第26話 絶体絶命

 いったいどれぐらい眠っていたのだろうか。


 そもそもどうして自分は眠っていたのだろう?


 意識を取り戻した美優が瞳を開くと、そこには見覚えのない空間が広がっていた。


 ――ん? ここどこ?


 そこは体育館のような三角屋根の広い空間だった。が、体育館ほどは広くなく精々三分の一程度の広さしかなさそうだ。


 一見何かの倉庫に見えるその空間だが、今は使われていないのかガラスの一部は割れており、隙間から青空が顔を覗かせている。


 そんな目の前の光景を呆然と眺めていた彼女だったが、次第に意識がはっきりとしてきて、さっきまで自分がカラオケにいたこと、京介に怪しげな薬を盛られたことを思い出す。


 そう、どう考えても彼女は危機的状態である。


 そのことを思い出した美優は慌てて立ち上がろうとするのだが。


「きゃっ!!」


 彼女の意志と反して手足を思い通り動かせずに立ち上がろうとするも転んでしまう。


 そこで気がついた。自分の手足が縄で縛られていること、さらには口もタオルで縛られていることに。


「お目覚めみたいだね……お姫様……」


 と、そこで背後から男の臭すぎるセリフが聞こえてきた。とりあえずその場に腰を下ろしたまま後ろを振り返ると、そこには見覚えのある男子生徒の姿。


 当然ながら京介である。


 よくもまあ恥ずかしげもなくこんなセリフが吐ける物だ。いつの日か黒歴史になりそうなダサいセリフを口にする京介を冷めた目で眺めていると、彼は彼女の目の前でしゃがみ込む。


「きみをどう調理しようか? 俺好みに味付けしてあげないとね」


 もはや共感性羞恥を発症しそうなレベルである。美優としてはそのことを指摘してやりたくなるが、残念ながらタオルで口を覆われているので何もできない。


 軽く鳥肌が立つのを感じつつも美優は視線で辺りに向ける。


 少し離れたところに彼女の学生鞄を見つけた。


 美優は普段スマホを鞄の中に入れているのだ。手足を縛られている以上スマホで助けを呼ぶのは不可能そうだ。


 このままだとマズい。そう思いながらも何もできず無抵抗に京介を見上げることしかできない。


 最悪の場合、この男に処女を捧げさせられることになる。


 それは彼女にとって深い極まりないことではあるが、我慢できないこともない。


 仮にこの男に何をされたところで彼女の心は大河に向いてるのだ。大河のことを強く思えばこの程度のことは堪えられる。


 が、一番マズいのは犯罪に巻き込まれることだ。いや、すでに巻き込まれてはいるが、さすがに何か間違えて命を取られるようなことになるのだけは避けたい。


 死んでしまってはもう大河に会えないのだ。


 ことは慎重に運ばねばならない。とりあえずは必要以上に京介の感情を逆なでないようにしよう。


 なんて考えながら京介を見つめていると、かれは不意に不機嫌そうに美優の頬をひっぱたいた。


 痛い……けれどもこの程度のことはあの女にもされた。


 美優は特に反応もせずに再び京介を見つめると彼は不機嫌そうに舌打ちをしてから美優のタオルを外した。


「………………」

「………………」

「ほら、タオルを外してやったぞ。助けでも呼ばないのか?」

「どうせ叫んでも聞こえないところなんですよね?」

「そういう態度が癪に障るんだよ」


 と、京介は顔を接近させて不快な顔を美優に見せつけてきた。


 が、すぐに京介は笑顔に戻ると人差し指で美優の頬を撫でてくる。


 不快である。


「けれどもここまで反抗的な顔をする女は初めてだ。こういう女を調教するのも悪くない」

「そうですか……」

「お前、怖くないのか? これから俺はお前を問答無用で犯すぞ? あの冴えない男ともう済ませてるのかもしれないけど、俺に汚されるのは不快だろ?」


 この男に汚されるのはたしかに不快だ。が、それ以上に不快なのは美優にとっての神様を冴えない男呼ばわりされたことである。


 怒りを露わにして睨むと、何を勘違いしたのか京介は満足そうな顔をした。


 と、そこで美優の頬を撫でていた京介の指が顎へと移動し、首筋を通って今度はブレザーから顔を覗かせるブラウスのボタンへと伸びる。


「ほら、もっと恐がれよ。絶望的な顔をしろよ。大好きな男がいるのに他の男に汚されるんだぞ? そんでもってことが終わったときにはお前は俺に夢中だ」

「そうですか……」


 どうやらこの男は自分のテクニックに自信があるようだ。この男のテクニックでこれまでどれだけの女を自分の性奴隷にしてきたのだろうか?


 それは美優にはわからないが、少なくともこの男にどれだけのテクニックがあっても彼女の心は大河に向いてる。


 むしろ、自分のテクニックを過信して、それでもなお大河に想いを寄せる自分を見て自信を失う彼の姿が見てみたいとすら思う。


「なかなかの上物だな。他の女も悪くないがお前は格別だ。その反抗的な顔もこのみずみずしい肌も俺だけの物にしたくなる」


 美優のブラウスのボタンを第三ボタンまで外した京介は、舌なめずりをしながらブラウスから顔を覗かせるブラと谷間を眺める。


 が、しばらく胸を堪能したところで彼は再び美優の顔を見やった。


「まずはその反抗的な唇をお仕置きしなければな……」


 そんな気持ち悪い言葉が美優の背筋を凍らせる。ホントよくもまあそんな黒歴史名言が思いつくものだ。


 最低でも唇を奪われることは覚悟をしていたうえに、諦めてもいた美優だったが、その京介のセリフに拒絶反応を起こす。


 唇を接近させてくる京介に思わず顔を背けた。


 が、すぐに美優は頬をぶたれると両手で顔を掴まれ京介の方を向けられる。


 その気持ち悪さに思わず彼に唾を吐いた。


「そうかそうか嫌か。いいぞもっと不快な顔をしろ。悔しいだろこんな目に遭って。屈辱的だろ?」

「………………」


 そう言われて美優は初めて京介に唇を奪われることが屈辱的であることに気がついた。


 こんな男の言いなりになんてなりたくない。そんな彼女の率直な気持ちが、彼女を行動させた。


 長座状態の自分に跨がってしゃがみ込む京介の股間めがけて縛られた足を思いっきり振り上げる。すると彼女の両膝が京介の股間に直撃し、直後彼の表情が歪んだ。


 思わず京介は飛び上がると彼女から離れてその場でけんけんをする。


 美優にはけんけんの理由は理解できないが、一定の効果があったことは理解できた。


 とっさの判断で膝蹴りをお見舞いした美優だったが、すぐに自分のしたことが彼を怒らせたことにも気がつく。


「舐めんじゃねえぞ……」

「…………」

「てめえこっちが下手にでりゃいい気になりやがって」


 下手に出られたつもりはないが、京介は感情を爆発させてしまったようだ。股間の痛みが落ち着いてきたのか京介は地面に転がっていた鉄パイプを手に取ると、それを引きずりながら美優の元へと戻ってくる。


「俺のことをなめんじゃねえ」

「別になめていないです」

「うるせえっ!!」


 そう言うと京介は鉄パイプを振り上げた。


 マズい……。


 美優は思わず目を瞑る。そして、自分の神様の顔を思い浮かべるのである。


 ――中谷くん助けて中谷くん助けて中谷くん助けて中谷くん助けて中谷くん助けてっ!!


 そう必死に念じたときだった。ガラガラと倉庫の扉が開く音がした。


 その音に思わず瞳を開くと、そこには美優の神様がいた。


「おい、生田っ‼︎ これはどういうことだっ‼︎」


 そう叫ぶ神様の姿を見た瞬間、美優は思わず笑みを零さずにはいられなかった。


――――――


新連載始めました。

えっちいやつです。

よろしければこちらも読んでやってください。


『全寮制の女子校の教師になった俺、女子校生と女性教師に狙われる』


https://kakuyomu.jp/works/16818093083475753662

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