幕間 二幕目「ランチタイム」
いつも通り午前の授業を受けて昼休みになる。
アリシアが来ないのは確定しているので久々にアキラと昼食を取っていた。
「おかしい」
「何がだ?」
「周りの視線がいつもと違う」
特に酷いのは女子生徒からの視線。
まるでゴミを見るかのような。
「若狭の息子が何かしたか?」
昨日組み伏せた後のことは少しだけアリシアから聞いている。
あの様子じゃ周りに何か吹聴していてもおかしくはない。
「これのせいだろ」
アキラのスマホに映し出されていたのは学校新聞の一面。
そこにはデカデカと。
「『風見隼人の二股疑惑?! そのお相手は相楽千歳と彼の留学生アリシア=オルレアン』。風評被害もいいところだな」
「無駄に説得力がある記事なのが災いしたんだろうな」
そこに書かれていたのは先日のアリシアと千歳の模擬戦。
食堂でアリシアの手を掴んでいたシーンの写真。
最大の決め手はアリシアが風見家の祭事の手伝いをするために異文化交流日を使用していることだった。
「で、真相は?」
「二股も何も両方とも付き合ってない」
片方は婚約者とはあえて言うまい。
それに概ね予想通り。
公務の体ではなく異文化交流日を使用させたのがいい味を出している。
「何か企んでそうな顔だな」
「週末は祭事があるんでな。それまでに色々と片付けたいんだよ」
今年は千歳が初めて神楽舞を奉納する晴れ舞台だ。
もし若狭真琴が何か企てていたとして当日に何かされてはたまったもんじゃない。
「悪巧みなら乗るが?」
こういうときにアキラ以上に頼れるやつはいない。
「まだそこまでのことじゃない」
「了解。あ、そうだ。昨日妙な話を聞いてな」
「妙な話?」
「若狭家の息子。実は親善試合ではなくアリシア姫との対戦を強く希望していたらしい」
最後にとっていた天ぷらそばの海老天を食べる手が止まる。
「それ確かか?」
「ん? あぁ」
親善試合に出たがる国民が多いのは相手関係なく出るだけで大変栄誉のあることだからだ。
なのにそれよりもアリシアとの対戦が主な目的?
確かに妙だ。
「若狭真琴はアリシア姫と面識があったのか?」
「そういう類の話は聞いていない」
後でアリシアに確認しておくか。
「他には?」
「若狭元師範代。一年前から怪我の治療のため大和にいないらしい」
「その行き先は?」
「アトリシア公国ともっぱらの噂だ」
魔法で発展したアトリシア公国では独自の医療形態が確立されており、その方法は不明だが他国で治療できない怪我や病を治せると聞いたことがある。
大和で武芸者として再起不能の烙印を押されて他国へ赴くのは妥当な判断だがきな臭い。
「向こうでの治療方法は?」
「さすがにそこまではわからんな」
「だよな」
アキラに聞けるのはここまでか。
諦めて海老天を齧る。
「随分と気になるようだな」
「そりゃあ昨日真剣を振りかざさられた身だからな。理由もわからず怪我させられるのが嫌なだけだよ」
「ま、そういうことにしといてやる」
これだから勘の良い悪友は嫌いだよ。
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