第19話 ファミリーで魔物狩り
「えーと、それでは私とルインの……中級昇格試験突破を祝って……乾杯!」
「乾杯!」
喜びを抑えきれない表情のナナセとルインは、レストラン「マリーワン」でお互いのグラスを掲げていた。
二人は一緒に中級昇格試験を受け、見事試験を突破し中級魔術師となったのだ。そのお祝いに、二人でマリーワンを訪れた。
テーブルの上には魚のグリルと野菜、チーズソースのパスタなどの料理が並び、爽やかな香りのハーブがたっぷりと入ったソーダを飲みながら、二人は楽しく過ごしている。
「中級になったから、これで覚えられる魔術が増えるね! ……でも、また新しい魔術書を買わなきゃいけないから……お金がいくらあっても足りないなあ」
ナナセは天井を見上げてふうとため息をついた。
「お金はかかるけど、中級になったら蘇生魔術が覚えられるから嬉しいよ。これでもっといい依頼を受けられるし、お金が稼ぎやすくなるよ」
ルインは美味しそうな焦げ色がついた魚を頬張った。
「やっぱりお金かあ……ねえルイン、職人になることは考えてる? 私、本格的に調合師を目指そうかなって思ってるんだけど……」
ルインはうーん、と少し考えてから口を開いた。
「……実は、裁縫職人になろうかなと思って」
「裁縫職人!?」
ルインの思わぬ返答に、ナナセは素っ頓狂な声を上げた。
「前に話してたでしょ? ナナセのファミリーメンバーが、珍しいローブを着てたって。あれ、ちょっと調べてみたんだけど「名前持ち」の魔物の落とし物さえあれば、裁縫職人なら簡単に作れるんだって」
「ああ、リスティが着てたやつね……」
リスティが着ているローブは「名前持ち」の魔物の素材を使うもので、なかなか店では出回らないものだ。
「名前持ちじゃなくても、魔物の落とし物を使うだけでもいい装備品が作れるんだよね。落とし物を職人に持ち込んで作ってもらうのが一般的らしいけど、どうせだったら自分で作りたいなと思って」
「それ、いい考えだね! 街着とかも作れるの? 帽子とか、靴下とか?」
ナナセは目を輝かせている。
「作れるけど、あれこれ手を出すより一つの種類を極めた方がいいみたい。私は装備品を主に作りたいかな」
「そっか、それもいいね。ねえルイン、いつか私のローブも作ってよ!」
「うん、いいよ。いつになるか分からないけどね」
ルインは少し照れたような顔ではにかんだ。
「よーし、それじゃあお互い頑張らないとね! なんだかやる気が湧いてきたよ」
ナナセは大きくグラスを掲げた。
「あ、それとナナセ。もう一つ言っておくことがあって」
「何?」
不思議そうな顔でナナセはルインを見つめた。
「私もファミリーに入ることにしたの。前に冒険者ギルドの掲示板で見たでしょ? 私語禁止のファミリーで『リバタリア』って言う所。覚えてる?」
「ああ! あれね、覚えてるよ」
リバタリアは私語禁止という珍しいルールを掲げている。仲間とのコミュニケーションは取りたくないが、ファミリーハウスの利用など、便利な特典だけ受けたいという者達から人気らしく、意外にもメンバーの数は100人を超えている。
「リバタリア、私語は禁止だけどムギンの中にファミリー専用の掲示板が作られてて、分からないことがあったら質問すれば誰かが答えてくれるし、情報交換も盛んなの。あとファミリーハウスもすごく大きくて、共用の倉庫にも色々なものが入ってて、自由に使えるんだよ」
「へえ……いいなあ」
ナナセは心底羨ましそうに言った。ファミリーハウスを使ったり、情報交換をしたいだけならリバタリアで十分ではないだろうか。
「最近メンバーがすごく増えてるみたい。誰とも会話しなくていいし、決まり事も殆どないし、私には合ってると思うんだ」
「そうだね、話を聞いてたらルインにすごく合ってると思う。私もそっちに行きたくなっちゃったな」
ナナセはアハハと笑った。
「来たくなったらおいでよ。でもナナセは自分のファミリーがあるでしょ? まずはそっちで頑張ってみたら?」
「そうだね……私も『ダークロード』で頑張るよ。中級に上がったから、今度みんなで魔物狩りに行くことになってるんだ」
「へえ、いいじゃない。やっとこれでファミリーらしくなってきたね」
ナナセはルインの前でわざとらしくはしゃいで見せた。しかしナナセのファミリーの雰囲気が段々変わってきていることは、ルインには明かせなかった。
それは新しく入ってきたリスティが変えた空気なのだが、今のナナセにはそれがいいことなのか悪いことなのか、まだ分かっていなかった。
♢♢♢
ナナセとルインが中級に昇格した翌日。
今日はナナセのファミリー「ダークロード」のメンバーで魔物狩りに行く日だ。ナナセが中級になったので、リーダーのゼットがナナセを含めて魔物狩りに行こうと提案してくれたのだ。
ナナセは朝からワクワクしていた。しっかりとバッグの中に回復薬と魔力回復薬を入れ、準備は万端だ。
狩りに出かけるのは昼過ぎの予定だった。目的地はキャテルトリーの西を進んだところにある「迷いの森」だ。広く深い森が冒険者を惑わせ、迷子になる者が多いことからそう名づけられた場所だ。
ナナセとマル、セオドアとノブの四人は先に迷いの森へやってきた。セオドアとノブはそれぞれ自分のビークルに乗り、ナナセはマルのビークルに乗せてもらった。
ゼットとリスティは出発時点でファミリーハウスにおらず、後から合流することになっている。
「この辺を拠点にしようかー」
マルはたき火の跡がある場所を指さした。森の中にはいくつも冒険者が拠点にできる場所がある。たき火と鍋がかけられるフック、それを囲むように丸太を半分に割っただけの簡素なベンチ、宿泊用のテントが設置できるスペースもある。
これは冒険者たちが過去に作ったもので、魔物狩りに適した場所の近くには大抵こういう場所がある。他の冒険者たちは、空いていれば自由にたき火跡を使えるようになっているのだ。
ナナセ達はたき火跡に腰を下ろした。ここは視界も開けているし、近くに小さな川もあって拠点にはちょうどいい場所だ。マルは早速たき火を起こし、パチパチと心地よい音が辺りに響く。
「ゼットはまだ来ないのか?」
重そうな剣を地面に置き、セオドアはどかっとベンチに腰かける。
「もうすぐ来ると思うよー。ゼットとリスティが来るまで、お茶でも飲まない? 今お湯を沸かすね」
マルはごそごそと大きな荷物の中からやかんを取り出した。
「マル、私が水を汲んでくるよ」
ナナセが手を差し出すと、マルは嬉しそうに「いいの? ありがとう」と言ってやかんを渡した。
ナナセはやかんを手に、近くの川に水を汲みに行った。さらさらと静かに流れる川から水を汲み、ふうと息をついて周囲を見回す。迷いの森などと言われているが、こうして見ると明るく見通しも悪くない。ただ、どこを見ても同じような景色で、やみくもに歩き回っていたら迷ってしまうのも分かるなとナナセは思った。
駆け足でやかんを手に戻ると、ちょうどゼットが手を上げながらこちらに向かってくるのが見えた。
「よう、遅くなった」
ゼットは笑顔でやってきた。しっかりと防具のベストを身に着け、背中に盾を背負い片手剣を携えている。こうしてみると彼はいっぱしの剣士に見える。
「ぼくたちもさっき着いたばかりだよー。リスティがまだ来てないんだけど、一緒じゃなかったの?」
マルはナナセから受け取ったやかんを火にかけながら言った。
「あれ? まだ来てないのか? おかしいな、ちょっと聞いてみるか」
ゼットは耳のピアスに触れ、リスティと通信し始めた。
「リスティ? もうみんな集まってるぞ……うん、うん。あー、そうなの? うん、うん、分かった」
ふーとため息をつき、ゼットは通信を切った。
「リスティ、今別のパーティに入ってるから遅くなるとさ」
「そうなの?」
マルは目を丸くした。
「何でも、どうしても魔物狩りを手伝って欲しいって言われて断れなかったんだと。それですぐ終わると思ったら狩りが長引いてるらしい。終わり次第すぐこっちに来るから待ってて欲しいとさ」
「そっか、リスティはヒーラーだもんね。彼女が抜けるわけにはいかないもんね」
マルはうんうんと頷き、セオドアとノブも「じゃあ仕方ないな」と顔を見合わせている。
「仕方ないから、リスティが来るまでここで待つか」
ゼットは丸太のベンチに腰かけた。
「じゃあ俺は、ちょっと素材集めにでも行ってくるかな。この辺、高く売れる茸が採れるんだよ」
セオドアが腰を上げると、ノブも「じゃあ俺も」と立ち上がった。
「ナナセも行ってきたら? ぼくはここでお茶でも飲んでゆっくりしてるから」
「え……いいの?」
遠慮がちにナナセが尋ねる。
「気にしなくていいよ。ここは色んな薬草とか茸とか、貴重なものもあるから採っておいて損はないよ。あ、でも奥には行かないでね? 魔物がいるかもしれないから」
マルは笑顔で言った。ナナセはマルの言葉に甘え、少し近くを探索することにした。
ナナセはしばらくの間、周辺を歩いて薬草を採ったり茸を探したりしていた。リスティの合流が遅れ、時間潰しのつもりだったが以外にも楽しく、見たことのない草を採ったり、美味しそうな木の実を拾ったりしていた。
暇をつぶして拠点に戻ると、まだリスティは来ていなかった。
「あ、おかえりナナセ! お茶淹れたけど飲む? ぼくの特製ハーブティーだよ」
ナナセはマルの言葉に目を輝かせた。
「飲みたい!」
「はい、どうぞ。これ、いつも持ち歩いてるんだあ……狩りの疲れが取れるお茶なんだよ」
マルはカップに入れたハーブティーをナナセに差し出した。カップの中にはハーブが浮かんでいて、一口飲んだナナセはたちまち元気が出てくる感覚になった。
「これ、とっても美味しいね!」
「ふふ、ありがとうー」
マルはとても嬉しそうだ。
「ほら、だからお前は料理人になれって言ってるんだよ。絶対に料理人の才能があるんだって!」
ゼットは笑いながらマルに言った。
「そうかなあ? そこまで言うなら……料理ギルド、入ってみようかなー」
マルはまんざらでもなさそうだ。
「私もいいと思う。マルの料理、どれも美味しいし」
「ナナセがそう言ってくれると嬉しいなあ。本気で考えてみるよ」
マルは自分に言い聞かせるように頷いた。
リスティはまだこなかった。セオドアとノブも戻ってきて、みんな拠点でしばらく手持ち無沙汰な状態のまま、リスティをただ待っていた。
ナナセ達が拠点に来てからもう一時間以上が経過していた。いい加減待ちくたびれた所で、ようやくゼットにリスティから連絡が入った。
「リスティ、終わったってさ。今から迎えに行ってくる」
ゼットはさっと立ち上がり、ビークルに乗ってあっという間に消えていった。
「良かったねー。もうすぐ来るって」
マルはホッとした顔でナナセに言った。
「うん、良かった」
ヒーラーがいないと狩りに出られないとは言え、こんなに待たされると思っていなかったナナセは、ようやくリスティが来ると聞いて胸を撫で下ろした。
それから更に時間が経ち、リスティが笑顔でナナセ達の前に現れた時には、森に来てからもう二時間が経っていた。
「みんなお待たせー」
ニコニコと手を振りながらリスティは駆け寄ってきた。
「大変だったねリスティ。他のパーティのお手伝いしてたんでしょ?」
マルはリスティを気遣った。
「そうなの! ヒーラーがいないからどうしてもって頼まれちゃって……すぐに終わると思ったんだけど」
リスティはため息をつき、丸太のベンチに腰かけた。
「大丈夫かリスティ? 疲れた顔してるぞ」
セオドアがリスティの顔を覗き込んだ。確かにリスティは疲れた顔をしているように見える。
「ううん、平気。心配してくれてありがとね、セオドア。魔力がまだ完全に回復してないだけ」
マルは素早く魔力回復薬をリスティに手渡した。
「はいリスティ、これを飲んでね。ねえゼット、リスティをこの後魔物狩りに連れていくのはきついんじゃない?」
「そうだな……今日はやめとくか?」
ゼットも心配そうにリスティの顔を覗き込む。
「ほんとに大丈夫だってば! 薬を飲んだからほら、私は元気いっぱい。せっかくみんなと魔物狩りに来たんだから、すぐに出発しようよ」
リスティは慌てて、元気なことをアピールするように立ち上がって見せた。
「そうか? 辛くなったらすぐに言うんだぞ」
まだゼットは心配そうな顔だ。セオドアとノブもそれぞれ「大丈夫か?」「無理するなよ」と声をかけている。
(遅れてきたこと、謝らないんだ)
ナナセはリスティが二時間も仲間を待たせたことをまるで気にしていない様子に、胸の中がもやもやした。だが仲間達は誰もリスティを責めるようなことを言わないどころか、疲れているリスティを気遣っている。
「今日はここで『寂しがりやの狼』の落とし物、狼の毛皮を狙うんだ。狼の毛皮、欲しがってたもんな? リスティ」
ゼットの言葉に、ナナセは驚いて思わずリスティを見た。リスティはニコニコと頷いている。
「うん! 狼の毛皮があれば新しいローブが作れるの。すっごくいいローブなのよね! これがあればもっと防御が上がるし、素早さも上がるから呪文を早く唱えられるようになるもの」
「……今日は、それが狩りの目的なの?」
恐る恐るナナセは周囲に尋ねた。
「え? そうだよー。リスティが欲しい素材があるっていうからここにしたんだ」
マルは当然、と言った顔で答えた。
「みんな、今日はありがとねー、私の為に」
リスティも当たり前、という顔で微笑んでいる。
ナナセは心の中で呟いた。
(中級に上がって、ようやくみんなと狩りできるようになったけど……リスティの欲しい物を手に入れる為に、私は二時間もリスティを待ってたの?)
ナナセは複雑な心境だ。だがメンバーはこれが当たり前だと思っている。それぞれがリスティを心配し、リスティの為に魔物を狩ろうと準備をしている。納得していないのはどうやらナナセだけのようである。
「よし、じゃあ今から魔物狩りを始めるか」
ゼットが声をかけると、仲間達はそれぞれ準備を始めた。
「ゼット、宵の泉を見つけておいたけど、ライバルのパーティも向こう側にいるみたいだ」
セオドアとノブは探索ついでにこの辺りを調べていたようだ。
「ライバルがいようが、寂しがりやの狼は俺たちのもんだ。ノブの弓の腕がありゃ、狼をこっちに引き付けられる」
ゼットがノブが携えている弓を指さすと、ノブは自慢げに弓を掲げた。
「任せてくれ」
「期待してるわ、ノブ!」
リスティが声をかけると、ノブは照れたように笑った。
ナナセも狩りの準備を整えていた。薬をポケットにしまい、ロッドを手に持つ。するとリスティがナナセのロッドに目ざとく気がついた。
「あれ? ナナセ。そのロッド、新しくしたの?」
「え? ああ、うん」
「ねえ、見てもいい?」
興味津々のリスティに、ナナセはロッドを見せた。
「ふーん、こんなの見たことない。すごいわね、ナナセ。どこで買ったの?」
ナナセの青い線が入った「アリアのロッド」を、リスティはじろじろと見ている。
「これは買ったものじゃなくて、知り合いにもらったんだ」
「知り合い? 知り合いがくれたの? これを?」
「うん、この前知り合いのお手伝いをして……そのお礼だって」
「へえ、いいね」
少し間があって、リスティは素っ気ない言い方で答えた後、駆け足でゼットの所に戻った。
「ねえ、早く行こうよ!」
リスティは何事もなかったように、いつもの愛らしい笑顔に戻っていた。
その後、ナナセ達は初めてファミリーと一緒に魔物狩りをした。
ノブが宵の泉から出てきた「寂しがりやの狼」を狙い、弓で狙う。狼はノブを狙ってパーティへ向かってくる。そこをゼットとセオドアが立ちふさがり、盾で守りながら狼に攻撃を加える。
後衛のナナセとマルはゼット達の後ろから魔術で戦う。麻痺魔術も駆使し、危なげなく狼を倒すことができた。リスティは前衛の傷を回復し、次の戦いに備える。仲間達の連携もよく、スムーズに魔物を倒すことができることにナナセは驚いていた。役割分担ができていれば、強い魔物も倒せるということなのだ。
「あー、またブラッドストーンだけか」
残念そうにゼットは狼が消えた跡に現れたブラッドストーンを拾い上げた。そんなゼットを励ますように、リスティが声を張り上げる。
「そんなに簡単に毛皮は落とさないわ。さあ、次行きましょ、次!」
意外にもパーティを仕切っていたのはリスティだった。リスティの回復魔術が生命線なのだから、それも当然なのかもしれない。リスティは他のメンバーが戦う間、殆ど休んでいた。魔物を倒した後に彼らのダメージを癒し、次の魔物を見つけるようにノブに促す。どうやら彼らはずっとこのやり方で狩りをしているようだ。
(ルインは自分も攻撃に参加していたけど……ヒーラーによって随分戦い方に違いがあるんだな)
ナナセとルインが一緒に狩りをする時は、当然のようにルインも攻撃魔術を使っていた。そうしないと狩りができないから当然なのだが、リスティは他に攻撃役が揃っているので、自分が前に出る必要がないということなのだろう。
ナナセ達はその後も、目当ての狼の毛皮が出るまで何度も狼を狩り続けた。なんだかんだで初めての仲間との狩りをナナセは楽しんでいた。リスティが休んでばかりなのは少し気にはなったが、ヒーラーがいることの有難さを十分に感じていた。
気づけばもう辺りは薄暗くなっていた。夜になれば、昼には現れない不気味な「スケルトン」と呼ばれる骸骨のような化け物が現れると言われている。宵の泉からやってくる魔物とは違い、倒しても逃げ出すだけで再び現れるのできりがない。夜の狩りが推奨されていない理由の一つだ。
「もうそろそろ引き上げないか? リスティ」
ゼットがリスティに声をかける。
「うーん、もう一匹! もう一匹だけ! お願い」
リスティは毛皮を諦めきれないようで、まだ帰る気にならないようだ。
「仕方ねえな、じゃあ最後にもう一匹だけ狩るか」
ゼットは苦笑いをしながらノブに目配せをした。ノブは頷き、すぐに魔物を探しに走り出した。
ナナセの目には、ノブの疲労が濃いように見えた。何時間も魔物を探して走り回り、ライバルに先に獲物を取られないよう神経をとがらせているのだ。彼が一番負担が大きいだろう。
「次こそ出るといいわね」
リスティは無邪気に話し、マルはそれに続いて「ねー、出るといいよね!」と笑う。
リスティもだが、マルもあまり動いていないことにナナセは気づいていた。マルとナナセは同じメイジで、マルの方がメイジとしては先輩だ。だが麻痺魔術は殆ど使わず、攻撃魔術も威力が低い。疲れるとナナセに任せ、後ろで戦わずにリスティとお喋りしていることもあった。
マルは「メイジに向いていない」と話していたが、この言葉は嘘ではなかったようだ。メイジどころか冒険者そのものに向いていないように見える。
最後の狼を倒したその時、とうとう念願の「狼の毛皮」がブラッドストーンと一緒に落ちていた。
リスティは飛び上がって喜んだ。
「やったー! 嬉しい! あきらめないでよかった」
「よかったねー、リスティ」
マルも自分のことのように喜んでいる。
「これで新しいローブが作れるわ! ありがとうみんな!」
「よかったね、リスティ」
ナナセも笑顔で声をかけた。複雑な思いを抱えたままだったが、こうして心から喜んでいるリスティの笑顔を見ていると、ナナセもこれでよかったという気持ちになってきた。
「新しいローブができたら、一番にみんなに見せるわね! 早く新しいローブで狩りがしたいなー」
はしゃぐリスティを見て、ゼットも嬉しそうに笑っている。
「落とし物が手に入ってよかったよ。二日かかっても手に入らないって話も聞いたことあるしな。今日は運が良かったよ」
「そんなに大変だったんだ」
ナナセは驚いてゼットが持っている狼の毛皮に目をやった。魔物は時々、こういう「落とし物」という体の一部を残して消えていく。この落とし物を加工すると強い装備品に生まれ変わるので、冒険者は落とし物を狙って狩りに出ることも多い。
ナナセは「世界の裂け目」で偶然鳥の羽根を手に入れることができたが、あれはとても運がいいことだったのだ。
「さあ、さっさと帰ろう。スケルトンに絡まれる前にな」
ナナセ達は急いでビークルに乗り、早々にキャテルトリーに戻り、今日の魔物狩りは終わった。
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