山小屋の殺人

幽玄山の殺人

 午後8時35分、幽玄山の西にある山荘で、三宅は三井を絞殺した。


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           その殺人が起こる6時間前

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「ここが幽玄山か。」


 錆びれた駅のホームを出た倉田はそう言った。


「文字通り幽霊が出てくれるかしら?」


 古井が続いて話しかける。


「昼間にノコノコ出てくる幽霊がいるかよ。」


 三宅は古井をからかった。


 倉田、古井、三宅は大学の登山サークルの仲間だった。大学の登山サークルはこの3人以外にもたくさんいるが、その3人は心霊好きという共通点があった。


「今回は自殺の名所だとか、樹海の中だとかじゃないから、期待薄かな?」

「いいや、今回は一番やばいぞ。


 5日前に殺人事件起きたてホヤホヤだ。それも一家5人が血祭りにあげられたらしいぜ!」

「そんな喜んで言うことじゃないでしょ!」

「だって、一家皆殺しなんてそうあることじゃないし、恨みや怨念がたくさん詰まってそうじゃないか?」

「でも、その皆殺しされた一家が暮らしていた家は、燃やされたって聞いたぜ?」

「そうなのか?」

「ああ、一家皆殺しした犯人が証拠を残らないように、家に火を放ったって聞いた。」

「じゃあ、家は残っていないってことか。


 まあ、でもそれもそれで怖いわね。」

「……まず、昼のうちにその燃えた家に行って見ないか?」


 三宅は提案をした。


 この後の殺人計画に必要な手順だからだ。


「そうね。


 場所はどこなの?」

「この山の西にあるらしい。


 今はちょうど北を向いているから、左の道をたどれば大丈夫だろう。」

「こっちね!」

「それで、その燃えた家の真東に俺達が泊まる山小屋がある。


 この道はこの山を一周するようにできているから、左から行って、山を一周した後、山小屋に荷物を置こう。」

「分かったわ。一本道なら迷いようがないわね。」


 三宅たちは左の道を歩いていった。


 3,4km歩いた所で黒墨になった家の残骸が道の横で見つけた。


「まだ焦げ臭いわね。」


 倉田が鼻を近づけて、匂いを嗅いだ。


「そうだな。


 昨日が大雨だったから、匂いは消えていると思ったんだがな。」

「なんで、ここの昨日の天気なんて知ってるのよ?


 私達の大学の周りはカンカン照りだったじゃない。」

「……いや、ここの山は地滑りが起こりやすいって聞いたから、前日の天気は知っておいた方がいいかなと思って……。」

「なるほど。賢いね。」


 三宅は昨日、この山に殺人の下見に来たことがバレてはいけないと思い、必死に取り繕った。


「そう言えば、あそこが予約できなかった山荘だ。」


 三宅は燃えた家の奥にある山荘を指さす。あの山荘が今回の犯行現場になる場所だからだ。


「あそこからなら、楽だったんだがな。」

「しょうがないさ。今回は先客がいたんだから。」

「もしかしたら、俺達と同じ部類かもな?」

「そうかもな。」


 三宅と古井は笑い合った。


「……そろそろ行こうぜ。


 昼間の心霊スポットは明るくてつまらない。」

「そうね。また、夜に来ましょう。」

「ああ、ちょっと待て!


 水分補給だけさせてくれ。」


 三宅はリュックを下し、カバンの中から水筒を取り出す。そして、水筒の中の水を飲んだ。その時、三宅はリュックから物をたくさん撮り出す動作をしておいた。


「すまん、すまん。


 じゃあ、行こう!」


 そう言って、三宅たちは道を再び歩き出した。大体、8,9kmは歩いた頃、三宅たちが泊まる山荘が見えてきた。


「とりあえず、山荘に入って休もう。」

「そうだな。大体、10km以上は歩いたからな。早く休みたい。」


 そう言って、三宅は山荘の鍵を下したリュックから取り出そうとする。


「あれ~、鍵が無いぞ?」


 三宅は鍵を無くしたふりをする。


「嘘だろ?」

「いや、マジだ。


 多分、あの燃えた家の前で水筒を取り出した時に無くしたんだと思う。」

「何やってんのよ!?」

「すまん! 


 すぐに取りに行ってくるから、ちょっと待っていてくれ。」


 そう言って、三宅は今歩いて来た道ではなく、山の方へと歩き出した。


「山を突っ切っていくの?」

「ああ、近道だろうし、下見も兼ねてな。」

「そう、気を付けてね。」

「ああ。」


 三宅はそう言って、山を登っていった。三宅は他の2人に見えなくなったと思ったタイミングで、急いで山を走る。


 そして、山頂に差し掛かったタイミングで、前日の調査で偶然見つけた一家殺人の凶器である日本刀を突き刺しておく。


 凶器の日本刀はナイロン袋に包んで、埋められていた。それを偶然見つけたので、今回の殺害計画に入れることにしたのだ。


 そして、三宅は燃えた家に向かった。時刻は5時ちょうど。


 1時間後、三宅は2人のいる所に行く。


「やばい、山頂に血の付いた日本刀が刺さってた。」

「マジ!?」

「マジマジ。」

「行ってみようよ。」

「行くか。」


 そう言って、古井と倉田は三宅についていった。そして、三宅は日本刀の刺した山頂へと2人を案内した。


「本当じゃん!」


 倉田は怖がる仕草を見せずに、血の付いた日本刀を抜く。


「止めとけよ。それ絶対凶器だろ。」

「でも、こうでもないと、日本刀なんて触れるもんじゃないよ。」

「そうじゃなくて、それを触ったら、お前が犯人として疑われるだろって話。」

「確かにね。」


 倉田はそう言って、日本刀を刺し直した。


「でも、一応、持って帰った方がいいんじゃないか? 証拠品だし。」

「そうだね。」

「泊まる山荘に置いておく?」

「いいね!」

「……でもさ、なんで、ここに刺してあったんだ?」


 古井がそう言った。


「だってさ、この山は5日前にあった事件で、捜査がされているはずじゃないか?


 なら、こんな山頂に堂々と刺された凶器があったら、警察が見つけているはずじゃないか?」

「確かに……。」


 倉田は少し怯えた声でそう言った。


「警察の捜査は昨日まで行われていたって聞いたぞ。」

「ってことはさ。


 誰かが今日、この凶器をこの山頂に刺したってことだよな……。


 ……犯人がこの近くにいるってことか?」


 古井がそう言うと、3人の間に静寂が生まれる。


「……一旦、帰ろうぜ。」

「そうね。」


 そう言って、三宅たちは山を下りる。その時、倉田は日本刀は山頂に刺しておいた。


「下山の方が長く感じたわ。」

「まあ、幽霊とかよりも、結局人が一番怖いからな。」

「まあ、今回こそ山荘で休もう。」


 三宅は山荘の前で時刻を確認する。


 時刻は午後7時、日はもう沈んでいた。


 今度はリュックから鍵を取り出し、山荘の鍵を開けた。そして、3人は山荘の中に入り、荷物を置く。


「ああ、疲れたな。


 俺は少し寝るよ。」

「私もそうする。」

「僕もそうするけど、戸締りはきちんとしておけよ。」

「分かった。」

「一応、外側だけじゃなく、内側にもな。」


 三宅は自然な流れでそのように言えた。山荘は一階だけで、個室は3部屋あった。後はキッチンやリビングが一体となった大きな空間だけだった。


 部屋は各々が自由に決めた結果、見事に部屋が分かれたため、選んだ部屋に3人は入った。


 古井と倉田が部屋に入ったことを確認すると、三宅は扉の鍵をかけ、窓から外に出た。


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「おい、起きろよ。」


 三宅は倉田の部屋に声をかける。


「何?」


 倉田は部屋の扉を開けて、三宅を見る。倉田は目を擦っていたので、さっきまで寝ていたのだろう。

 

「寝ながら考えてたんだけど、今、肝試しに行かないと、この山に来た意味なくないか?」

「はあ!?」

「だってそうだろう?


 俺達は貴重な土日休みを潰して、肝試しに来てるんだぜ。肝試ししないともったいないじゃないか?」

「頭おかしい提案ね。


 でも、その度胸、嫌いじゃない。」


 三宅は、彼女ならこの提案に乗ってくると思った。そして、倉田が賛成すれば、古井も賛成せざる負えないだろう。実際、古井も嫌がってはいたが、肝試しの提案に賛成した。


「そう言えば、今何時だ?」

「今は、8時だけど?」


 倉田は腕に身に付けている電波時計を確認した。


「そうか。」


 三宅は8時という時間を強調させた。


 そして、2人は肝試しの用意をした。


「一応、荷物は持っていこうか


 夜の山だし、遭難しないとも限らない。」

「確かに、外に街灯がないから、相当暗いわね。」


 3人は荷物を持って、山荘を出た。そして、三宅は山に入り始めた頃に、体中を探す動作をする。


「……すまん。スマホを山荘に忘れた。」

「また忘れ物かよ。」

「待ってるから、早く取ってきて。」


 三宅はそのまま、山を下った。時計の時刻を確認すると、午後8時30分だった。


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「やあ、三井。」


 三井は山荘の中で律義に待っていた。三宅はロープを後ろに隠して、三井に話しかける。


「なんだよ、こんなところに呼び出して。


 時間も金も相当かかったぞ。それに、誰にも見られずに来いって、どういうことだ。」

「ああ、それは……


 お前を殺すためだよ!」


 三宅はそう言って、三井の首にロープをかけ、三井の首を強く締める。


 三井はロープを外そうと、絞められている首の周りをかきむしるが、強く締められたロープに指がかからない。そして、三井は足をバタバタして抵抗している。


 三井の顔は段々と血が溜まって、赤くなっていく。しばらく首を締めていると、抵抗する足が動かなくなり、手がだらりと力なく床に落ちる。


 三宅は動かなくなってからも、首を強く締め、確実に息の根を止めた。



 三宅は時計の時刻を確認すると、午後8時35分だった。

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