幕間 三幕目「高鳴る鼓動」
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
状況を理解した時には隼人さんの腕の中。
緊張と焦りと困惑で動けずにいる。
た、確かに私はお姫様だから?
お姫様抱っこをされて当然っちゃ当然よね?
……私ったら何を言ってるの。
違う羞恥心がこみ上げてきて顔を覆いたい。
「どっちだったかな……」
そんな私の気持ちなどつゆ知らず。
あっという間に道場の外に出た後、しばらく駆けていたがどうやら道に迷ったらしい。
だからといって人一人抱きかかえて屋上へ飛翔するのはやめてほしい。
それに今うっかり落とされたら魔法も満足に使えずに自由落下してしまう。
しばらくすると落ち着いてきたので隼人さんの顔を見る。
昨日の深夜潜り込んだときに見た無防備な表情をする人とは別人と思うほどに凛々しいお顔。
最初はただのイタズラのつもりだったが布団に潜り込むと安心感のある暖かさに眠りに誘われ。
今は胸の鼓動がうるさいので睡魔はないがあの時と同じ謎の安心感はある。
ただ……私と千歳さんの間に割って入ってきたことも驚いたが私を抱きかかえてからの身体能力に若干引いている。
「最近行ってなかったからどうも場所が曖昧だ」
大和一の剣士という肩書きは伊達ではないのはもうわかった。
問題なのは彼と同等の実力者が一個上にいるのも。
今の私では逆立ちしても二人には勝てない。
「ん? あれは……」
私はこの国へ伴侶を探しに来たわけではない。
ましてや挫折しにきたわけでもない。
まぁ……前者のほうは紅葉姫のお陰で悪くない方と巡り会えたと思う。
ただ連敗続きで少しばかり気が滅入る。
「みっけ!」
どうやら目的地を見つけたようだ。
足に力を込めて・・・込めて?
「隼人さんお待ちにな――」
「やっと喋ったところ悪いが……喋ってると舌噛むぞ」
そのまま目的地に向かって突撃というなの強制自由落下。
「いーーーーやーーーー!」
昔、箒から落ちた時のトラウマが蘇りそうになる。
およそ数秒後、隼人さんが窓枠を捕んだので恐怖は掘り起こさずに済んだのと同時にドキドキが収まる。
どうやら彼ではなく超スピードの移動への恐怖だったようだ。
そう理解すると顔の赤みが引いていく。
というか青ざめて気絶する寸前。
「よ、先生。邪魔するぜ」
「三階の窓に飛び移るバカがいると思ったら風見か。お前は初等部からやり直して常識というものを学んでこい」
隼人さんが親しげに声をかけたのはよれよれの白衣に電子タバコを咥えた女性の……保健医ですよね?
「生憎へその緒と一緒に切り落としてしまったので初等部に戻ってもしかたない」
「はぁ……お前に常識を解こうとした私がバカだった」
「それよりも今日は世間話しに来たんじゃないんだよ」
私と隼人さんを交互に見た後、しばらく首を傾げてから手を叩いた。
「はっ! なるほど理解した。私はしばらく留守する。終わったら連絡してくれ」
「いやいやいや何も理解できてねえから!」
「いやだってなー。周りに気づかれないように廊下ではなく窓から侵入。腕の中には汗を滴らせるとびきりの美少女。そして保健室とくれば……なあ?」
「発想がオッサ――待て待て待て!」
保健医? が懐から銃を取り出す。
その瞬間、軽く宙に浮いたがすぐに隼人さんに窓際のベッドへ投げられたと気づく。
「それでも聖職者かーーーー」
私がベッドに正座で着地する頃には隼人さんが苦情を言いながら落ちていった。
「そのうち戻ってくる。その間に右足の具合を診ておこうか」
正座からベッドに腰掛ける動作だけで見抜かれた。
どうやら保健医というのは本当らしい。
「あ、はい」
普通なら隼人さんを心配するべきなんだろうけど。
先程までの身体能力を考えると……まぁ、大丈夫なんでしょう。
私は大人しく治療を受けることにした。
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