血だらけの絞殺体

「高いビルだねえ!」


 能登羽はそう独り言を言うと、ビルの中へと入っていく。神宮寺はそう言った能登羽の後ろへと付いていく。能登羽はエレベーターの前で立ち止まったので、神宮司は6階のボタンを押す。


「現場は6階の社長室だそうです。」

「社長室ね。」


 能登羽はエレベーターに乗り込むと、話を続ける。


「被害者は?」

「太田洋子、28歳です。この会社の社長秘書をしていた人間です。」

「秘書ね。 


 ……ってことは、よくある展開は、秘書と社長は愛人関係で、その恋のもつれでって感じかな?」

「まあ、それも一つの可能性かと。


 ですが、この会社の社長である金子博さんには、完璧なアリバイがあります。」

「ほう。」

「太田洋子の死亡推定時刻は、午後1時~2時です。これは午後1時に社長室で太田洋子さんと別れた金子さんは、2時に社長室に戻り、洋子さんの死体を発見したということです。


 この1時~2時の間、金子は部下の人間と近くのレストランで食事をしています。


 部下並びに、レストランの店員に聴取を取った結果、金子さんは確かにレストランにいました。


 金子さんはトイレで席を離れたなどなかったために、アリバイは完璧であることのように思われます。」

「じゃあ、別の人間かな?」

「それも難しいんですよね。」


 神宮寺がそう言うと、エレベーターが開き、6階に着いた。神宮寺は能登羽を社長室へと案内した。


 社長室の扉だからと言って、重厚な扉でなく、普通の扉だった。神宮寺はその扉を開けて、中に入っていった。


「なるほど~! これはひどいねえ~!」


 能登羽の言う通り、現場は酷いものだった。現場中に血だまりができており、被害者がもがいたため、部屋中にその血が飛び散っている。


「外傷が見当たらないけど、出血死であってる?」

「いえ、被害者の死因は出血死ではなく、首を絞められたことによる絞殺です。」

「絞殺? 確かに、首に自分の爪でひっかいた跡があるねえ。


 ……でも、なんで、絞殺したのに、ここまで血が出ているんだろうねえ?」

「それは分かりませんが、出血は足首にある傷からだと思われます。」

「足首?」


 能登羽は被害者の足首を確認すると、噛みついたような跡があった。


「確かに、傷があるねえ。


 でも、この傷でここまで血が出るとは思えないんだけど?」

「そうですよね。そこもこの事件の分からないところです。」

「他にも分からないことがあるのかい?」

「ええ、先ほどの社長以外も子の殺人が難しい理由です。


 それは、この事件現場が密室であったということです。」

「ほう。要素が多いね。」

「この社長室で金子さんが被害者の死体を発見した時、この社長室の鍵は閉まっていました。そして、社長の金子さんと秘書の洋子さんしか持っておらず、金子さんは肌身離さず鍵を持っていましたし、洋子さんの内ポケットにも鍵が入っていました。


 また、社長室の窓は開いていましたが、ここは6階なので、とても隣の部屋に乗り移ったり、下の階に移ると言ったことは、少し難しいです。


 そして、社長室には換気口が窓の上にありますが、換気口には格子がはまっており、とても人間が侵入することは出来ません。


 よって、この社長室は密室であったと言えます。」

「なるほどねえ。


 密室に、血だらけの絞殺体、小さな傷と大きな血だまり。


 ……何1つ分からないねえ。」

「……どうですか? 進展はありました?」


 能登羽達が振り向くと、社長室に入ってきた男がいた。


「金子さんでいらっしゃいますか?」

「はい。」

「それでは、そちらは?」

「梨花です。」

「ああ、なるほど。


 ……梨花さんですね。覚えました!」

「すいません、梨花は人見知りなので、少し失礼に思われる面もあると思いますが悪しからず。」


 金子が頭を下げると、梨花もそれに合わせて、頭を下げる。


「いえ、とんでもありません。


 ちなみに、梨花さんは1時から2時の間、どちらに?」

「……梨花を疑っているんですか?」


 金子は能登羽の発言に難色を示す。


「いえ、形式的なことです。」

「それならいいですが…


 梨花はこの部屋の隣の部屋にいました。梨花が暑そうにしていたので、隣の部屋でいるように、私がさせました。」

「そして、梨花さんは隣の部屋でずっといたということですね。」

「はい。」

「それを証明する人はいますか?」

「……いいえ。


 隣の部屋は梨花以外は誰もいなかったと思います。そうだよな、梨花?」


 金子がそう問いかけると、梨花は頭を縦に振って、同意した。


「なるほど! 捜査協力感謝します。」


 能登羽が笑顔で金子と梨花にそう言った。金子は梨花が疑われたことを少し嫌がっていたが、金子は梨花を連れて、社長室を出て行った。


「なるほどね!


 状況証拠しかないが、あの梨花が犯人なら、この事件の謎は全て合点がいくねえ。」

「ええ、そうなんですか!?」

「うん、完璧な密室の突破方法、被害者の小さな傷から大量の出血があった理由、出血死ではなく絞殺を選んだ理由、そして、被害者の足首に傷をつけた理由。


 この全ては、あの梨花が犯人であれば納得がいく。」


 能登羽がそう言い切った。


「神宮司君!


 隣の部屋に行って、換気口がこの部屋とつながっているか確認してくれる?」

「はい!」

「ああそれと、


 もし、犯人である梨花が暴れた時、君は梨花を捕まえることができるかい?」


 神宮寺は少し考えた。


「ええ、私はああいうタイプを捕まえるのは得意です!」

 

 神宮寺がそう言うと、能登羽は神宮寺の返答を笑顔で返した。

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