第22話 メイド
寮に戻った頭鬼は早速、子供たちをどうするか、必死に頭を悩ませていた。
「……頭鬼、大丈夫……?」
しかし今回の場合、あまりにも状況が特殊すぎる。
「あーうん。これ、1人じゃ無理だ」
1人で悩むだけ悩んでみた頭鬼だったが、革新的なアイデアは出そうにない。
そこで、
「会議すっか」
「……それがいい……」
ソファを1部ずつ動かし、全員が向かい合う形での話し合いをすることにした。
「では早速、今風呂に入っている子供たちをどうするかについての話し合いを始める。
何かいいアイデアのある者は挙手を」
聞いてそうそう、死鬼が子供のように真っ直ぐ手を挙げた。
「はい!」
「えー、死鬼ぃ?」
頭鬼は本音73%、奇抜な発想に期待27%の返事をした。
「何その反応!?
流石の僕も少しだけ傷ついたよ?
ねぇ、ねぇ!?」
「嘘嘘、冗談だよ冗談。
それで、死鬼のアイデアってのは?」
「ふっふっふ、聞いて驚け」
ほんと、これで完全に切り替えられるのは、世界中どこを探しても死鬼くらいだ。
「僕のアイデア、それは……全員を分鬼の専属メイドにして、寮から出てってもらう、だよ!」
1人ソファの上で立ち上がる死鬼。
「やっぱり私、死鬼に嫌われてるんだ……」
1人ソファで横になる分鬼。
「……こんなやつに聞くんじゃなかった……」
「それはただただ、死鬼が子供嫌いなだけなの」
「何それ、バッカみたい!」
ソファから立ち上がり、ボコボコに死鬼を殴る白鬼、影鬼、陰鬼の3人。
「ごめ、ん、な、さい……」
死鬼はソファに倒れた。
それにしても、たった一言でここまで場を荒らせるのは、もはや才能と言っていいレベルだ。
しかし、そんな荒れた状況の中、頭鬼が気づく。
「ん? 待てよ?
死鬼のアイデアはもちろんクソだけど、意外とありなんじゃないか」
「……と、言うと……?」
誰よりも早く尋ねた白鬼だったが、答えをくれたのはなぜか、影鬼だった。
「この部屋の専属メイドにしちゃえって話なの」
「あー、それいいわね!
あたし、早速メイド服持ってくるわ!」
「……チッ……」
白鬼の感情メーターが乱れたのは言うまでもない。
「あ、あの……」
「ん?」
「陰鬼、私の分も持ってきて欲しいの……」
上目遣いで陰鬼を見つめる影鬼。
(キュン!)
その可愛さと言ったら、この世に溢れる全ての言葉をもってしても、表現することが出来ない。
それくらいの破壊力だ。
「わ、分かったわよ……!
少し待ってなさい!」
そう言って、陰鬼はソファの陰に消えていった。
「ありがとなの」
しかしその直後、予想外の事態が頭鬼たちを襲った。
「あの、すみません。
私たちの着る服って、何かあったりしますか?」
突如開かれた扉の先には、タオルを手に持った6人の女の子が立っていたのだ。
おそらく、長い監禁生活の影響で、世間の常識を知らないのだろう。
「……頭鬼、見ちゃだめ……!」
「痛っ!」
殺気のない白鬼に目を突かれ、ソファを転がりまわる頭鬼。
もう一人の男、死鬼はというと……。
「死鬼は……全く問題ないの」
ソファの後ろに隠れ、怯えている死鬼を見て、影鬼はそう判断した。
「……とりあえず、風呂場に戻って……」
「私たちと一緒に脱衣所で待つの」
白鬼と影鬼の誘導で、子供たちは脱衣所に戻った。
「はぁ……とんだ災難だったよ」
「あぁ、全くだ」
頭鬼と死鬼は二人で悲しみを分かち合った。
そして、脱衣所へ戻った子供たちの元に陰鬼がやってきた。
「ただいま! ちゃんと7着持ってきたわよ」
「ありがとうなの!」
笑顔でメイド服を受け取る影鬼は、早速メイド服に着替えを始めた。
「よーし、みんなも着替えるのよ!
今日からこれがみんなの普段着になるんだから!」
子供たちは、突然陰から出てきた陰鬼に驚くことなく、メイド服を受け取った。
もしかすると、一度影(陰)に運ばれた者は、影(陰)に慣れてしまうのだろうか。
10分後、リビングに白鬼と影鬼が戻ってきた。
「あれ? 子供たちは?」
「もしかして、どこかに逃げてくれたのかい!」
嬉しそうな顔でそう言った死鬼に対して、陰鬼が言う。
「残念だったわね!
これから、この子たちのお披露目会と名前決めを始めるわ!」
「……この子たち、名前がないんだって……」
「そうなのか……よし、分かった。
なら、ちゃんといい名前を付けてあげなきゃな」
頭鬼はやる気に満ち溢れた顔で答えた
「じゃあ、早速1人目よ」
ドアから出てきたのは、艶やかな黒髪ショートの女の子。
控えめなメイドさんといった感じだろうか。
「あ、あの、よろしくお願いします」
「うんうん、よく似合ってるよ」
「ありがとうございます……えへっ」
頭鬼は簡単に感想を述べたが、死鬼は何も言わず、ただただ外を眺めている。
「うーん、名前……か」
頭鬼は数字関連の名前を探した。
「よしっ、アラビア語の数字にしよう」
「……アラビア語……?」
白鬼は首を傾げる。
「そう。アラビア語だ。
えーっ、こほん。
今日から君の名前はワヒドだ」
「は、はい! これからお世話になります!」
「こちらこそ、お世話してもらいます」
それから頭鬼は、同じ流れで名前を付けていった。
「よろしくお願いします」
2人目の黒髪ロングの子は、イスナン。
「お願いします」
3人目の青髪ロングの子は、サラサ。
「よ、よろしくです」
4人目の外はね金髪の子は、アルバア。
「よろしくお願い致します」
5人目のプラチナブロンドの子は、カムサ。
「お、お願いするです」
6人目の黒髪巻き毛の子は、シッタ。
「君たち6人には、部屋の掃除と服の洗濯をしてもらう」
「はい、お任せください」
6人は声を揃えて返事をした。
「それはそうと……影鬼、いつまでそこにいるつもりだ」
突然名前を呼ばれ、床の影が震える。
「……き、着るまではよかったの。
でも、恥ずかしくて出られそうにないの」
少しして、真っ赤な顔を両手で覆い隠した影鬼が影から現れた。
「ち、な、み、に、めっちゃ可愛かったわよ!」
「あ、ありがとうなの。
じゃ、じゃあ一瞬だけなの」
それから約1秒間、みんなの前に姿を見せた影鬼は、再び影の中へと消えていった。
「ねっ、見たでしょ!
あの子、意外と胸あるのよ」
「……はっ……!」
陰鬼の言葉を受け、白鬼は自分の胸に手を当てる。
(……ない……)
白鬼は頭鬼を見る。
(……頭鬼は、大きい子が好きなのかな……)
もやもやする白鬼。
しかし、頭鬼ははっきりと言った。
「へぇ、そうなのか。
俺、今までその人を形作る一要素としか思ってなかったから、気にしたことなかったな」
(……頭鬼……やっぱり、私には頭鬼しかいない……)
白鬼はソファを近付け、頭鬼の膝にそっと頭を乗せた。
「ん? どうかしたのか?」
「……ううん、何も……」
それからしばらくの間、白鬼のニヤニヤが収まることは無かった。
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