第27話 例のあの技
あの後、俺は事情を袴田の母親に話すことにした。
当然ながら、本当に京介が袴田に危害を加えているという確証はなかったが、万が一にもそうであればしゃれにならない。
できる限り落ち着いた口調で可能性の話を袴田母にしたつもりだったのだが。
「ねえ美優はどこにいるのっ!! その男の子に何をされているのっ!?」
娘が犯罪に巻き込まれているかもしれないことを知った袴田の母は取り乱した。
「場所はわかりません。ですが、念のために警察に連絡した方がいいかと」
今になって見ればカラオケを出た時点で警察に電話しておくべきだった。が、俺もまたパニックを起こしていたためそれどころじゃなかったのだ。
俺の言葉に袴田母はコクコクと何度も頷くとスマホをポケットから取り出した……のだが。
「そ、そうだっ!?」
と、何かを思いだしたかのように目を見開く、スマホをポチポチして画面を俺に向けた。
「美優は今、ここにいるわ」
「え? なんで知っているんですか?」
スマホには地図とともに袴田の所在地を知らせる青い丸印が表示されていた。
そこで俺は思い出す。
そ、そういえば袴田の両親はたびたび袴田の荷物にエアクリップを忍ばせるとかなんとか……。
ババアからの洗脳がとけてもうやっていないと思っていたが、どうやらまだやっていたようだ。
そんな母親に呆れつつも、今回ばかりは役に立ったことに感謝する。
それよりも袴田はどこにいるんだ?
目を凝らして地図アプリを見やると名前の知っている川の名前が表示されている。どうやらここからそう遠くは離れていないようだ。ここなら走れば5分ぐらいでたどり着ける。
ならば行くしかない。
「お、お母様、すぐに警察に連絡をしてください。俺は自分の足でここに向かいます」
そう言うと彼女のスマホを奪い取り、代わりに自分のスマホを手渡してかけ出す。
そして、自分の体力不足を恨みながらもなんとか5分間全力疾走をすると、今は使われていなさそうな廃工場が目の前に現れた。
地図を見る限り袴田は目と鼻の先である。
朽ちた柵をなんとか乗り越えて敷地内に入ると、地図の方向へと駆けていく。すると、視線の先に朽ちたトタン屋根の倉庫のような物が見えた。
どうやらあそこにいるようだ。
ということで、倉庫の入り口までやってくると力一杯倉庫の扉を開いた。そして、目の前に広がる光景に絶句した。
え? これ……ガチでヤバいやつじゃん……。
俺の視界に映るのは両手足を縛られた袴田の姿と、鉄パイプを片手にもつ京介の姿。
おいおいなんでだよ。なんで京介がこんなことになっている?
お前は『星屑のナイトレイド』の主人公で最高の男のはずだろ?
が、目の前に映るのが全ての現実である。であれば、ゲームのことは頭から捨てるしかない。
「おい、生田っ!! これはどういうことだっ!!」
そんな言葉に京介は驚いたように目を見開いた。が、すぐに鉄パイプを持ったままこちらへと駆けてくる。
いやいや、勝てるわけねえだろっ!!
「邪魔しやがってっ!! 死ねよっ!!」
そう叫んだ京介は俺のすぐそばまで駆けてくると、躊躇わず鉄パイプを顔面めがけて振り下ろしてきた。
が、思っている以上に鉄パイプは重かったようで、なんとかすれすれのところで体をかわす。
直後、京介は振り下ろした鉄パイプを俺の足めがけて振り上げると、パイプは俺のすねにクリティカルヒットした。
「ぎゃあああああっ!!」
思わず激痛とともに俺はその場に尻餅を付く。直後、京介は鉄パイプを投げ捨てると俺に馬乗りになった。そして、懐から何かを取り出してニヤリと笑った。
「死ね」
京介が手に持っていた物。それはサバイバルナイフだった。
おいおい嘘だろ……殺意マシマシじゃねえかよ。こんな物で胸をつかれたら一溜まりもない。
だから必死に両手を伸ばして彼の手首を掴んでそれを阻止しようとするが、京介は力で強引に切っ先を俺の喉元へと押し込んでくる。
ヤバい……ヤバいってば……。
まさかの命の危機に、必死に抵抗をするもほんのわずかに京介の力の方が強く、切っ先は徐々に喉元へと接近してくる。
このままじゃ死ぬ。そんでもって俺が死んだら袴田も殺される。
必死に抵抗しながらも俺は袴田へと顔を向ける。
が、袴田は逃げるどころか手足をしばられた状態でこちらへと近づいてくる。
おいおいやめろ。マジで殺されるぞ。
「おい、袴田っ!! 逃げろっ!!」
「嫌ですっ!! 神様をおいて逃げられませんっ!!」
「ふざけてる場合じゃねえぞっ!! マジで殺されるぞっ!!」
「神様のいない世界に生きている意味はないです。神様が死ぬなら私も死にます」
いや、なに言ってんだよっ!! 俺の必死の説得にも袴田は逃げる様子はなく後ろ手を縛られた状態で芋虫のようにこちらへと這ってくる。
そうこうしている間にも切っ先は喉元のすぐそばまで接近してくる。
ダメだ……死ぬ……。
徐々に押されていくナイフに泣きそうになりながら必死に抵抗を試みる俺。が、それでも京介の力は強く切っ先がわずかに喉に触れてチクチクする。
やばい……。
力の差にここまでかと本気で生を諦めそうになる俺。が、いよいよ俺の頸動脈をナイフが切り裂こうとしたその時だった。不意に京介の手からすっと力が抜けた。
え?
なんだかよくわからないが、俺は慌てて京介の手を押し蹴返すとぽとりと彼の手からナイフが床に落ちて、彼は俺のほうへと倒れてきた。
は? おいおい……何が起きた?
その突然の出来事に目を丸くしていると、ふと京介の背中にぴったりと顎をくっつける袴田の姿が見えた。
な、なにやってんだ……こいつ……。
「お、おい……袴田?」
「…………」
彼女は何も答えない。ただただ京介の背中に顎をぴったりとくっつけている袴田に首を傾げていた俺だったが、ふとある答えに思い至った。
せ、洗脳傀儡門っ!!
そ、そうだ。彼女はただ京介の背中に顎をおいているだけではない。顎を使って虚数家の洗脳傀儡門を刺激しているのだ。
それはいつの日か俺が袴田に押されたツボの名前である。初めてその名を袴田から聞いた時はヤバすぎて戦慄したのを覚えている。
脳に話しかけてやがる……こいつ京介の脳に直接話しかけてやがる……。
そんな洗脳現場に思わず絶句していると、袴田は不意に瞳を開いて俺を見やった。
「神様……もう大丈夫です……」
「ほ、本当に大丈夫なのか?」
コクリと頷くと美優は京介の背中から顔を離した。とりあえず、俺は近くに落ちていたナイフを遠くへと投げると、自分の上に乗った京介の体を押しのける。
「お、おい……生田……大丈夫か?」
「………………」
そんな俺の言葉に京介は何も答えない。いや、むしろこいつ意識あんのか?
「生田くん、聞こえてますか?」
そんな俺に代わって今度は袴田が声をかけた。彼はびっくっと体を震わせて状態を起こすと、その場で土下座を始める。
「も、申し訳ございませんでしたっ!! 袴田さまああああああっ!!」
京介は床に頭を擦りつけたままそんなことを叫ぶ。
どうやら袴田の洗脳は完璧のようである。
洗脳傀儡門怖すぎだろ……。あまりの指圧の効果にドン引きしているとなにやら「動くなっ!!」という叫び声が聞こえたので倉庫の入り口を見やる。
するとそこには制服姿の警察官が二人ほど立っており、そのそばには土下座をする京介を指さす袴田母の姿があった。
どうやら俺たちは助かったみたいである。
――――――
新連載始めました。
えっちいやつです。
よろしければこちらも読んでやってください。
『全寮制の女子校の教師になった俺、女子校生と女性教師に狙われる』
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