幕間 三幕目「ユメガタリ」

 暗い暗い海の底へ。

 もがき苦しむことなく落ちていく。

 自分を立場を受け入れたフリをして。

 涙を流すことさえやめた。

 兄弟たちが私に求めていてはのは王家の姫という立場。

 アトリシア公国の発展のための礎。

 国のためならと十五年間無理矢理自分を納得させてきた。 

 せめて最後の時間までの自由として留学を選び。

 留学が終われば好きでもない相手と添い遂げる。 

 それが私の――アリシア=オルレアンの結末だった。

 

『傍にいろ』

 

 その一言は私を独りで生きられなくさせるのには十分だった。

 隼人さんもひどい人だ。

 孤独だった人間にそんなことをいえばどうなるか想像できただろうに。

 その後も言葉だけでなく行動で示して。

 私の想いを受け止めて自分の想いを返してくれる。

 少し前までならそれだけで幸せだった。

 だけど、私は欲深い人間。 

 隼人さんが自分自身を大切にしないことが許せなかった。

 目的のために周りの被害を考えるが自分に対しては手段を選ばない。

 悪名を上塗りしようが。

 周りから避けられようが。

 どこ吹く風と気にしない。

 反省してくれたけど……どうなんでしょうね。 

 人は簡単に生き方を変えられない。

 私は自分の生き方を持っていなかったから独りをやめれたけど隼人さんはそうじゃない。

 そもそも傍にいろといっておいて一人で何かしようとしているのはおかしい気がします。

 起きて抱きしめていなかったら文句を言わなくては。


 実家に呼ばれて最初は緊張していました。

 会う人皆が私を受け入れてくれて。

 それよりも隼人さんを想っていることが嬉しくてすぐに絆された。

 絆されすぎて恥ずかしいことをさせられましたが隼人さんの珍しい姿も見れたので……あ、梓さんに動画をもらわないと。

 羞恥心と日に日に募る想いが溢れ出して思わずキスをしてしまった。

 初めての体験にいっぱいいっぱいなのに意地悪な隼人さんはすぐ反撃するんです。

 嬉しいですけどね?!

 皆様からヘタレと言われているのが若干怪しくなってきました。 


 ふと、目が覚める。

 いつもなら隼人さんの布団に潜り込む時間。

 けど、今日からこの目覚めは必要なくなる。

 眼前にははだけた厚い胸板。

 隼人さんの左手は私の背中に回され。

 右手は頭の上で止まっている。

 本当に寝るまで頭を撫でてくれていたんですね。

 まったく、気にしすぎです。

「すーすー」

 思えば隼人さんの寝顔を見るのは初めてかもしれない。

「届かない……」

 右手が頭に添えられているせいで隼人さんの顔まで届かず自業自得なので断念する。

 守られるだけ存在では満足できない。

 あなたの心を守りたいから。

 ただ今は甘えよう。

 私はこの人のものなんだと自覚するために。

 私はあなたのものなんだと知らしめるために。

 隼人さんが朝稽古に出かけるまでもう少し。

 彼の胸にそっと手を当てて再び眠りについた。

 

  

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る