(二十二)

 林莉慈は本当に休みを取った。昼休みに宋國華が寧北妃を探しに来て、調査の進捗を知りたがった。


「そんなに早く進むわけないでしょ。」寧北妃は目を細め、宋國華を睨みつけた。不満が表情に出ていた。自分が相手に頼っていることをわかっているのか、宋國華は自分が知っていることを共有し始めた。


「母さんに聞いたんだけど、彼女も何があったのか知らないみたいなんだ。」


 まるで話してないのと同じ。


「わかってるのは、林莉慈と彼女のお母さんも今日は休みを取ってるってことだけ。」


 じゃあ、林莉慈のお母さんにも関係があるの?このタイミングなら、先生に聞くべきだ。放課後、部室に張先生と張玉蘭先輩だけがいる間に聞いたところ、「家庭の大事な用事がある」とのことだったが、詳細は教えてもらえなかった。


「ふーん、ついに学園生活部に入る気になったの?」張先生は寧北妃に知っていることを話したあと、冗談交じりにそう付け加えた。


「違いますから。」寧北妃はぷりぷりして言い返した。「宋國華が頼んだから、ちょっと聞いただけです。」


「それこそが学園生活部の本質じゃない?困っている人を助けること。」張玉蘭先輩が口を挟んできた。


「だから違うってば!」寧北妃は強い口調で否定した。


「ふふ、小さい子は恥ずかしがってるのね。」張玉蘭先輩はわざとらしく口元を隠して笑った。


「ふん!」寧北妃は顔を背け、頭のカチューシャを外してまたつけ直した。少し冷静になりたかったのだ。


 ワイノナが来たとき、彼女たちは今日の活動を始めた。それはビーズ編みだった。簡単に言えば、穴の開いたビーズを釣り糸で編んでいく作業だ。簡単なものならブレスレットにできる。裁縫の中では比較的簡単な手芸で、初心者向けの作業だった。


「もちろん、デザイン次第ではとても複雑なパターンにもできるけどね。」


 ワイノナはその場でスマホを取り出し、ビーズ編みに関する情報を検索した。そして、綺麗な花の模様を編んだ作品を見つけると、すぐにそれを作りたいと言い出した。


「それはちょっと難しいかな。初心者にはお勧めできないよ。」


「うーん、そうか……。」寧北妃はワイノナがあっさり諦めたと思っていたが、次の言葉に驚かされた。「じゃあ、先輩がやってください!」


 寧北妃の笑顔は一瞬で凍りついた。Nancy先輩ならまだしも、このパターンは寧北妃にとっても少し難しかった。「それはさすがに無理かな。もっと君に合ったデザインを選んで、一緒にやりながら教えたほうがいいと思うよ。」


 期待の目で寧北妃を見つめていたワイノナは、彼女の言葉を聞くと、まるで電球が消えたかのように顔が曇ってしまった。寧北妃は仕方なく腹をくくり、「じゃあ、試してみるよ。」と言った。


「本当に?」再び電球が点いたようにワイノナは目を輝かせた。その様子を見て、寧北妃も少し面白くなった。


「うん。」


 一方、張玉蘭先輩はヘッドフォンをつけて、ネットからダウンロードした音声を聞いていた。部室が整理されて以来、張玉蘭先輩はほとんどの時間、何かを聞いて過ごしている。部長の陳智勇は、たいてい切手の分類やネットでの調査に時間を費やしている。宋國華がいるときは、たいてい勉強や宿題をしているが、名ばかりの部員としての義務をしっかり果たしている。たまに部長にお使いを頼まれることもある。宋國華のことは誰も気にしていない。唯一気にしている張先生は、ほとんど内室に引きこもっているからだ。


 放課後、宋國華と寧北妃は帰り道で林莉慈を見かけた。彼女は寧北妃たちがいつも別れる角に立っており、遠くから二人は彼女の姿を見つけた。林莉慈は真ん中を歩いており、彼女の前には中年の男女が並んで歩いていた。後ろには二人の男の子がいて、一人は林莉慈と同じくらいの年齢、もう一人は小学生のようだった。


「林莉慈と……」


「彼女のお母さん?それなら……」寧北妃が言いかけたところで、宋國華が口を挟んで、


「そう、どうして……?」


「勘だよ。」寧北妃は微笑んで言った。「じゃあ、彼女のお母さんの隣にいるのは林莉慈のお父さん?」


「残念、今回は違うよ。」


「じゃあ、他の親戚かな?なんかすごく仲が良さそうに見えるけど。」


 宋國華は記憶をたどりながら考えたが、林莉慈にそんな親戚がいるという記憶はなかった。特に、同じ年くらいの男の子なんていないはずだ。もしかして、彼女のお父さん側の親戚?でも、宋國華は林莉慈のお父さんについてあまり詳しくなかったので、首を横に振った。


「それはないよ。林莉慈のお父さんは彼女が小さいころに離婚して、それ以来連絡を取ってないんだ。それに、彼女はお父さんの親戚ともほとんど関わりがないはず。」


 林莉慈の両親が離婚している?寧北妃は初めて聞いた。けど、それは他人の家庭のことだし、深く突っ込むのはよくないと思い、話題を変えた。「じゃあ、後ろにいる男の子たちは誰?もしかして彼女の彼氏?」


「本当なの?」宋國華は焦って聞き返した。それを見て寧北妃はくすくす笑った。


「冗談だよ、適当に言っただけ。」寧北妃は少し、張先生が宋國華をからかうのが楽しい理由がわかってきた。彼の反応は本当に面白い。


「じゃあ、彼らが誰なのか、君の推理で解き明かしてみてよ。」


「そんなの無理だって!私、シャーロック・ホームズじゃないんだから。」


「謙遜しないでよ。前回の推理はすごく見事だったじゃないか。」


「あれは偶然だってば。」寧北妃は照れくさそうに言った。「それに、ホームズみたいな人は現実には存在しないよ。可能性が多すぎるから。」


「可能性が多すぎる?」


「簡単に言うと、例えば誰かの手のひらにたくさんのマメができていたとする。それは、その人が棒状のものをよく握っているってことを示しているだけで、それが何かまではわからないんだよ。」


「棒状のものって?ただの棒じゃないの?」


「君、本当に優等生?」寧北妃はため息をついて言った。「その棒が、テニスラケットかもしれないし、野球バットかもしれないし、ラクロスのスティックかもしれない


 し、シャベルだってあり得る。だから、手にマメができている人を見て、『この人は不良だ!』って決めつけるのはおかしいよ。」


「でも、他にも手がかりはあるんじゃない?外見とかさ。」


「じゃあ、その人が日焼けしていて、たくましい中年男性だったとしたら、建設作業員だと思う?」


 宋國華が頷くと、寧北妃は続けて、「なんでテニスコーチじゃダメなの?日焼けしたたくましいテニスコーチだっているじゃない?」


「確かにそうだね。」


「人間って、そんな簡単に分類できるものじゃないんだよ。」寧北妃は笑いながら言った。「黃頁(電話帳/イエローページ/yellow page)じゃないんだから、人間はもっともっと複雑なんだよ。」


 夕日の下、宋國華は輝く寧北妃の笑顔を見て、心臓がドキドキした。自分の心臓の音が聞こえるほどだった。そのとき、林莉慈が振り返り、街角のその光景を目にした。


「どうしたの?」林莉慈のお母さんが、林莉慈が立ち止まったことに気づいて尋ねた。林莉慈は慌てて頭を振り、さっき見た光景を心の中から追い出し、可愛らしい笑顔を作って言った。


「ううん、なんでもないよ。」


 こんなときだけは、好きでも嫌いでもお利口な顔をしなければならない。林莉慈は自分を奮い立たせて、今夜の試練に備えた。


     *


 黃頁(イエローページ/yellow page)は、香港の商業用電話帳の呼び方で、その名前の由来は「黄色いページ」という意味です。昔、香港の商業用電話帳は黄色い紙が使われていたため、この名がつきました。ただ、現在の香港人でも知らない人がいるかもしれません。というのも、紙の黄頁はもう廃止されてしまったからです。


 こちらは当時の黄頁の広告です:https://m.youtube.com/watch?v=bwybmG8zJ3Q

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