第12話 漢の友情

「今はどういう状況ですの?」


 アリシアがメルサーに尋ねる。


「そうじゃのう。

 一言で言うと、彼らが完全勝利したといったところかのう」


「なるほど。(全然分からん!)」


 全く中身のない回答に、シュリは困惑した。

 

 ちょうどその時、倒れていたガオルが意識を取り戻し、ゆっくりと目を開けた。


「……んっ……あれ、ここは……?」


「ガオル!」


 マッチョンはガオルの元にマッスルインパクト並の速さで飛んでいく。


「大丈夫か!?

 怪我は!?  心臓は!?  足は!? 腕は!?」


「おいおい、落ち着けよマッチョン。

 俺様は無事だ。

 それより、ここって体育館……だよな。

 なんで俺様は体育館に?

 体育館……体育館……体育館……。

 あ、そうだ! 思い出したぜ!

 試験は、試験はどうなった?」


「……あれを見てくれ」


 ガオルはマッチョンの指さす方向に視線を移すと、大体の事情を察した。


「ああ、そうか。

 俺様は負けたのか」


 ガオルの目に映るのは、笑顔で会話する頭鬼たちの姿だった。


「本当にすまなかった。

 ナンバーズとして、いや相棒として情けないかぎりだ」


 マッチョンは深々と頭を下げる。


「気にすんなよ、マッチョン。

 俺様たちは強い。

 ただ、あいつが規格外だったってだけだ」


「確かに、それはそうかもしれないが……」


 人一倍責任感の強いマッチョンは、簡単に自分を許すことが出来ないようだ。


「はぁ、しゃあねぇな」


 ガオルは平衡感覚がおかしい中、その場で立ち上がる。


「おい、ガオル!

 まだ座ってなきゃだめだろ!」


「……っ!……」


 誰の力も借りず、気合いだけで立つガオル。


「見ての通り、俺様は1人で歩けそうにねぇ。だから、俺様を医務室に連れてってくれねぇか?」


 ガオルは1度も目を合わせることなくそう言った。


「……え?」


「だーかーら!

 医務室に連れてってくれって言ってんの!

 それともなんだ、俺様が選んだ相棒がこの程度で下向いちゃうような雑魚だったとでも言いてぇのか! あ?」


 それは、強い口調ながらも優しさ溢れる漢の言葉であった。


「……ああ、そうだよな。

 ガオルの隣を歩こうってやつが、この程度で下向く訳には行かねえよな!」


「ばーか、そういう事……だ……」


 倒れる寸前のガオルを受け止めたマッチョンは、ガオルを背中に背負い、笑顔で体育館を後にした。


「ありがとな、ガオル」


 そして、その場に残ったのは、試験を受けていない16人の新入生と頭鬼、白鬼、死鬼、分鬼の4人。


 気づけば、観客席を埋め尽くすほどいた観客は誰1人としていなくなっていた。


「はぁ、困ったのう。

 ガオルとマッチョンの2人がいなくなってしまっては、試験が続けられん。

 誰か、試験を手伝ってくれそうな実力のある上級生はいないものかのう」


 わざとらしい口調で左に視線を移すメルサー。


「えっ、私!?」


わたくしですの!?」


「私か!?」


 笑顔で頷くメルサー。


 3人は渋々人差し指と親指で丸を作った。

 半ば無理やり承諾を得たメルサーは、新入生に対して指示を出す。


「新入生は3列に並び直し、鬼体、鬼弾を用いて1人2分間、この3人のうちの誰かと戦ってもらう。

 異論はあるかのう?」


 少し時間を置き、新入生の反応を見たあとこう続けた。


「よしっ、ないようじゃな。

 シュリ、アリシア、フリージア、準備は出来とるかのう?」


 メルサーの指示を受け、突然試験官を務めることになった3人。


「よっしゃ、いっちょやりますか!」


「私がお相手いたしますわ」


「かかって来やがれ!」


 シュリは素手、アリシアとフリージアは学園支給の模造刀に鬼力を纏わせ、新入生に怪我をさせないよう細工をした。


 というか、これに関してはガオルとマッチョンの2人が、ただ脳筋だっただけなのかもしれない。


 そんな訳で、入学試験は無事に再開した。

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