」


「俺が1番だ!」


「ダンゴムシを探せー!」


 ただ、生徒たちはやる気満々である。


 そしてそれは当然、彼らも同様だ。


「見えたやつ全部やればいいだろ」


「……目標1000……」


「なら、僕は10000かな!」


「私はそうねぇ……500くらい?

 まぁ、それくらいいけたらいいな」


「このエリアにいるダンゴムシは、1匹残らず私が狩り尽くすの」


「あたしはそうねぇ……人型を狩るわ!」


 ほんと、彼らは個性的である。


「1人だけいない敵を狩ろうとしてるバカがいるの」


「……でも、陰鬼らしくていいと思う……」


「なにそれ! もしかして、あたしのことバカにしてる!?」


 目標を声に出し、やる気を上げる6人とは対照的に、エリーゼは1人、静かに集中力を高めている。


「ふぅ」


 と、ここでクラチが集合をかけた。


「悪ぃ、お前たち一旦集まってくれ!」


「おっと、一体何があったんだい?」


 愚痴を吐きながら、渋々集まる生徒たち。


「先生、さっきスタートって言ったじゃん」


「なんで止めるの?」


「普通に有り得ないんですけど」


 まぁ、こうなるのは必然だ。


「だからちゃんと言ったろ? 悪ぃって」


 あまり悪いと思っていなさそうなクラチは、ポケットからカプセル型の何かを取り出すと、それを地面に投げた。


「まだ、これを見せてなかったと思ってな」


 地面に当たり、周りが見えないほど発光したカプセルは、長方形の木箱へと姿を変えた。


「……これはすごい……」


 そしてその中には、剣、太刀、槍、双剣、鎌など、様々な武器が入っていた。


「どーだ? 好きなの使っていいぞ」


 クラチが声をかけると、生徒たちは一目散に駆け寄り、各々が好きな武器を手に取った。


「やっぱ、俺は剣かな!」


「私は槍にする!」


「僕は双剣にしよう!」


 この時、みんながクラチに抱いていた怒りの感情は、武器の持つ不思議な魅力に打ち消され、どこかへ消えてしまったようだ。


「よーし。それじゃあ改めて……ヒューマノイド狩りスタートな!」


「「「おおー!」」」


 生徒たちはとてもわくわくした様子で返事をした。


「なぁ、お前らも使いたい武器があるなら使っていいんだぞ」


「おっ、それはいいねぇ!

 それなら……僕はこれにしよっと!」


 クラチの言葉を受け、死鬼は鎌を手に取った。


「死鬼、よく似合ってるよ!」


 華麗に鎌を振り回す死鬼を分鬼は素直に褒めた。

 いや、褒めてしまったと言った方がいいだろうか。


「ふっふっふ、当然さ。

 何を隠そう、この僕が持ってるんだからね!」


 分かってはいたが、死鬼は調子に乗った。


 (この組み合わせ、もしかしてめんどくさいのでは……)


 決して言葉にはしなかったが、頭鬼は心の中でそんなことを思った。


「はいはい、そうですか。

 いいからさっさと狩りに行くぞ」


「おっと、そうだったね」


 この時、頭鬼たちの肌をそよ風が掠めた。


「ふぅ。それじゃあお前たち、やりすぎんなよ」


「「「了解」」」


 頭鬼の掛け声と共に、最恐六殺鬼は地面を蹴った。

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