三宅のトリック

「なんですか? 能登羽さん。


 明日から講義なんで、早く終わらせてほしいんですけど。」


 三宅は暗がりにたたずむ人物に話しかける。


「残念ですが、そちらは僕の恰好をした神宮司君です。」


 三宅の後ろから能登羽が現れる。三宅はすぐに後ろを振り返った。


「ここには街灯が無く、この時間になると真っ暗で、人の輪郭が見える程度です。


 私を見間違えても無理はないです。」

「……何を言いたいんです?」

「三井さんを殺したのは、あなたですね。三宅さん。」


 三宅はまだ動揺することはなく、顔に笑みを浮かべた。


「何を言い出すかと思ったら……


 僕のアリバイを忘れたんですか?


 ……もしかして、暗がりだから、僕以外の人間と入れ替わったとか言い出すんじゃないでしょうね?


 残念ながら、肝試し中、人が入れ替わるタイミングなんてなかったし、瓜二つの双子もいませんよ。」

「いえいえ、入れ替わりみたいな共犯者ではないと思っています。


 あなた一人の単独犯でしょうからね。」

「じゃあ、僕のアリバイはどう説明を付けるつもりですか?」


 三宅がそう言うと、能登羽は懐中電灯を点け、燃えかすになり、黒焦げになった家を照らした。


 三宅は動揺する。


「あの家で起きた事件は私が担当し、現場にも来ました。無残に燃えた家の残骸を覚えています。


 その時と比べて、明らかに、燃えた家の残骸が多いんです。


 そして、焦げ臭さがまだ残っている。


 確かに、6日経っていても、火事の匂いはそれなりに残りますが、これはあまりにも匂いが残り過ぎています。


 普通、6日も経ったら、鼻を近づけて、匂いを嗅ぐでもしないと、匂いはしません。それも、昨日、大雨が降ったなら、余計に匂いは消えるはずです。


 しかし、この家の匂いは遠く離れていても微かに感じるほどの焦げ臭さを放っている。


 なぜか?」


 三宅はようやく動揺し始める。


「昨日、ここで家が燃えたからです。」

「……家? どういうことですか?」

「では、最初から説明しましょう。


 あなたは倉田さんと古井さんの3人で、この山に来る。そして、この燃えた家を確認させるために、西回りで山を1周し、東の山荘に着く。


 そして、鍵を忘れたことを口実として、西の燃えた家に向かう。そして、その途中、山頂に日本刀を突き刺し、殺人犯がここに潜んでいると思わせる。


 ここからが重要です。


 あなたはここで西に家を建てたんです!」

「……!!」


 三宅はこれまでにない程動揺していた。


「あなたのことを調べさせてもらいました。


 あなたは大学で、建築学科に入っているそうですね。建築学科に入っている人間なら、一軒家を建てるのに、5分もいらないでしょう。


 あなたは西に向かうついでに、燃えた家の上に山荘を建てた。そして、東の山荘で待つ2人に声をかけ、山頂に向かう。日本刀を確認させた後、山を下るふりをして、ゆっくりと方向を変えていった。


 山を東に下りているふりをして、西に下りた。そして、あなたがゆっくり下りたことで、日は落ち、街灯は無い西では、詳しく山荘を確認できなかったはずです。


 だから、倉田さんと古井さんの2人は西の山荘を東の山荘だと勘違いした。


 そうすれば、後は簡単です。


 肝試しに出かける際、あなたは忘れ物をしたふりをして、犯行現場に向かい、三井さんを殺した。三井さんを殺した後、西の山荘に火を点ける。


 そして、すぐに2人の元に戻れば、10分もかかりません。


 後は、ゆっくりと山を登り、西の山荘が鎮火するまで待てば、西の山荘が燃えた家に早変わりする。


 このようにして、あなたは完璧なアリバイを作った。


 そうですね!」


 能登羽がそう指摘すると、三宅は溜息をつく。


「はあ……、完璧な殺人計画だと思ったのにな。」

「ええ、そうですねえ。


 大胆で、緻密な殺人計画でした。」

「なら、なぜ、分かったんですか?


 やはり、燃えかすが多すぎたからですか?」

「いえ、最初にこのトリックに気が付いたのは、倉田さんの電波時計です。」

「倉田の?」

「ええ、倉田さんは肝試しのために山荘を出た後と肝試し中は、電波時計のライト機能を使っていました。


 しかし、肝試しから帰ってきた後は、明るかったから電波時計のライト機能を使わなかったと証言している。


 この山の西側ではこんなに暗いですが、東側は月が出ているので、多少明るくなっている。


 ですから、肝試しに出かけた山荘と燃えた家は西で、肝試しから帰ってきた山荘は東だと考えたんです。」

「なるほどね。


 月明かりか。」


 三宅はそう言って、両手を能登羽に向けた。能登羽はその両手に手錠をかけた。

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