第19話 狩り
ワームホールから出た6人は、廃ビル、廃校、廃墟となった建物が立ち並ぶ、第64区画ガラムにいた。
ここはヒューマノイドの侵攻によって1度人の手を離れ、完全に廃れてしまった区画である。
「……ちょっと臭い……」
「ぼ、僕じゃないよね!?」
「……うるさい……」
「ごめんなさい」
そのため、辺りに人がいる気配は全くなく、ただ風にきしむ建物の音が聞こえるだけである。
「分鬼、未来予知だ」
頭鬼は早速指示を出す。
「了解」
すると分鬼は、左目を隠している髪を上に持ち上げ、大きく目を見開いた。
「鬼力解放」
分鬼、鬼スキル『神算鬼謀』
複数の未来をパーセンテージで可視化することが出来る。
ただ、そのパーセンテージは完全ランダムであり、0.1%から100%まで幅がある。
「うーん」
分鬼の左目は赤く染まり、小さな魔法陣が浮かび上がっている。
「……15秒後、死鬼が撃たれて死ぬのがおすすめ」
分鬼はそう言うと、髪を下ろした。
「はぁ、また僕なの……。
あれ結構痛いんだよ?」
全く驚かず、ただ嫌がる死鬼。
「そういうのいいから、早くして」
「はいはい、分かりましたよっと。
それで、僕はどっちに飛べばいいのかな」
半ば強引に覚悟を決めた死鬼。
「南南西、斜め52」
「了解」
死鬼は言われた通りの方向にくるっと一回転しながら飛んだ。
「なんで私の方に飛んでくるの?」
影鬼は飛んできた死鬼をひらりとかわす。
すると、分鬼の言った通り、ズガァンと大きな銃声が鳴り響き、7.62ミリ小銃弾が死鬼の心臓を貫いた。
「うはっ」
死鬼はうつ伏せに地面へ倒れた。
そんな死鬼を見下ろしながら、影鬼は言う。
「これぐらい余裕で避けられるの」
「だってさ、死鬼」
これはもう、可哀想とかそういう類の話では無い。
ただ、これで相手の位置が分かったのも確かである。
「あそこか」
頭鬼は弾に込められた微量の鬼力を頼りに地面を蹴った。
どうやら、スナイパーが覗いていたのは廃ビルの15階。
見たところ、ガラス張りの壁が一部割れており、その隙間から狙撃したと推測できる。
「よいしょー」
ガッシャーンと派手な音を鳴らし、ガラスを突き破る頭鬼。
「はい、みっけ ……ってあれ?」
しかし、そこにスナイパーの姿は無かった。
「いやいや、流石におかしい。
やつは間違いなくここにいたはず……」
頭鬼はその場であらゆる可能性を考えた。
「……あっ」
すると、1つのとある可能性が思い浮かんだ。
「あいつか」
ちょうどその時、下から大きな笑い声が聞こえてきた。
「わっはっはー!
あたしが捕まえたのよ、感謝しなさい!」
「やっぱりお前か」
陰鬼と言うだけあって、暗闇を移動する速さは影鬼と並んで世界一である。
渋々声のする方に目を向ける頭鬼。
そこには、古びた電柱に括り付けられた迷彩服の男がいた。
「あーもう……よくやったな!」
頭鬼は陰鬼の元へジャンプし、無反動で着地した。
「見て見てっ!
ちゃんと生け捕りにしたわよ!
偉い? 私偉い!?」
この様子では、何を言っても無意味だろう。
そう頭鬼は悟った。
「うん、すごいじゃーん。偉い偉ーい」
「そ、そうかな……!
えへへ、えへへ。分かればいいのよ」
棒読みを全く気にしない陰鬼は、バシバシ頭鬼の背中を叩いた。
(常人なら死ぬ威力だな……)
そこへ白鬼たちが合流した。
「……陰鬼、手を止めて……」
「俺がいれば、負けは無いもんね」
「私、まだ何もしてないの」
そこに死鬼の姿はない。
「おい、あのバカはどうした?」
頭鬼が尋ねる。
「……死鬼なら、……」
その問いに白鬼が答えようとすると、男が遮りながら言う。
「ふっ。そのしきってのは、あの金髪のことか?
なら、この俺様がちゃんと撃ち殺してやったよ!
ざまぁねぇな!」
高笑いする男。
しかしその時、突如頭上から謎の紙吹雪がひらひらと舞い落ちてきた。
「ふぅ、少し遅れてしまったかな?」
それは紛れもなく死鬼である。
「バ、バカな……!?」
「なぁに、簡単な話さ。
僕は何度だって死ねる、故に死鬼だ」
死鬼、鬼スキル『無限再生』
現在までに157回の再生に成功しているが、その詳細は未だ不明。
「そ、そんなこと、あ、あ、有り得ねえだろ……!?」
「じゃあ、今君の視界に映っている僕は、一体何者なんだろうね」
「そうか、幻覚だ!
誰かが鬼術をかけてるんだろ!」
男の言葉を受け、死鬼は顔に1発強めの蹴りを入れた。
「ばーか、本物だよ」
男は気を失った。
「あー!
せっかくあたしが生け捕りにしたってのに……」
男に続くように、陰鬼は膝から崩れ落ちた。
そんな陰鬼の頭を優しく撫でる影鬼。
「……やっぱ仲良し……」
「だな」
その様子を見て、頭鬼と白鬼は笑い合った。
「あっ、そうだ」
それからすぐ、頭鬼はあることを思い出した。
「……ん?……」
「言うの忘れてたけど、今日の鬼は影鬼と陰鬼な」
「なっ……! ま、まぁ、頭鬼が決めたから文句は無いけどさ、次は絶対僕だからね!」
「今回も出番なしか、了解」
感情の起伏が激しい死鬼とは違い、分鬼の感情表現は小さくて分かりづらい。
どれくらい分かりづらいかと言うと、付き合いの長い頭鬼でさえも悩む時があるほど、と言えば分かるだろうか。
「ようやく出番なの!」
「ま、まぁ、スナイパーを捕まえたのも私だし!? 当然と言えば当然よね!」
ちなみに、この2人も死鬼の同類である。
「奴隷商人のアジトは、ここから北へ5キロ先に進んだところにある体育館だ」
「……影鬼、陰鬼、頑張って……」
「僕より輝いたら許さないんだからね!
あっ、2人とも影(陰)だから目立たないか、ぷぷぷ」
「一応、未来見とこうか?」
分鬼の優しい言葉に2人は首を振った。
「大丈夫なの」
「うんうん、あたしたちに任しとき!」
2人の目を見た分鬼は安心して答える。
「分かった」
その時分鬼が感じ取ったのは、信頼し合う2人の心。
「気をつけて」
「「うん」」
直後、2人は地面を蹴った。
「鬼力解放なの!」
影鬼、鬼スキル『鬼出電入』
影を超高速で移動し、相手の目に止まることなく敵を討つ。
「鬼力解放よ!」
陰鬼、鬼スキル『神出鬼没』
自由自在に出没し、自身の居所を探られることなく敵を討つ。
どちらも影(陰)からの奇襲を得意とする2人にピッタリの鬼スキルだ。
「捕まえたら、確実に息の根を止めるの」
「そうよ!
それがセイス・デモニアス流の鬼ごっこなんだから!」
こうして、恐怖の鬼ごっこが始まった。
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
鬼ごっこ……鬼と子に別れ、鬼が子をタッチすることで鬼を増やしていく遊び。
地方によって多少違いがある。
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