第25話 たくしぃ

 確信できるようなことはなにもないが、よく調教されたヒロインたちを見た俺は不安になった。


 もしかしたら京介は俺が思って言うような聖人ではないのでは?


 そもそもここは本当に『星屑のナイトレイド』の世界なのか?


 仮にそうだとしたらどうして京介がヒロインをぞんざいに扱うようなことをする?


 そんな疑問が浮かんではかき消し、さらに浮かんではかき消そうとするが消えそうにない。


 今になって見ればおかしなことはいくつだってあった。袴田美優があんなババアに洗脳されるなんてシナリオはなかったし、袴田の性格だって俺が知っている袴田とは違う。


 それでも見た目と名前が同じだからって俺は勝手にこの世界を『星屑のナイトレイド』の世界だと思い込んでいた。


 仮に違和感を覚えても、それはシナリオに描かれたなかったことで、この世界はしっかりシナリオ通り進んでいると思っていた。


 まさに正常性バイアスである。


 が、さすがにちょっとしたイレギュラーなんて言葉では表現できないような事態が起きているのかも知れない。


 京介に幸せにしてもらえと袴田を彼のもとに送った俺だったが、自分のその選択があやまりなのではないかと思わざるを得なくなってきた。


 最初は歩いてカラオケへと向かっていたが、気がつくと駆け足になっていた。


 彼らがいつも利用しているカラオケの場所はわかっている。というかそもそもこの街にカラオケは一つしかない。


 ということでカラオケへとやってきた俺は受付のお姉さんを素通りして非常階段を上る。そして、廊下を歩いてドアの窓ガラスの隙間をさりげなく覗きながら中を確認していくがそれらしき二人の姿はない。


「あ、あの~」


 仕方がないので近くを歩いていた店員のお姉さんに声をかけることにした。


 お仕事中にごめんね?


「ここにこの制服を着た男女はいませんでしたか? 最初は男子一人に女子数名だったのですが、途中で女子の大半は帰って今は男女の二人だけのはずです。そこに合流したいのですが見つからなくて……」


 なんて質問をすると店員さんはぽかんと首を傾げていたが、すぐに何かを思いだしたように笑みを浮かべた。


「そのお客様でしたらすでに退店されましたよ。女性のお客様が具合を悪くされたようでお連れさまが肩を貸して退店されました。救護室を案内したのですが不要だと言うことだったのでそのままお見送りをさせていただきました」

「…………」

「お客様?」

「え? あ、なんでもないです。ありがとうござます」


 ということで店員さんに頭を下げると店を飛び出す俺。


 おいおいなんともキナ臭くなってきたぞおい……。なんだか嫌な予感がして店を飛び出した俺だったが、周りを見回しても京介や袴田らしき姿は見えない。


 ま、まあそれもそうか……。


 そうなると彼らの居場所を掴むのはなかなかに厳しそうだ。ヒロインたちの連絡先も知らなければ教えてくれるという保証もない。それどころか俺は袴田の家の場所すら知らない。


 さて、どうしたものか……。なんとかして彼女たちの姿を見つけ出さなければならないのはわかるのだけれど、どうすれば良いのかわからず途方に暮れる俺。


 い、いや、待て……。


 俺はポケットからスマホを取り出すととある場所に電話をかけることにする。


『はい、もしもし……』

「おい咲、袴田の家の場所は知らないか?」


 知っているかどうかは知らないが、俺の知り合いで知っていそうな奴はこやつしかいないので聞くしかない。


『は? い、いきなりなによ……。ってか、おにいまだ美優ちゃんの家の場所も知らないの? さすがに引くわ……』

「戯れ言は良いんだよ。それよりも知ってるのか?」

『え? く、詳しくは知らないけれど田伏駅前の新しいマンションに住んでるって言ってた気がするけど……』

「わかった。ありがとう」

『え? ちょ、ちょっとおにい、そんなこと聞いて何する――』


 と、咲の言葉を聞き終える前に電話を切ると道路に出てタクシーを止める。


 金? まあなんとか田伏駅に行くぐらいには持っているけれど、明日以降は地獄だわな……。


 が、背に腹をかえられるはずもなく、タクシーに乗り込むと運転手さんに「田伏駅まで」と目的地を伝えた。


 それから車で10分ほど揺られて田伏駅へと到着した。まあ、電車に乗っていたら乗り換えとかで15分はかかっていただろうから多少は早く着けたことになる。車から降りて辺りを見回すといくつも立ち並ぶマンションの中から一際新しそうなマンションを見つけるとそこへと駆けていった……のだが。


 さて、どうしようか……。


 おそらくこのマンションだとは思うけれど、部屋番号がわからない。どうせ管理人に袴田さんを呼んで欲しいと頼んだところで教えてくれるわけもない。


「いや、マジでどうすんのこれ……」


 勢いでタクシーまで使ってやってきたが家が特定できなければ袴田の家族に接触できない。


 オートロックのマンションのドアの前で突っ立っていると「あら?」と声をかけられた。


 うおっ!! 奇跡っ!!


 ということで俺はさっそく袴田の母親の元へと駆け寄った……はいいが、これからどうすればいい?


――――――


新連載始めました。

えっちいやつです。

よろしければこちらも読んでやってください。


『全寮制の女子校の教師になった俺、女子校生と女性教師に狙われる』


https://kakuyomu.jp/works/16818093083475753662

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