第21話 新メンバーを迎えよう
ナナセがファミリーハウスに顔を出したその日は、珍しく全員が揃っていた。いつもはリスティのヒーラー訓練やら魔物狩りやらで、最近はファミリーハウスにメンバーがいないことも多くなっている。
今日も相変わらず、話題の中心はリスティだった。
「リスティ、訓練は順調?」
マルはリスティに尋ねた。
「順調よ! 早く上級ヒーラーになりたいから、頑張ってるの」
リスティはさっと自分のロッドを取り出して見せた。彼女が持っているのは以前のものよりも立派なものに変わっていた。全体的に装飾が施されていて、手元の飾りに赤い宝石が埋め込まれている。名前持ちのロッドではないが、高価なものに違いない。
「いいヒーラーを雇ったからな。安い値段で受けてくれる上級ヒーラーが見つかって、ついてたよ」
リスティの隣に座るゼットはソファに寄りかかり、折れそうなほど大きく両足を広げて座っている。
「優しくていいヒーラーよね。訓練所なんか行かなくて良かった! 訓練所に通ってたら上級に昇格なんて、いつになるか分からないものね」
リスティはふうとため息をつき、飲み物に手を伸ばしたところでハッとして「ごめん! 訓練所がダメだって言ってるわけじゃないの」とナナセに言い訳をした。
「気にしないで」
ナナセは微妙な笑みを浮かべながら言葉を返した。訓練所は必ず通わなければならない、というわけではないが、殆どの冒険者はギルドに併設された訓練所で魔術や武術を学ぶ。だがリスティやゼットからは、訓練所通いを馬鹿にしている雰囲気が伝わってくる。
とは言えナナセは、今の訓練所通いが気に入っている。ルインと一緒に通えるし、同じメイジ仲間と仲良くなって情報交換したりとメリットもあるのだ。
「あ、そうだ。ちょうどみんなが揃ってる所で……ちょっと相談があるんだけど」
リスティは急にかしこまってソファに座りなおした。
「なんだ?」
ゼットは不思議そうな顔で返し、他の仲間達の注目が一斉にリスティに集まる。
「あのね、実は私の友達をうちのファミリーに誘いたいの」
「おお、いいじゃないか。俺は大歓迎だよ」
身を乗り出して嬉しそうに話すゼット。他の仲間達も一様に頷いた。
「良かった! 実は一人じゃなくて、五人なんだけど……」
「五人も!? 随分多いね」
マルは驚いている。
「あのね、私の友達、五人でやってる小さなファミリーのリーダーなんだけど……私にファミリーに入って欲しいってずっと誘われてたのね」
「はあ? リスティは俺たちの仲間だろ。横取りする気かよ」
ゼットはあからさまにムッとしている。
「もちろん、私は断ったのよ? それでね、だったらいっそのことみんなで私のファミリーに合流しない? って逆に誘ってみたの。そしたら向こうは乗り気で、みんなでこっちに合流してもいいって言ってるの。どうかな?」
リスティは仲間達の顔を見回して言った。仲間達はそれぞれ考えている中、真っ先に口を開いたのはゼットだ。
「そういうことなら、うちは大歓迎だぜ! だけどうちに来るってことは向こうのファミリーを解散して『ダークロード』の一員になるってことだぞ? それを向こうは納得してるのか? リスティ」
「もちろんよ。彼らはファミリーが大きくなるなら名前にはこだわらないって。ファミリーを大きくするのがゼットの夢だったでしょ? 私も同じよ。今はまだ小さなファミリーだけど、いずれヒースバリーにファミリーハウスを構えて『ハイファミリー同盟』に入りたいって言ってたわよね?」
ナナセはリスティとゼットの夢を初めて聞いて驚いていた。ハイファミリーというのは主に上級冒険者が中心となって構成される大規模ファミリーのことだ。ただし、上級冒険者が集まるだけではハイファミリーを名乗ることはできない。ハイファミリー同盟に参加する資格を持つには、高い技術を持つ冒険者集団でなくてはならない。
同盟に参加すると、大人数でしか倒せない希少な魔物を合同で倒したり、どこに希少な魔物が湧くかなどの情報を共有したりできる。希少な魔物は、実質的にハイファミリーが独占している状態なのだ。ゆえに希少な落とし物が欲しければ、ハイファミリー同盟に加入しているファミリーに入っている必要がある。
「勿論だ。俺が目指すのはダークロードをハイファミリー同盟に加入させること。その為にはメンバーを増やさなきゃならないからな。リスティ、その友達に歓迎するって伝えてくれ。みんなもいいよな?」
ゼットは仲間たちを見回した。セオドアもノブもマルも納得した顔で頷いた。
ナナセはダークロードが「ハイファミリー」という高い場所を目指していることに戸惑いを覚えたが、仲間が増えることについては何の不満もない。したがって反対する理由もなかった。
「良かったー! みんな賛成してくれて!」
リスティは安心したようにソファの背もたれに寄りかかった。
「これでハイファミリーへの道が一歩近づいたな。早くこんな所出て、ヒースバリーに引っ越したいぜ」
ゼットも上機嫌で家の中をぐるりと見回した。
「俺はここ、まあまあ気に入ってるけどな」
セオドアは笑いながら言った。
「そうそう、キャテルトリーは街全体がコンパクトで暮らしやすいよ」
ノブもセオドアに同調した。
「でもこのファミリーハウス、狭いじゃない! 私はもっと広い所がいいわ。実はもう目をつけてるところがあって……すっごく眺めがいいところよ! ヒースバリーを一望できるし、お庭もびっくりするくらい広いんだから!」
目をキラキラ輝かせながらリスティが語った。
「それはいいねリスティ。今のファミリーハウスはゼットしか個室がないし、作業室もあと一つか二つは欲しいよね」
マルはリスティに同意しながら、ちらりとナナセに目をやった。リスティに作業室を与えたことをまだ気にしているのだろうか。
「家が広くなるのなら、いいと思う。でもヒースバリーにファミリーハウスが移ったら、ここから通うの大変じゃない?」
ナナセはふと疑問を口にしてみた。キャテルトリーで暮らしながらヒースバリーに通うのは、なかなか大変そうだ。
「ハハハ、何言ってんだよナナセ。そうなったら当然自宅も引っ越しだろ!」
ゼットは豪快に笑った。
「あ、そうか。確かに……」
ヒースバリーには高級な住宅があり、更に豪華なファミリーハウスがある。高級な装備品も高価な薬も、ヒースバリーの方が手に入りやすい。冒険者として暮らすならば、目指す所はやはりヒースバリーということになる。
仲間達は新たな仲間が増えることに喜んでいる。ナナセはまだ中級に上がったばかりで、上級とかハイファミリーとか、どれも遠い話であまり興味がなかったが、仲間達が喜んでいるのならきっといいことなのだろうと思った。
♢♢♢
翌日、早速リスティは新たな仲間達を連れてファミリーハウスへ現れた。彼らの人数は五人で全員男性だった。
「えーと、紹介するわね、彼はベイン。前のファミリーでリーダーをしていたんだけど、解散してうちのファミリーに入ってくれることになったの」
五人の中央に立っていた男が、一歩前に出た。黒髪で特徴のない顔立ちで、覇気のないぼんやりとした立ち姿だ。
「みんな、よろしく……俺はベイン。リスティに誘われてダークロードに入ることにしたんで、これからみんなと仲良くやれたらいいなと」
ベインがぼそぼそと挨拶すると、残りの四人も皆ベインと似たような雰囲気の男達で、続けて自己紹介をした。ゼット達はぱらぱらと拍手をする。続けてナナセ達も一人ずつ自己紹介をした。セオドア、ノブ、マルと続き、ナナセの番が来た。
「ナナセです。今はメイジで、調合師も最近始めたばかりです……よろしくお願いします」
自分なりに丁寧な挨拶をしたつもりのナナセだったが、ベイン達は全員興味なさそうに軽く拍手をしただけだった。ナナセの自己紹介が終わった後、ゼットが全員を見回しながら口を開いた。
「よろしく、えーでは改めて……俺は『ダークロード』リーダーのゼットだ。みんな、俺のファミリーに参加してくれて嬉しく思う。うちのファミリーは厳しいルールもノルマもない。だが夢はある! いずれダークロードはノヴァリスで一番のファミリーになるってことだ。俺らならその夢を叶えることができる。みんな、これからよろしく頼む」
ゼットの演説を聞いていた仲間達は、頷きながら拍手をした。ナナセは周囲が拍手をし出したところで、慌てて拍手を合わせた。
リスティは頬を紅潮させながら、ゼットに続いた。
「これでメンバーも増えて、魔物狩りも捗るわね。みんな、頑張ろうね!」
「勿論。リスティの為なら何でもやるよ」
ベインはリスティには目を輝かせ、はきはきと元気よく話した。
「もう、ベイン! 私の為じゃなくて、みんなの為にやってね」
「分かってるよ。でも俺達はリスティの為にここに来たんだから」
ベインはリスティのことしか目に入っていない、という感じだ。
ベインとリスティが楽しそうに話しているのを見ていたゼットは、あからさまに不機嫌な顔になっていた。
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