第10話 入学試験
一一入学試験開始から15分一一
「「「うおおおおおおおおおお!」」」
観客席が凄い盛り上がりを見せる一方で、ガオルとマッチョンの2人は、不満そうな表情を浮かべていた。
「なぁ、マッチョン」
「どうした?」
「なんか俺様たち、新入生をいじめてるみてぇじゃねぇか?」
「仕方ないだろ、これが試験なんだから。
それに、ここは俺たちの実力を示すいい機会でもあるだろ?」
「それはそうなのかもしれねぇ。でもよ……」
未だ息一つ切らさず、新入生を捌いている2人。
それに対して、残る新入生はたったの20人。
まぁ、こうなるのも無理はないだろう。
何せ……。
「熱拳!」
燃え上がる拳で相手を殴るガオルの得意技。
「マッスルハンマー!」
握った両手拳を背中に食らわすマッチョンの得意技。
「熱鬼弾!」
練り上げた鬼力に
「マッスルボンバー!」
腕を掴んで背負い投げするマッチョンお気に入りの技。
このように、楽々新入生を片付けてしまえるほどの実力差があるのだから。
「しかも、あれ見てみろよ」
「あー、見えてるぞ」
「もう医務室の空き、ないんじゃねぇの?」
視線の先には、地面で寝かされる新入生の姿。
「ガオル、俺たちはそんなこと気にしなくていい。今はただひたすら、新入生に現実を突きつけるんだ」
「へいへい、わかったよ」
しかし、そんな2人の気持ちを察したかのようにこの男の番が回ってきた。
「ようやく、か」
「……頭鬼、頑張って……」
「絶対、僕より目立っちゃダメなんだからね!」
「間違っても殺すなよ」
「ああ、行ってくる」
しっかりとした足取りで前に出る頭鬼。
「おいマッチョン、やっと強そうなやつが来たぜ。
しかも1人でやるみたいだ」
ガオルの額を流れる汗が蒸発していくのを見て、マッチョンは言う。
「ガオル、こっちは俺に任せろ。
後はそうだな、全力で行ってこい」
「くぅぅぅ……! おう、任しとけっ!」
そして、ガオルもまたしっかりとした足取りで前に出た。
「楽しめよ、ガオル……」
マッチョンはそう言うと、再び新入生の相手に集中した。
「悪いがよ、本気で行くぜ後輩。
ハァ、こっちは手加減しすぎて、気が狂っちまいそうなんだ」
両手を前に出し、戦闘態勢をとるガオル。
しかし、頭鬼の様子を見ると、すぐに戦闘態勢を解いた。
「おいお前、なんで戦おうとしねぇ?」
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「あ? なんだ後輩、言ってみろ」
ガオルは地面にあぐらをかいた。
「自分、試験っていうのが初めてで、どれくらいの力で戦えばいいかとか全く分からないんですけど、何かわかりやすい目安とか指標ってあっまりします?」
当然、頭鬼本人に悪意はない。
だが、これは立派な煽りである。
「お前、舐めてんのか?」
ガオルの身体から熱を帯びた鬼力が溢れだす。
「舐めてないですよ、真剣です」
心做しか、体育館の気温が上がった気がする。
「本気だ。本気で来いや本気で!
それに、漢なら命懸けで来やがれ」
なぜかその時、頭鬼の空気が変わった。
そして、静けさの中に潜む殺気が、ガオルの肌を不気味に撫でる。
「命懸け……か。
なら、命懸けで行かねぇとな」
身体から溢れることなく、体内を高速で循環し続ける膨大な鬼力。
本能的に身体の動きを鈍らせるおぞましい殺気。
決して交わることのない2つが共鳴し、バチバチ音を立てている。
「命懸けなら、出し惜しみは出来ないか」
頭鬼はガオルを睨みつけた。
「……っ!……」
(なんだ……? 身体が言う事を聞かねぇ……!?)
ガオルが殺気に怯んだ一瞬、頭鬼は地面を蹴り、ガオルの前へと移動した。
(は、速ぇ……!)
「鬼りょ……」
(くそっ、間に合わねぇ……!)
そして、腹に強烈な右拳を1発。
「ぐはっ」
続けて、左足で顎を。
「ぶはっ」
当然、その一連の流れに隙はなかった。
「えっ……!? あの圧倒的なオーラと風格……もしかして、王子様……?」
1人の女子生徒が、頭鬼を見て呟く。
「リビア?」
「いや、まさかね……そんな偶然あるわけないか」
「えっ、全然聞いてないし……まぁでも、それでこそリビアか」
その時、彼女の右耳についているピアスが一瞬だけ光ったことに、気づく者は誰1人いなかった。
鬼力。
それは主を選び、主を支える鬼の力。
そしてそれは時に、不可能をも可能にする。
(間違いねぇ……。今の数秒で分かったぜ、やつは本物の化け物だ……。
だがな、油断だけはしちゃいけねぇな)
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