動物保護の殺人

動物保護の殺人

「酒井さん、私共の施設への出資を続けてくれませんか?」


 酒井は当てつけのように溜息を大きくついた。


「もう何回も言っているでしょう! もう決まったことです。」

「それでもあなたの出資が無くなると、私共の施設は運営できなく……。」

「金になりますか?」

「……はい?」

「あなたの施設では、動物をたくさん保護している。それで金になりますか?」

「……。」

「ならないでしょう。


 最初は、動物保護に力を入れていることをアピールすれば、我が社のイメージアップにつながるかと思ったんですがね。そんな我が社のイメージアップの利益よりもあなた方への出資による損失の釣り合いがとれていない。」

「……私どもにとって、保護している動物達は家族も同然なんです。


 家族を利益が出るとかでないとかで考えたくはないんです。」

「なら、勝手にやってください。


 家族なら、自分たちの手で守ってください。私達はあなたたちを邪魔もしませんし、手助けもしません。」


 黒川は何も言い返すことは出来なかった。


「話すことがそれだけなら、もう帰ってください。


 ……全く、毎日毎日あなたに時間取っていられないんです。忙しいんですよ。」

「分かりました。」


 黒川はそう言って、酒井の社長室を出ようとする。黒川が振り返って酒井を見ると、もう酒井は黒川を見ていなかった。机にある書類に目を通していた。


 黒川はその隙に堺の飲むインスタントコーヒーの瓶を持ってきた同じ銘柄の瓶と取り換えた。持ってきたコーヒーの瓶の中身と元々あったコーヒーの瓶の中身はちょうど同じくらいだった。


 毎日、酒井の下に現れていたのは、インスタントコーヒーの減り具合をチェックするためだ。これで、酒井は何の疑いもなく、この睡眠薬入りのコーヒーを飲むだろう。


 そして、そのコーヒーを飲んだら最後……。


「酒井さん、最後にこれだけは言っておきます。」

「……なんですか?」



「溺れないでくださいね。」

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